平成二十二年初場所の大相撲千秋楽を両国国技館で初めて見物して驚いたこと番付

1月24日(日)に両国国技館で行われた大相撲の平成二十二年初場所、千秋楽。

この機会を逃せば次の5月場所まで約4ヶ月の期間が空いてしまうこともあり、千秋楽の2,3日前にふと思い立って、当日券で入場することにしました。思い立ったときには前売りチケットは完売していました。

8時半過ぎに入場して、全イベントが終わる18時半ごろまで、国技館に入りびたりです。

いろんな発見がありました。

大相撲は歴史のある世界ですし、両国国技館も昔からある建物ですので、「新発見!」的なフレッシュな情報をここで提供するのは難しい。豆知識的な資料も公式・非公式問わずそこらじゅうに溢れかえってるはずです。

それでも一日中、本場所の千秋楽を味わったという体験は自分にとってデカかった。なので、いっそ主観まる出しで、その体験の中で驚いたことを「番付」形式で以下に並べていきます。


序ノ口
相撲博物館」が意外と小規模だった


「博物館」という名前から、何十分もかけて歩き回るくらいの広大な敷地面積をうっすら想像してたんですけど、実際は2分くらいで颯爽と見て回ることができるくらいの規模でした。勘ですけどバトミントンのコートくらいの広さ。

もちろん展示資料をじっくり眺めてゆけば話は別です。たっぷり堪能できる。2ヶ月に1回の頻度で特別企画が催されるらしく、現在は「平成の四横綱展」と銘打った企画展が開催されています。

平成2年から3年までに「千代の富士北勝海大乃国旭富士」、そして平成11年から12年に「曙・貴乃花若乃花武蔵丸」という二度の「四横綱」時代がありました。その時代を回顧して、それぞれの化粧廻しや手形、書、著作などの関連資料を展示しており、またそれら8人の横綱の取組だけを集めたビデオが館内で上映されていました。

なんだかんだで30分くらい見て回ることができましたが、正直もうちょっとボリュームが欲しかったです。


序二段
当日券の争奪戦が激しい


「当日券」はその名のとおり、当日の午前8時から先着順で売り出される仕組みです。

事前に調べたところ、平日はともかく、優勝争いが絡む13日目以降はかなり朝早くから並ばないと買えないらしい、とのこと。ぼくもこの日は午前7時過ぎに到着したのですが、両国駅に到着する寸前の電車の窓から見える国技館にはさっそく長蛇の列ができており、買えるかどうか不安でした。

行列の最後尾について並んで待っていると、チケットを買うための「整理券」がそのうち一枚づつ配られ始めていきます。ぼくの番号は300番台。最終的にはこの整理番号をもってして、なんとか買うことができました。

今場所に限っていえば、既に14日目に朝青龍の優勝が決定しているため、それで熱気が少し冷めているようです。もし千秋楽まで優勝争いがこじれていたらチケット争奪戦はさらに加熱していたはず。優勝決定の瞬間がナマで見られなかったのは残念ですが、助かりました。

「ファンなら最初から前売りチケット買っとけよ」という話ではあるんですけれども。当日券は「2階最後列の自由席」という、土俵からもっとも遠い席ではありますが、価格が「2,100円」とリーズナブルなのが魅力です。これで一日たのしめます。


三段目
「釣り屋根」の中に照明が仕込まれている


両国国技館はきっちりしたホールなので照明設備もしっかりしています。

取組がおこなわれる土俵の上に「釣り屋根」というのが設置されています。立派なもんです。で、外側からはあまり観られないのですが、下から覗き込んでみると、この釣り屋根の内部に照明設備が仕込まれていて、そこから土俵に向けて照明がガッツリあてられているのがわかりました。

土俵の傍らから上を見あげてみて、初めてそのことに気がついたんです。

力士の姿がよりよく見えるためには当然の措置なんでしょうが、裸の男同士ががっぷり組み合っている一見泥くさい格闘技が、実は国技館という場ではあくまでライトにてらてら輝かしく照らされている見世物である。

