「ももいろクローバー」がファンを招待した「公開調印式」の顛末

去る2月上旬。女性アイドルユニット「ももいろクローバー」がとある大きな企てを発表しました。

2010年3月3日という「桃の節句」に、マスコミ各社の他、ももクロちゃんファン100名を無料で招待して「公開記者会見」を執り行う。そうブチあげたのです。会見の内容は極秘。

そしてファンがこの会見に応募するための条件は

「自分が持っているブログやホームページ等でこの記者会見の内容を掲載すること」
「この先もももいろクローバーを応援すること」

の二点です。

総称して「サポーター記者」という名のもと、他の「本物」のマスコミ方々に混じって、我々サポーターという名のニセ記者が会見で知り得た内容をブログにレポりなさい、との由。ちょっとした「取材ごっこ」とも言えます。

取材で得た内容や画像は自由にブログに掲載していいらしい。自分には「この」はてなダイアリーがあるし、この先ももクロちゃんを応援することもやぶさかではありません。ってことで応募期間が始まってすぐに参加表明のメールを送りました。これでももクロちゃん側の「審査」に通りさえすれば取材オッケーというわけです。

今回のファンを集めての会見に、なんらかの「胎動」を予感せずにはいられませんでした。はたしてそれは新曲の発表なのか、あるいはメンバーの「新加入」もしくは「脱退」が行われてしまうのか、それともたとえば「次のシングルが5位以内に入らなければ解散」などのむごい企画を用意しているのか。無責任に想像ののりしろがあります。

後日「ご招待」を伝えるメールを着信。「厳正なる審査の結果、貴方様がご当選されましたので、記者会見のご案内をさせて頂きます」とのことです。まずはよかった。しかし応募者一人一人のサイトに目を通すという名の「審査」が行われた公算は高く、今回の更新がももクロちゃんサイドにだだ漏れだと考えると、ヘタなことも書けません。

さてイベント前日。再びももクロちゃんからメールが届きました。そこにはももいろクローバー調印式」という新たな文言が追加されておりました。調印式……たしか「キン肉マン」の超人オリンピック編でキン肉マンウォーズマンが「調印式」に同席していたはず……。「契約」を取り交わす意味での用語でしょうし、ボクシングなど格闘技方面でよく聞く言葉な気もします。

とにかくなにもかもが秘匿されたまま、ももクロちゃんが「調印」すなわちサインをすることで、なんらかの「契約」を交わすということが、これで確定的になりました。しかし何にサインをするのだろう……?

開場

3月3日。その日を迎えました。

会場は「明治記念館」。外観からして趣深く、結婚式など婚礼に使われることの多そうなホールです。足元の絨毯敷きもふかふか。

入場を待ちわびるヲタの群れの中、通路に置かれているソファには本物のマスコミの方々や、あと妙齢の女性の方々が集っていました。聞けばその女性達、すべてももクロちゃんたちのママ、すなわち「ママクロちゃん」の方々らしい。よくイベント会場にもいらしてるようです。ちょうどメンバーと同数の6人集っており、特に静岡県在住の百田夏菜子のママが上京して6人揃うのはレアだそう。

しばらく待機しているとチョコリサ君がとある成人男性の姿を指さして「あれは大西ライオンではないか」。スーツ姿の女性と打ち合わせをしている様子の男性の顔を見ると、たしかに吉本ミュージカル芸人の大西ライオンです。大西ライオンはやおらソファから立ち上がってトイレに向かい、トイレから出てくると、上半身はそのままながら、下半身だけが腰布を巻いた「ライオンキング」に化けていました。

そのままの姿で会見場に入っていく大西ライオンの後ろ姿を見届けながら、

「おそらくももクロちゃんが調印式を終えたあとで大西ライオンがサプライズ出演し、この先いろいろあるけど『心配ないさー!』と雄叫びを挙げて万事解決するのだろう」

そんな茶番劇を勝手に予想をするより他ありません。

受け付けが始まっていたので列に並びます。本名を告げて身分証明書を呈示するなど、完全に身分バレすることになりましたが背に腹は代えられない。もうももクロちゃんサイドの手のひらの上です。そこで口頭で告げられた会見場内の座席番号は「26番」でした。今回の会見を告知した段階からメールで応募した順番にこの番号が割り振られるらしく、告知から2日後に応募したぼくの番号はファン100名の中でもかなり「若い」番号ということになりそう。

会見場に入ると重厚なテレビカメラが何台もセッティングされてました。ざっくり数十人のプロの取材陣。それ以外にもスーツを着たような「関係者」が多数うろついており、事務所もレコード会社も身内も、そして約100人(実際もっと多かったかも)のファンも総集結というお祭りのような状態が、このイベントの重大さを物語っています。

