少年少女トークライブ「無口」

23日(土)に神保町花月で吉本の女性お笑いコンビ「少年少女」のトークライブがおこなわれました。黒髪ロングで和風顔の阿部と、金髪メガネで出っ歯の坂口。そのトークライブの公演タイトルは『無口』です。

神保町花月はまだ完成して間もないらしく、綺麗な建物でした。同じ建物のなかに映画館も併設されているようで、現在は「高峰秀子」の映画をフィーチャーしている様子。さすが神保町という独特の雰囲気です。

座席にすわって幕が開くと、少年少女のふたりはスケッチブックを持って登場しました。

ふたりとも椅子に腰かけて黒マジックで何ごとかさらさらと書きつけます。客にスケッチブックを見せつけることには

「どうもー」
「少年少女でーす」

とかなんとか、文字オンリーで。

ふたり揃ってまったく声を発しません。筆談です。さすが「無口」というタイトルに偽りはない。

会話を進めていきます。坂口が前夜にビールを飲んだらしく、阿部が「何杯?」と聞くと坂口が「5杯」。阿部が「350ml?」と缶のサイズを問うと坂口が「YES!」。そんなやりとりが延々続きます。坂口の書いたことに阿部が思わずウケて反射的に笑い声をあげてしまった部分はありましたが、基本的には何も声を発しません。

「いくら『無口』とはいえ、もしもこのまま一時間、最後まで筆談だったら……」

次第にそんな不安に取り憑かれてゆきました。


今回のライブは1時間の公演、価格も1,000円という設定。こういうサイズの公演は吉本の若手にわりと多いんですね。インスタントですばらしいことだと思っています。気軽に行きやすい。

とはいえ、さすがに「1時間まるごと筆談」というのはアグレッシブに過ぎる。歴史に名を残す可能性があるいっぽう、歴史からその名を抹消される可能性も大いに秘めています。あるいは最初から「※筆談オンリーのイベントです!」と謳っていれば、それはある種の大喜利イベントなので、ド深夜にうまくやればハネそう。

5分くらいが経過したあと。

「やめようか?」
「やめる!」

みたいな漠然とした示し合わせと共に筆談モードは解かれ、「…はい! というわけで」と少年少女のふたりは「できるかな」最終回のノッポさんのようにようやく話し始めました。

永久にも感じられる筆談でした。


そこからは開演前に客に配布されて速やかに回収された「事前アンケート」をもとにトークが進んでいきます。

「事前アンケート」の内容は「なぜ少年少女のライブを見にこようと思ったのですか? 質問やご意見など、何でも良いので自由にご記入ください」というもので、あとはどうぞ自由に筆記してくださいと言わんばかりの白紙スペースがたっぷりと用意されており、ぼくもそんなアンケートに思いつくがままのでたらめを開演前に記入していました。

自分の書いた内容がステージ上の阿部に読みあげられました。

といっても別に内容が面白いから選ばれたとかじゃなくて、ランダムに読んでいった感じだったので、ただの運なんですけれども。

ぼくが書いた内容は、少年少女を知った発端がご多分にもれず「爆笑レッドカーペット」でのショートネタであり、ひっそりとした空気感がなかなかブレない、その地味さ加減というのが好ましく、またPerfumeチョコレイト・ディスコ」を採りいれたネタがあるのは自分のようなPerfumeファンにとっては嬉しいことである、と。

また、いろんな女性お笑い芸人がいるけど、過激な下ネタに走るのでもなく、身体をやたらと張るのでもなく、鳥居みゆきみたいになるのでもなく、しいて言えば学生時代の「図書室係」みたいな根暗なひっそり感を根底的に持っているような、他にあまり類を見ない芸風であるから、文化系の男子あたりにウケそうな感じもありますね。

……というような主旨のことでした。

そんなようなことを開演前の短い時間にきたない手書きの文字でダラダラ書いてみたところ、それを阿部がさもイヤそうにけだるいイントネーションで読んでくれたので、ハガキ職人のような気持ちで内心浮き足立った、というわけです。最後のほうに「図書室係」のフレーズで客席がドッと沸いてくれたのでアガりました。


ひととおりアンケートを読んだあとは今回のメイン企画。「美容に目覚めよう!」ということで、ふだん自己流でメイクをしているというふたりに、プロのメイクさんがいつもとは趣の違ったメイクをする、というコーナーがおこなわれました。本人たちは「ジャスト」みたいだね、と言ってました。

まずは茶髪メガネの坂口が「ギャルメイク」。

いつもつけているメガネを外し、頬になにかしらをはたき、つけまつげをつけ、つやつやリップを塗り、目のまわりにラメをまぶして、完成です。もともと坂口は出っ歯なのを除けば、そう残念な顔でもないので、なんか米倉涼子のようになってました。ステージから少し離れた座席だったからそう見えただけでしょうか。

続いて阿部。

最初は「ギャル風に変身したい」と表明した阿部でしたが、メイクさんに「顔が和風だから似合わない」という理由で却下されてしました。たしかに阿部は中崎タツヤの漫画「じみへん」に出てくるような素朴な顔をしています。

そんなわけで髪だけをいじることになりました。ひたすら髪をクルックルに巻かれてゆく。

阿部はお金がないときに一度新宿のキャバクラに面接に行ったあげく落とされた経験があるそうです。髪をクルックルに巻かれているのを見た坂口は「今ならキャバクラの面接に通るよ」。

結果的に明らかにかわいくなりました。「神保町花月 楽屋裏ブログ」にそのときの写真があります。世慣れた巻き髪とひきつった笑顔とのコントラストが印象的です。

しかし阿部はおしゃれが非常に苦手らしく、せっかく巻いてもらった髪をすぐにほどいてました。早く髪を洗いたがっていました。

普段もメイク時間が5分だったり、メイク道具や服装も「無印良品」が好きだったり、学生時代は大きな胸がコンプレックスで胸にさらしを巻いていたりしていたそうです。「金八先生上戸彩じゃん」的なつっこみも坂口からありましたが、別に性同一性障害というほどではないにしろ、阿部はオンナオンナするのが不得手な人のようです。


終わってみれば「筆談」「事前アンケートを読んでいく」「メイクをしてもらう」の三本立て。

「もしや最後まで筆談なのでは…」と一時は震えましたが、結果的に「無口」のタイトルにふさわしい内容でした。たとえばよくやる「OLネタ」とさほど遜色のない空気感。ふたりで飲みに行ったりするなどコンビ仲もよさそうです。

本人たちは「ラジオ番組をやりたい」と言っていました。