「消耗戦2」は「山里亮太トークライブ」だった

1月22日深夜から23日早朝にかけて新宿ロフトプラスワンでおこなわれたお笑いライブ「消耗戦2」。

複数のプレーヤーによる大喜利イベントでありつつ、他のイベントとの差異化を謀ることには「設定するお題がたった1個だけ」という点が完全に特殊です。イベント中の4時間半は、ひたすらその1個のお題に添って、さまざまな出題がなされます。

前回が好評だったらしく、今回の第2弾に足を運びました。

ちなみに前回のテーマは「トランプマン」。トランプマンにまつわるお題でひたすら大喜利を続けたそうです。「本当に成立するの?」「ダレない?」と不安半分ながらも期待半分。webに散っているはずの前回分のライブレポに目を通すこともなく、ほぼ白紙の状態でイベントに臨んだのです。

大喜利の回答者は、バッファロー吾郎・木村、作家のせきしろさん、劇団「ヨーロッパ企画」の上田さん、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹(「爆笑レッドカーペット」でジョンレノン役の人)という4名。そして司会は南海キャンディーズ山里亮太でした。

で、蓋を開けてみれば、これがめちゃくちゃおもしろかったです。

たとえば木村は得意のプロレスや漫画ネタを繰り出すのに加えて、ベテラン芸人らしくバカ笑いをしたり客を煽る拍手を入れたりとイベントに欠かせない盛り上げ役でした。ピース又吉は文系丸出しで「芸人脳」とは種類の違った言語野が脳で働いているような感じの回答を繰り出します。

あとは、隣に並んでいた上田さんとせきしろさんが、メガネ、ヒゲのはやし方、しゃくれ気味のあごなど、顔面の造作がめっぽうそっくりだったことばかりが印象に残っています。両者の回答の傾向に差異を見出すことがついぞできませんでした。おもしろかったのは無論のことであります。

前回のお題は「トランプマン」。今回のお題は「浜崎あゆみ」でした。お題が発表される前の開場時からロフトプラスワンの店内には浜崎あゆみの曲が既にばりばりかかっており、それは休憩中や公演後の追い出しの際にも統一されていました。

ひたすら浜崎あゆみについての大喜利が進んでいきます。それぞれの回答者が持ち味を発揮しています。しかしながら、なによりぼくがライブ中ずっと思ってた感想としては、ただ一点、「山ちゃんの司会がすごすぎる!」でした。

回答者がスケッチブックで回答をどーんと出す。ひと笑いがまず起きる。起きない場合もある。ケースバイケース。山ちゃんはその回答の笑いを見事な「あと乗せトーク」によって、すぐさま何倍にも増幅させて、よりプラスの方向に転がしていくんです。

最短距離でいろんなとおりいっぺんではないフレーズをぶつけていく。曖昧であったり凡庸であったりという類のことは、4時間半、ほとんど言いませんでした。勢いづいてスベった場合にも、会場の空気をすぐに察知して「ごめん今すごい温度差を感じてる」的なフォローを入れるのです。

もちろんこれまでも山ちゃんのフレーズ力は注目の的でしたが、本人の好感度がやたら低かったりするせいか、なかなか正面きって語られることはなかった。でも、マジすごい。

他の回答者も含めた全体の印象としては「山里亮太と四人の小人達」というような趣でした。深夜でお酒も入ってダラッとした空気になっているところで、司会の言うことを聞こうともせずフリーダムな回答者4人と、それをときに一喝したり、あるいは自分も飲みながら全力で乗っかったり。

大喜利イベントの司会者のタイプには、自分の意見を差し挟まずに淡々と進めていく、あるいは自分の色を押しだしていく、その中間、さまざまあるのだと思います。それは司会者の力量を云々する以前の問題として、イベント全体の構想や理想型とも密接に関わってくる部分だと思います。

前回もきっとこんな司会ぶりだったんだな、と思わせるほぐれたリラックスムードが山ちゃんにはあり、主催者側(それこそ回答者のせきしろさん自身だと思うんですが)も、こういう「山ちゃん劇場」を望んでイベント打ってるのだと思っています。実際その目論見は成功しているようです。

本当におもしろかったときには豪快に笑う。回答にはかぶせる。明らかにスベってたり客に伝わってないなと判断したりしたときは真顔で「スベったとき用」のコメントを繰り出す。出演者もいじる。ボケもツッコミもオールラウンドのモンスター。山ちゃんに死角はありませんでした。

簡単におこなわれたコーナーを辿っていくと、「浜崎あゆみに単語をつけたしてかっこわるくしてください」「浜崎あゆみが怒った理由」などのまっとうな大喜利。「“浜崎あゆみ”に検索ワードをひとつ追加して目的のヒット数をめざせ」というgoogleを使ったゲーム。

また「浜崎あゆみの家の本棚にある本」を4人で列挙していき、その「本棚」をWebサービスを使って実際の表紙画像で再現していく文系的なコーナー。「浜崎あゆみが描いたコミック(全6話)」の目次と著者コメントを考える、スケールの大きな大喜利

そして「“あみだくじ”で浜崎あゆみを歌姫にする」という無意味の極北。真っ白なホワイトボードに一人づつあみだくじの線や言葉を書き込んでいって、最終的に上の段の「浜崎あゆみ」が下の段の「歌姫」につながるようにするというものです。

これは最終的に「さかなクン」が「太平洋」に出て魚になり、「吉田栄作」は「そうじ当番」になり、「裏切り者」は「のたれ死に」、そして無事「浜崎あゆみ」は「歌姫」になりました。「全員わかってる」前提で、共同作業であみだくじによって物語性を構築し、小宇宙を創造します。

このあみだくじは文字で説明してもわけわかんないと思います。「あゆを、あゆを歌姫に…!」と熱望する山ちゃんのあみだくじの実況がとにかく情熱的でした。すべては深夜4時ごろの脳みそ溶けかけた時間帯でのお戯れです。

回答者4人が各自に与えられた持ちポイントを減らしていき、最終的にいちばんポイントの少なかった人が優勝なんですが、時間が経つにつれて、そういう競技性とか関係なくなって、「みんなで面白いもの作ろうぜ!」的なチームワークが芽生えてきました。面白けりゃなんでもいいです。

山ちゃんはこの22日、昼間の「笑っていいとも!」テレフォンショッキングに、関根麻里からのつながりでゲスト出演していました。スタジオアルタには山ちゃん宛の業界関係者やファンからの「花」が、なんとひとつも送られていませんでした。これはそこそこ異例のことです。

「これは山ちゃんの嫌われキャラを演出するためでは?」「わざと隠しているだけなのでは?」とも邪推しましたが、仮に本当に送られてきてるとして、いいともサイドの判断で花を画面に出さないというのはありえない(先方が納得しない)と思うので、本当に来なかったのかも知れません。

「消耗戦2」での山ちゃんは、大喜利の回答者が長考だったりするとき、「芸能ゴシップ」という名の他のタレントへの悪口をトークのあいだに挟んでいくという司会術を駆使しています。テレビ局ですれ違うタレントへのダイレクトな陰口です。

客を飽きさせないためのファンサービスというのはわかるのですが、「なるほどこれは人気が出ないはずだわ…」などと正直思ったりもしました。

でもビール片手に客席のなかをグルッと2周してお客と乾杯してみたり、とサービス精神もあるんです。「お笑いに身を捧げている」という一点のみにおいて、山ちゃんには絶対的な信頼が置けるな、と感じているところです。信用はできないけど信頼はできる。