「田中裕二の野球部」見学記


左から鯉渕氏(講談社)、猿橋5番6番)、田中、高橋洋二構成作家)、ねづっち(Wコロン)


2 日の夜、「阿佐ヶ谷LoftA」で「田中裕二の野球部」というイベントを見てきました。爆笑問題田中裕二のイベントです。太田光はどこにもいません。

もともと田中は大の野球好きの巨人ファンで、これまでプライベートでも同じ所属事務所「タイタン」のタレントや近しい放送作家、野球に詳しい知り合いなどを自宅に招いて、野球談義に花を咲かせてきたそうです。

特にプロ野球の開幕直前の 3 月には優勝争いや個人タイトルの予想をし、シーズン終了後にはその答え合わせをする、という催しを毎年酒飲みながら行っていた、といいます。

その様子が我々一般人に伝わってくることは今まで決してありませんでしたが、今回「じゃ、それをいっそイベントにしてみよう!」という動きがあったらしく、そんなわけで「田中裕二の野球部」第一回が開催されるに至ったのです。


TBS ラジオ「火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ」では、田中が野球トークを展開しようとすることがよくあります。WBC の日本や巨人の優勝など、折に触れて語ろうとする。

しかしそんな田中の姿勢を真っ向から否定するかのように、野球にさほど情熱を持ってないらしい太田が、「昔の野球のほうが面白かった」「今はダメですよ」的なスタンスをもってして、田中のことを全力で茶化しにかかるのが常なのです。

もちろんこれは爆笑問題のラジオですから、田中の言うことに素直に従う太田光などありえるはずもない。たまに共感を示すこともありますが、基本的には田中のことをコケにします。またこの手の話が始まった場合、太田の言い分は「野球に興味がないリスナー」の声を代弁してるとも言えます。

ただ、野球に興味のある自分のようなリスナーにとってみれば、田中がせっかく熱弁を奮おうとしてるときに、太田がいちいちどっちらけな絡み方をしてることに対して、かなりモヤモヤとした想いがこれまで長らく続いてきました。「ウーチャカの全勢力を注いだ野球トークが聞きたい」「誰にも邪魔されずに原監督へのリスペクトぶりを強弁して欲しい」と……。

そこで福音のように訪れたのが今回の「田中裕二の野球部」開催の一報。

田中ファンかつそれなりに野球好きの自分にとっては、もう事前情報が出てきた段階から最高のイベントだろうという予感がビンビン伝わってきました。イベントの主旨的にあまりにも待望で垂涎ドンピシャ。東京に移住したその翌日にネットが開通して、まずいちばん先に何をしたかといえば、このイベントの予約でした。嬉しくて嬉しくて。


ってことで以下にイベントのレポです。


巨人帽をかぶり、巨人のユニフォームをまとった田中裕二が、原監督のあの両手をグーにしてホームラン打った選手を目を見開いて迎える、みたいなポーズでステージに登壇。もうその時点でグッときたんですけどね。

田中をメインとして、出演者陣には放送作家高橋洋二、「Wコロン」のねづっち、あと講談社の編集者で「聖☆おにいさん」などを担当してるという鯉渕(こいぶち)さん、その鯉渕さんの奥さん(主婦)、田中のマネージャー池村さん(元大学野球の投手)、「5番6番」の猿橋が揃っています。

芸人がねづっちと猿橋のふたりほど混ざっているものの、他はもうガチガチ内輪なメンツで、田中に匹敵するタレントはひとりもいない。それどころか講談社の編集者とその奥さん(主婦)という限りなく一般人に近い人まで「野球好き」を理由に出演している状態です。もちろんプライベートの延長線上ということなのでこの人選に異論はありません。

ロフトはライブスペースという他に「飲み屋」でもあるらしいので、出演者はほとんどが酒飲みながらグダグダやってました。酒に弱い田中はジャスミン茶を注文。ねづっちは終始「ホッピー」でした。どこまでもオールドスタイルって感じです。