自分の与えられた「26番」の座席は前から2列目の好位置でした。1列目はマスコミなどの関係者席だったので実質最前列。しかもど真ん中。しかもしかも通路席。これ以上はもうなにも望みようもなく「神席」といってもよいポジションで、こんなことで早くも個人的に昂ぶってしまいます。

通路を挟んだ右隣には偶然ピストルさんがいました。何度もイベントやライブなどでは一方的にお見かけしていますし、web上でも交流があるのですが、一応初対面という形でご挨拶。ピストルさんもぼくなどより遥かに的確で面白いレポを書かれるはずなのでご覧になるといいと思います。

調印式

少し予定時刻より遅れてイベント開始です。ここから先はマスコミ方々の手堅い記事や、メモを取ったりしてるきちんとしたサイトさんがレポを挙げてくださると思うので、印象的だったことを漠然と書き連ねていきます。

総合司会が元テレビ朝日アナウンサーの辻よしなり。「調印式」という名目との兼ね合いでどことなくプロレスっぽい人選です。普段ほとんどのイベントはももクロスタッフの人が仕切っているはずなんですが、こうして「外部」から登用するのって世の中とのつながりにおいてとっても大事。

辻さんはメンバーひとりひとりと当意即妙のトークを展開していました。結局このイベントの終了時まで、お芝居的な進行から事務的なアナウンスまで、喋りに関しては本当に一手に担っていて、辻さんなしでは成立しなかったんじゃないかと思えるほど、ばっちりハマった起用でした。

やがて辻さんの呼び込みでももクロちゃん入場! なぜか赤ジャージ上下を着用しています。会場の後方から自分のすぐ横の通路を通って壇上に向かいました。すぐ真横を通過したためどんな顔しておればいいやらわかりません。

と、さっそく告知があることには、これまでインディーズでCDをリリースしてきたももいろクローバー。このたび「ユニバーサルミュージック」の「ユニバーサルJ」からメジャーデビューすることが発表されました。それを受けての「記者会見」であり「調印式」だったんですね。なるほど重大事です。そしてきっとおめでたい。

続いてユニバーサルJの担当者2名が、自身の肩書きと名前の入ったネームプレートを持って、まるで「笑っていいとも!」のテレフォンショッキングのゲストのように壇上に登場しました。辻さんに指名された担当者の方のひとりが立ち上がるなり、昨年のももクロちゃんとの出逢いや実際にライブで見たその熱量に感銘を受けたこと、それが今回のメジャー契約につながったことなどを、とても熱い言葉で語っていました。いい演説だったと思います。

しかしそう易々とメジャーデビューさせるわけにはいきません、的な辻さんからのお達しが。メジャーデビューするには最後の関門をクリアしてもらわなきゃ、という流れでスクリーンに映し出されたお題が「体重測定」でした。「楊貴妃クレオパトラの時代から続く美女の系譜。アイドルは体重が軽くなくっちゃいけない」という説得力がありそうななさそうな詭弁のような話を進めながら、ももクロちゃんは「体重測定」をすることになったのです。

『身長-100×0.8>本人の体重』

「レコード会社が定めている」というこのアイドル用の計算式にメンバー6人全員の体重が当てはまっていなければメジャーデビューはさせないよ! という奇妙な展開になったのです。

ただ、この計画についてももクロちゃんは「聞いてないよー!」というリアクションを特にしてなかったので、おそらく何日か前から知らされてはいたのでしょう。ジャージも体重測定のためでした。

阿鼻叫喚の体重測定が始まります。

体重測定

町の銭湯の脱衣所にでも置いてありそうな年季の入ったアナログ式の体重計が登場。

「公式計測員」と辻さんから紹介された、見るからに怪しい風体の男女2人組ペアが白衣に身を包んで、ももクロちゃんの体重を計測し始めます。公衆の面前で体重を量るというのは十代の少女にとってはちょっとしたはずかしめであるかも知れない。しかし「この結果にメジャーデビューがかかってる」というていですから、そんなことを吹き飛ばすくらいの緊張感を漂わせながらひとりづつ体重計に乗ります。

でまたこの体重の軽いこと軽いこと!

右端から早見あかり玉井詩織百田夏菜子有安杏果佐々木彩夏という5人のメンバーが、続々と規定の体重をクリアしていきます。むしろみんな軽すぎるくらいで、その体重が計測されるたびに会場には驚きの声があがります。特に玉井詩織(しおりん)は身長154cmほどで体重がわずか「33kg」でした。日ごろ見てても特に痩せすぎとは思いませんが、こう数字で眼前に示されると、もう少しお肉つけたほうがいいのでは…という親心にも苛まれます。

そして残りは高城れに1人を残すのみになりました。「れにちゃんもきっと大丈夫だろう」。なんの根拠もなく、うすらぼんやりとそんなふうに安閑としていたぼくは、ひとつ大事なことを忘れていました。

れにちゃんが「オチ担当」であることを…!