「土俵というのは戦いの場であると同時に華やかなステージでもあるんだよな…」

奇妙な感覚を覚えました。


幕下
玉ノ井部屋特製「塩ちゃんこ」が250円


大関栃東の「玉ノ井部屋」特製、期間限定のちゃんこが食べられるよ、という貼り紙が国技館内いたるところに貼られており、安かったので食べてみることにしました。今回は「塩ちゃんこ」でしたがちょっと前までは「醤油ちゃんこ」だったそう。

国技館内には別途レストラン的な施設もあるのですが、それとは別に、ただ「塩ちゃんこ」のみを食べるためだけの空間として、地下1階の大広間が開放されていました。

代金250円を先払いし、まるで結婚式でも催しそうなだだっ広い会場で、大音量で流れている相撲甚句のテープを聴きながら、まるで炊き出しのような容器に入れられた塩ちゃんこをいだきます。お客さんが途切れず入ってきてくるなど非常に盛況でした。

栃東といえば現役時代は安定感のある相撲が持ち味でしたが、さすがちゃんこの味にも安定感がありました。具材はきのこ各種、ベーコン、ウィンナー、白菜等。ボリュームもそこそこで、これで250円はお得です。もう少しお金出してこれにラーメンかうどんを入れて食べたいとも思いました。

相撲解説をさせても安定感があるので栃東は推せます。


十両
安芸乃島による「卓上カレンダー手渡し会」


日本相撲協会公認の新キャラクター「ハッキヨィ!せきトリくん」がいきなり激推され中らしく、そのキャラを使った卓上カレンダーが先着100名で配布されてました。

このイベントは本場所中毎日おこなわれていた様子。千秋楽は高田川親方(元関脇・安芸乃島)がカレンダーを直々に手渡してくれるということなので、ぼくもなんとか行列に並び、無事ゲットするに至りました。

実際のところ13日目や14日目は先述した元栃東の玉ノ井親方や元横綱千代の富士九重親方による手渡し会だったらしく、本音ではそっちのほうがありがたかったのですが、安芸乃島に会える機会もそう無いので貴重です。安芸乃島は完全に手渡しマシーンになっており特に会話もしませんでした。

そのかわり「ハッキヨィ!せきトリくん」のメインキャラクター「ひよの山」の巨大な着ぐるみが国技館内をうろついていたので、その着ぐるみと少しタッチする程度に握手してみました。

その着ぐるみ、体長およそ2mほどはあったでしょうか。デカさからして、もしかしたら中の人が元力士だったりするのかも知れません。(関連記事


前頭
A3サイズの一枚紙がすべてを網羅していた


入場時のチケットの「もぎり」のときに、なにげなく手渡されたA3サイズの一枚紙。「平成二十二年 大相撲一月場所」と相撲文字で大きく書かれています。

これが大相撲を観戦するときの座右の紙資料としては抜群の出来でした。館内で客席を見渡すと、このA3一枚を手に観戦している客がとても多かった印象です。

まずは「大相撲一月場所 星取表」と銘打って、東と西にわけて、幕下十五枚目から十両、そして幕内の全力士の出身、年齢、身長体重、そして今場所これまでの星取り表が詳細に記載されています。リアルタイム性のあるちょっとした「力士名鑑」の趣です。頼もしいかぎり。

いっぽうその裏面には「大相撲一月場所 本日の取組表」。この日のタイムスケジュールがぜんぶ載ってます。序ノ口の取組から、そのときごとの勝負審判、行司、呼び出しまで。表彰式の式次第も「君が代斉唱」から、あの優勝力士が一回一回トロフィーや副賞をもらう「アラブ首長国連邦友好杯授与式」みたいな内容まで事細かに記されています。


「本日の懸賞取組」という欄もあります。

それぞれの取組にかかっているすべての懸賞スポンサー、ならびにそのスポンサーが場内で名前を読み上げてもらうときの「キャッチコピー」まで、そっくりそのまま見ることができます。