イベントの流れは、今年 3 月にプライベートで予想していた 2009 年の「野球」にまつわるあらゆる結果の「答え合わせ」がメイン。プロ野球のセ・パの順位、投手の防御率最多勝・セーブ王、打者の首位打者本塁打王打点王盗塁王・最多得点、そして春のセンバツ夏の甲子園の優勝校、WBC の優勝国などが主な項目です。

「今となってはなぜそんな予想をしたのか」「今シーズンの働きは実際どうだったのか」「この選手がまさかこうなるとは思わなかった」など、今年一年の野球界を振り返る内容で、特に当てたから何かあるわけじゃないのでしょうが、同好の士でワイワイ語り合うこと自体が楽しいんですね。

そんな中でもやはり田中はジャイアンツ愛を全開にして部員たちを引っ張ってました。


いい話がたくさん聞けました。

「今年の内海は明らかに球を置きに行ってる」
「松本は巨人が 20 年欲しかった待望の 2 番打者」

などの論評から、

「元楽天の野村監督に会ったとき『仙台の球場は野球をやる環境として完璧』と言っていた」
ウエンツ瑛士山中秀樹と西武の西口と 4 人で麻雀やって、去年の巨人vs西武の日本シリーズの悔みがあったから、西口を麻雀でボコボコにした」
「ウエンツはシーズン開幕前、俺に『 2009 年はボカチカ三冠王だ』と吹いていた」
WBC開幕の前日の夜に川崎(H)、石原(C)、小笠原(G)の三選手と焼肉屋で遭遇。初対面のムネリンに『握手してください!』と言われて、『いやいやむしろこっちのほうが握手して欲しいよ!』と思った。いつまでも野球選手への憧れは強いんだよなぁ」

といった田中にしか語れないようなオリジナルのエピソードまで。

なにより 2009 年は、田中が大好きな原監督が WBC 優勝で一つの頂点を究めた上、ペナントレースでも巨人が優勝、CS 制覇、そして日本一と完璧なシーズンを送ったため、田中にとっても最高のシーズンだったそうです。

ただし野球で絶頂を迎えた反面、プライベートに関しては

「そのツケが離婚ですw」

と自虐的に笑いを取ってました。


ただ、圧倒的に野球に詳しかったのは講談社の編集者・鯉渕さんでした。漫画家・水島新司の担当もしているらしく、水島先生からは「担当編集者はたくさんいるけど、野球ではおまえが一番だ」とお墨付きをもらっているそう。今年のドラフトで指名された選手をアマチュア時代からよく見てて詳しく把握したりしていました。

あといい意味で予想外だったのがねづっち。レッドカーペットの「Wコロン」のコンビとしてのなぞかけネタでしか見たことなかったんですが、こういっちゃ失礼なんですがフリートークの話術がとてもしっかりしてました。

ねづっちは「なぞかけは世界一」と田中からお墨付きをもらっていて、今回のイベントでもお客さんから「ロッテ」というお題をもらって即興で「『ロッテ』とかけて『薄味の食べ物で育ってきた人』と解く。その心は『強風(京風)』には慣れているでしょう」とか風雅にうまいことを言ってましたが、どうもそれだけじゃないみたい。

5 番 6 番の猿橋もいかにも芸人っぽい陽気な絡み方でしたが、ねづっちのほうが野球好きレベルでも上回っているようです。「ずっと昔、地元のデニーズに当時阪急のブーマーがよく来てた」みたいな話をしてました。


途中で挿入された VTR のコーナーも破壊的に面白かったです。

そのひとつが、田中が「検索ちゃん」や「クイズ雑学王」のスタッフなどを集めておこなったという草野球の映像。所詮はただのプライベートビデオなんですが、なぜか録画機材が 3 台も用意されてるという準備の整いようで、田中が背番号 14 を背負って、小さい身体で打ったり、全力で走塁したり、サード守ったり、ピッチャーとして投げたり、などの姿が収められていました。