高城れにの体重測定。身長から導き出された規定体重「46kg」に対して、まさかの「46.8kg」。800gオーバーという測定結果で、すなわち、不合格…! それまでメジャーデビューを控えてほんわかムードだった会場が一気に緊迫…! というような空気に包まれてしまいました。するとそれまでにこやかに座っていたユニバーサルの担当者の2人までもが表情を曇らせ、なにやら顔を付き合わせてのコソコソ会議を開始。

やがてユニバーサルの担当者は辻さんのところに耳打ちをしに行きます。辻さんが代弁して言うことには「れにちゃんが残念でしたので、今回は本当の契約ではなく『仮契約』ということにさせてください」「れにちゃんは4月29日までに体重を46kg以下にしてくること」という条件が課されました。うなだれて涙目のれにちゃん。

この展開はあらかじめ仕込まれたもののような気もするんです。失敗しないとオチがつかない。かといってれにちゃんが46kg以上ある、もしくはこの日まで絞りきれなかった、というのも他のメンバーの余裕のクリアぶりに比べるとやや腑に落ちない気もします。いったいガチか演出か。つい妄想の迷宮に迷い込んでしまいます。

ともかく最後は「仮契約」ながらも無事に「調印」が終了。これでメジャーデビューが仮決定したということになりました。やぁめでたい。

この後は本物の記者からの質問や、「事前に」ファンからメールで募集していた質問がももクロちゃんにぶつけられたりしてました。そのファンが「ユニバーサルからデビューする」ことを既に知っている前提で質問を寄せていて、またその質問を辻さんというかももクロ陣営が採用していたのも、また謎だったんですけれども。今回のイベントが始まるまでメジャーデビューのことはファンには知らされていなかったはずなのでは…。

さまざまに凝らされた仕掛けの妙を楽しみつつも、重箱の隅をつつきたくなるような数々の疑問に頭をかきまわされながら、記者会見は幕を閉じました。ももクロちゃんはお色直しということで一時退出。会場の椅子も撤去作業が始まって、ぼくの夢の神席タイムもこれにて終了です。

第二部

休憩時間の間、ももクロちゃんのこれまでを振り返るちょっとしたVTRがスクリーンに流れました。まだメンバーが今とは違っていたころの路上ライブの映像、オリコンチャートで上位を取った瞬間の記録などがコンパクトにまとめられています。

そしてこのVTRの最後に発表されたのが、2010年5月5日に発売されるという新曲のタイトルです。その名も行くぜっ!怪盗少女。そういえばユニバーサルの人も会見の中で今年のももクロちゃんのキーワードは「怪盗」だと熱弁していた気がします。ももクロちゃんがみんなのハートを盗むみたいな意味合いもあるんだそうです。

ほどなくして、今度はさきほど調印式がおこなわれたのとは180度回転した会場後方のステージで、メジャーデビュー第一弾シングル「行くぜっ!怪盗少女」が、まだ発売は2ヶ月以上先ながらもさっそく披露されました。あとでもらった紙資料によると作詞・作曲・編曲は前山田健一氏。「きらりん☆レボリューション」などアイドル・アニメ関連の曲をつくっている人のようです。当日会場にもいたそうな。

完全に初披露の「行くぜっ!怪盗少女」は、四つ打ちで高速BPMという手堅い雛形ながらセリフっぽい歌い回しなどさまざまなギミックが盛られていて、いい意味でケレン味のある、にぎにぎしい一曲でした。「怪盗」ということであなたのハートいただきますというような歌詞や、メンバーの名前を散りばめた自己紹介のようなパートもある。サビでいきなり転調して超メジャーなメロになっちゃうのは「ももいろパンチ」と同じ印象。

振り付け的にも、ももクロちゃん達の身体能力の高さやダンスのキレなどを生かすようなバレエみたいな回転、メンバー数名による側転、跳び箱、組体操などがあって、見る人を飽きさせません。これまでももクロちゃんのひとつの持ち味であった「和風」なテイストは今回衣装にだけ残っていて、曲調からはあまり感じられないのですが、総合的に超アガる曲ではありました。