特に今回は千秋楽だったので「白鵬朝青龍」にかかった懸賞が揃いも揃って50本、これでもかと並んでおり壮観です。

懸賞は取り組み前に淡々とアナウンスされるのを聞いているのもおもしろいですね。普段NHKの音声ではカットされちゃうので、これは本当に現場だけのおたのしみ。

同じスポンサーが何本も懸賞を出すときは微妙に文面を変えているため、たとえば「高見盛朝赤龍」の一番の懸賞は、「味ひとすじお茶づけ海苔の永谷園」「さけ茶づけの永谷園」「梅干茶づけの永谷園」「たらこ茶づけの永谷園」「わさび茶づけの永谷園」など、お茶づけづけでした。


小結
テレビで見たアレがこれでこれがアレだった


千秋楽の取組は10時10分からと少し遅め。

入場したのが9時だったので、まだほとんど客のいない客席や、呼び出しの人が掃除したりしてる土俵の周囲を、自由にブラブラうろつくことができました。

これまでNHK大相撲中継など、テレビ越しでしか見たことのなかった光景の中に、自分がいる。観に行こうと思えばいつでも観に行けるものだったといえ、やっぱり感動です。

いつも中継で「あんな雑踏の中で解説なんて出来るのだろうか…」と気になっていた「向正面」の解説者席は、本当に客席の中に埋もれるようにして設置されていました。誰よりも客席の空気をダイレクトに感じながらの解説のようです。

この日は千秋楽ということで向正面には舞の海が座っていました。すべての中継が終わったあと、席を立とうとする舞の海が周囲の客に写真の撮影をせがまれたり握手攻めされていたりするのを確認しました。


また、その日の取組が十両から一列に表示されている「電光掲示板」というのが、相撲中継を観ていると必ず映し出されます。現在の取組やこれまでの勝敗が一発でわかる重要な役割です。

で、あの電光掲示板って、「二個」存在してたんですね。東側と西側にそれぞれ一個づつありました。知りませんでした。たしかにそのほうがどの角度からも観やすくて客に優しいですね。

あと電光掲示板には各取組後に最新の「決まり手」も文字で表示されてました。これもあまりテレビで見たことなかったです。


関脇
ナマの土俵の迫力が凄すぎる


座席が「2階・最後列の自由席」だったため、基本的に力士は豆粒ほどにしか見えませんでした。

それでも、まだ幕下あたりの時間帯には、場内の雰囲気的にも余裕があり、いくらかより土俵近くの座席にこっそり宙ぶらりんに腰かける感じで鑑賞できたりするわけです。

幕下力士の土俵を何番かかなり間近で観戦しました。

それはもう、どエラい迫力でした。

「はたき込み」とか「一方的な突き押し」とか、家で観ていたらスルーしそうな凡庸に思われる取組でも、ナマだと全然違います。おもわず歓声が腹の底から込み上げきました。一瞬のかけひきで勝敗が決まるようなスピードとパワーが体感できる。幕下レベルでも完全に常人離れしている。

これは近くで幕内力士の相撲なんか観た日には興奮するはずです。今度はまた一階席で本場所を観たいなと思いました。精神的・金銭的に余裕があれば、ですが…。


大関
力士や親方が続々と目の前を横切る


午後を過ぎたあたりから、力士や親方がぞくぞくと国技館に入り始めます。

基本的に関係者入口から入ってくるんですが、そこから所定の仕度部屋に辿り着くまでの間は、ひたすら衆人環視、客がいる前を延々と歩くことになります。つまり「見放題」です。ぼくのようなくそミーハーにとっては天国です。

断続的に、元横綱大乃国芝田山親方(スイーツ親方)、現在十両土佐ノ海雅山豊真将高見盛琴奨菊黒海鶴竜若の里嘉風などの国技館入りを至近距離で観ることができました。他にも顔と名前が一致しない力士をスルーしたはずですが、ともかく興奮しました。