田中のツーベース! 田中の猛打賞! 田中の意外とスピード感のある走塁! 田中のチームメイトへのしたり顔でのアドバイス! 田中のサードでの凡エラー! いったいその一挙一動が、かっこいいんだか、滑稽なんだか、って感じで、いま思い返しても不思議なくらい、なぜかめちゃくちゃ盛り上がりました。「ちっちゃい」という要素がなにかしら作用していることは否めません。

それともうひとつ、田中が 2006 年に夏の甲子園の決勝の引き分け再試合「駒大苫小牧 vs 早稲田実業」を見に行ったときの映像も見ることができました。田中自ら甲子園でナマで観戦した際、ビデオを回して録画していたものです。めったにない貴重な現場で甲子園は超満員。たいへんな熱気に包まれていることがよくわかります。

最終回にマー君が三振して早稲田実業の優勝が決定した直後、田中が周囲からもみくちゃになりながら、カメラがただ空とか撮ってるのもよかったです。ちなみにこのとき傍らには元・奥さんがいたそう。いっしょに甲子園に行く程度には仲睦まじかったんですよね。

田中はその VTR を見ながら、斎藤佑樹投手がついこないだプロアマ戦で投げた時の投球フォームについて

「高校のときはもっとスムーズなフォームだったのに…」

と嘆いてたりしてました。時代はいろいろ移ろいゆくものです。


お客さん参加のクイズ大会も白熱しました。

「開幕前、田中は 2009 年のパ・リーグ首位打者を誰と予想していたのか」を当てるクイズです。予想の予想。当たった人には田中のサインボールがプレゼントされます。田中の狙い方を推理しなくてはならず、かつ野球知識も問われる。ぼくは「ここはやはり日ハムだろう」ということで「田中賢介」と回答して紙に書いて提出しました。

正解発表。田中がパ・リーグ首位打者に予想していた正解は「中島裕行(西武)」でした。本命です。競馬予想でも本命を当てにいく田中はやはりここでも穴を狙っていなかった。

で、今年のパ・リーグ首位打者は「鉄平」なのですが、会場には「中島裕行」を当てた正解者が「 23 名」いました。キャパ 100 人程度なのでかなりの正答率です。その後、23 名全員に田中のサインボール、もしくは「20 個しか用意していなかった」ということでドン・キホーテで急遽調達したおもちゃのバッドにサインを入れたものが、田中から手渡しでプレゼントされていました。クイズ当てた人にはいい思い出になるだろうと思います。


公演時間はたっぷり 3 時間 30 分。

2 回ほど設けられていた休憩時間や終演後の時間には会場内に「野村克也語録集」の CD が延々かかったりしてました。2008 年に楽天戦を終えたあとのベンチ裏での野村監督の「ぼやき」が収録されている音源です。

ということで、そんな小ネタもあり、トータルで大満足のイベントでした。次回の開催は「まだ確定ではない」といいながらも来年 2010 年の 3 月に「開幕直前の予想大会」をやる予定だとか言っており、まだぜんぜんやる気です。

しかし田中って、お笑いの世界でもかなり上位のポジションにいる人のはずなのに、たった 100 人のキャパでこういうお気楽イベントをやってくれるのが、不思議だし、気さくだし、本当にありがたいです。爆笑問題って目に見えてかなり忙しいはず。いくらプライベートの延長線上とはいえ、その趣味に対する貪欲さには感心します。

また今回イベントが開催された会場は阿佐ヶ谷の商店街「パールセンター」の中に位置する「阿佐ヶ谷LoftA」でしたが、田中のおばにあたる人がその「パールセンター」の名付け親だという縁が Wikipedia に載ってました。イベントには田中の高校の同級生や、同じ小中学校を卒業したというお客さんも観に来ていたようで、リアルに地元のようです。

しかも付け加えるとこのイベント、機材での「録画」や「録音」は禁止でしたが、「そのかわり写真撮影はオッケーです!」というかなり太っ腹な措置が施されていたんですよね。ステージ上の田中も携帯カメラでぱしゃぱしゃ撮られまくってました。こういうのってなかなか無いと思います。ウーチャカ、どんだけ親しみやすいんですか。