あとはこういうオリジナル曲をぐいぐい増やして欲しいというのが率直な願いです。

歌披露も終わり、あらためて曲が終わったあとの挨拶やマスコミ向けの撮影タイムがあった後、いよいよ今回のイベントでファンが殺気立つ最重要ポイントがやってきました。

俺たちの撮影タイム。

その模様をブログやホームページに公開するのが使命の「サポーター記者」という名のもとに、合法的にアイドル撮りたい放題という天国への階段です。

アイドルによっては「撮影会イベント」なんてものがよくありますし、「ももクロちゃんとの2ショット撮影会」なんてのも催されている昨今ではありますが、それでも貴重な機会であることには変わりがない。大半のサポーター記者はカメラを持参していたようでした。中には「脚立」をわざわざ持ってきたり、超本格的な望遠レンズとかそれどんだけ伸びるだよくらいカッコいいカメラを構えていたりするファンもいます。

ただしこれは会見中終始延々と撮りたい放題というわけでは残念ながらさすがになく、全員参加でほんの1分か2分ほどの撮影タイムが設けられているだけでした。これは仕方がないです。贅沢言っちゃいけない。

個人的なことですが、これまでデジカメは恥ずかしながら所持した経験が一度もなく、このももクロちゃんイベントに参加するため、生涯初デジカメをついに購入しました。初めて本格的に使用するのがこのももクロちゃん現場ということになるわけです。何のひねりもないド緊張でカメラを持つ手が震えます。

はたしてスタートした撮影タイムでは、ファンの方達が冷静と情熱の間でここぞとばかりにシャッターを切っていく中、ぼくも負けじと覚え立ての「連射機能」という超絶ハイテクニックによって写真を撮ることに成功しました。うしろめたいことが多いこの世の中で、堂々オフィシャルのアイドル画像。ありがたいことです。

次に載せる画像はぼくが夢中で撮ったものです。


れにちゃんが見てる




れにちゃんがしぼんでる


心配ないさ

そんな我々ニセ記者による撮影会も終わり、本物のマスコミからの「囲み取材」のあと、最後に会場を出るとき、ももクロちゃん6人がズラッと居並んでの「お見送りハイタッチ会」がありました。ハイタッチ会は意味のある言葉を交わさなくていいので楽です。ひとりづつバチバチとハイタッチをしていって、ようやくすべてのイベントが終了しました。

マスコミも大挙押しかけ、ファンを無料で集めて、サプライズでいろんな発表をしました。上品な会場で、盛大なイベントでしたし、芸能界はこうやって仕掛けて行くんだな、とも少し思いました。

ちなみにロビーで下半身にだけ腰布を巻いていた大西ライオンは、イベントにこそ結局最後まで出てきませんでしたが、実は日テレ「おもいっきりPON!」芸能コーナーのレギュラーで、ももクロちゃんに直接取材をしている様子が翌日に放送されていました。そこにはいつものフル装備の大西ライオンの姿が。

昨年ももクロちゃんが土日週末にETC割引1000円でワゴン車に乗って全国をぐるぐる回っていたという話を展開しながら、ももクロちゃん全員からおなかをペチペチ触られるなどしており、羨ましいかぎりです。

ももか ちょっといいですか?(突然ライオンのおなかをさわる)
ライオン どういうことよ?
ももか すごい触りたいおなかしてる
かなこ イイ感じに(おなかが)はね返ってくる
ライオン なにがですか!
かなこ (脂肪で)弾力がすごいんですけど
あかり (肥満が)心配?
ライオン 弾力の中に筋肉あるでしょ!
あかり 心配…あるかな?
かなこ でも!?
ライオン&ももクロ 心配ないさー!


このイベントでももクロちゃん、いろんな目標をぶちあげてました。

紅白歌合戦オリコン1位。そしてリーダー百田夏菜子が目を輝かせながら語っていた夢は日本武道館でライブやってお客さん全員と握手したい!」。夢の向こう側に「お客さんと握手」があるのはももクロちゃんイズムですね。

究極的な目標は「売れる」ことだと思うんです。でも、ルックスがいいとか、ダンスが優れているとか、歌唱力が抜群とか、曲がいいとか、どれも後押しする材料にはなりますが、「売れる」決定的な要因にはなり得ません。これらの要素がすべて備わっていても、売れないときは売れない。ももクロちゃんもそんないばらの道に足を踏み入れた。

まだ先は正直険しいです。

とはいえももクロちゃん達のチーム感、迫力、けなげさ、無邪気、お茶目、妹っぽさ。誇れるものや頼れるものはいくらでもあります。アイドルというのは儚い存在だと思うのですが、ももクロちゃんは稚気の中にも底知れないたくましさを兼ね備えてもいるようで、ひょっとすると本当に「心配ないさー!」、なのかも知れません。