大ベテランの土佐ノ海はイメージどおり顔がふつうにカッコよかったです。雅山は途中までぼくがぼんやり立っていた場所まで一直線にズンズン歩いてきて「ヤバい、轢かれる!」と身の危険を感じました。豊真将は受付の警備員みたいな人にも「おはようございます!」とかデカい声で挨拶しており、評判どおり真面目すぎんだろ、と思いました。


また、国技館の中を歩いていたら、元大関貴ノ浪音羽山親方がすぐ目の前を通りがかって、そのあまりのデカさに思わずのけぞりました。現役時代の貴ノ浪のプロフィールは「身長196cm体重160kg」。相撲取りはたいていデカいわけですけど、日本人の中でもトップクラスのデカさ。

貴ノ浪は他の一般客とおぼしき人と談笑してたので、ぼくも握手くらいしてもらえばよかったです。これはすこし後悔。すっかり怖じ気づいてしまいました。


横綱
「優勝セレモニー」には続きがあった


今場所は朝青龍が13勝2敗で25回目の優勝を飾りました。

千秋楽で白鵬との横綱対決には気合不足で敗れたものの、通算優勝回数が貴乃花を抜いてついぞ単独3位。右手で「2」を表し、左手で「5」を表す、合わせて「25」というパフォーマンスで客からの大歓声に応えていました。横綱としてはめちゃくちゃです。でも客商売としてはすごく正しい。

表彰式がおこなわれます。これが既存のイメージどおり非常に長い。はしょるわけにはいかないんでしょうね。見所は「東京都知事賞授与式」に副知事の猪瀬直樹が出てきて「石原都知事もヒール役の横綱の優勝を喜んでおられました」とかマイクを通して言っていた場面くらいでした。

結局優勝セレモニーはNHKの中継が終わった後、18時05分頃まで35分くらい続きます。

そのあとは三賞の授与式。把瑠都が殊勲賞、豊響が敢闘賞、安美錦が技能賞で、それぞれ土俵にあがって表彰されてました。主観ですが把瑠都は早く大関にあがるといいと思います。


で、まだこの続きがありました。

手元のA3タイムテーブルによると次は「出世力士手打式」。

来場所初めて番付に名前が乗ることになるという「新序出世力士」の門出を祝う儀式らしいです。それら若手力士、あるいは若者頭、世話人、呼び出し、若手の親方らが土俵に上がって、鏡割りをします。お神酒を酌み交わしたりしていました。

やがて「客席のみなさまご起立ください」というアナウンスがあって、三本締めがおこなわれました。千秋楽の結果がすべて決まったあとに、「今度は次の世代を担う新しい力士を送りだそう」という流れなんですね。

この時点で国技館の客は半分くらい席を立っており、だいぶゆるい雰囲気が場内には漂っていたのですが、この残った人たちによる三本締めで、国技館が一体になった気がしました。

そして最後は「神送りの儀式」。

初日前日に「土俵祭」という儀式が行われているらしく、その時点でいったん神さまが宿って「結界」と化した土俵。しかし土俵の結界はこの「神送りの儀式」によって解かれ、またふつうの場所に戻るのだといいます。

そんなわけで、「神送りの儀式」のため、なぜかひとりの若い行司が土俵上で「胴上げ」をされていました。当初の目的どおり、土俵が一気にはっちゃけた場所になってしまいました。時間的にも相撲中継には映らない時間で初めて見ましたが、このセレモニーも後味よく残っています。

すべてのイベントが終了して、軽くほうきで掃かれたり水が撒かれたりした土俵にビニールシートがサーッとかぶせられて、本当に幕です。

国技館の外に出ると、朝青龍が優勝パレードで車に乗って高砂部屋まで戻るというので、ぼくも車が走るのを歩道を小走りになりながらしばらく追っかけて、至近距離で朝青龍のよろこぶ姿を目に焼き付けました。最後までくそミーハーを貫いて千秋楽を堪能しました。