ベッキーによる「モーニング娘。のものまね」

30 日放送のフジ系「HEY!HEY!HEY!」に、本格的な歌手活動を開始したというベッキーが出演してました。歌手としての名前は「ベッキー♪#」という表記らしく、これで読み方はそのまま「ベッキー」だそう。

ベッキーダウンタウンとのトークで数々のものまねを披露してました。仲間由紀恵鬼束ちひろ夏川純。さすが芸達者でどれもそこそこ似てましたが、特に夏川純のものまねなんて珍品です。他に誰もやる人がいないから独占市場。TBS 系「月光音楽団」での共演というアドバンテージがあるから堂々とやれるわけですね。

で、そんなベッキーがいちばん最後に披露したのが「モーニング娘。のものまね」でした。これが初めて見たんですけど、けっこう興味深かったんです。演題は『もしもモーニング娘。がドレミの歌を歌ったら』。


これです↓(動画が生きてるうちは)

ベッキーは「♪ドはドーナツのド」をハロプロ的ブリっこ歌唱で、そして「♪レはレモンのレ」を今度はハロプロ的セクシー歌唱で歌っている。「ド」は鼻にかかってて後藤真希田中れいなっぽく、「レ」はドスが利いてて石黒彩藤本美貴っぽい。

しかしそれが「誰なのか」という正解はありません。なぜならこれは「モーニング娘。のものまね」だから。

つんく♂直伝のハロプロ歌唱のクセや精神性をすくい上げて力業でまとめてしまった芸で、ややサムい感じもありますが、「それも含めてモームスなんだよ」というアプローチであればぐぅの音も出ません。まいりました。


このものまねの最大のポイントは、なんといっても「モーニング娘。メンバーの特定の誰かのまね」というわけではないことです。あくまで総体としての「モーニング娘。のものまね」だとベッキーみずから主張している。

モーニング娘。のメンバー個々がかなり蔑ろにされていて、暗に「没個性的」と評価されてる感じさえあります。ベッキーも誰が誰だかわからないように見せてるし、お客さんの側もハナから前提としての知識を共有していない。誰がメンバーで何人いるのかもみんな知らないはず。あるのは「なんかモーニング娘。っぽい」という漠然とした共感だけ。

もちろん裏を返せば「なんかモーニング娘。っぽい」というようなグループとしてのカラーが明確だということが前提としてあるからこそ、このものまねは成立してるんですけれどね。いくら矮小化されているといえども。そこはモームスの重ねた歴史です。


たとえばこのネタがモーニング娘。じゃなく SMAP だったらどうでしょう。「誰とかじゃなくて SMAP のものまね」。たぶん成立しないと思います。「 SMAP 」としてのグループとしてのカラーはありますが、チャレンジングな人が「 SMAP のものまね」なんてことを始めても、結局はみんな「 SMAP のうちの『誰か』」を自然と想起してしまう。それだけメンバーの「個」が強力だからです。

その点でベッキーの「モーニング娘。のものまね」は一種の発明でした。メンバーをまねずに「そのグループ自体」をまねる。一見すると矛盾していて論旨は超アクロバティックなのですが、これができるのはベッキーならではです。


ものまねとしての「似てる・似てない」の二元的な評価からは解放されていると思うんです。「モームスに似てる・似てない」みたいな評価には当然ならない。その「モームス」自体が意図的にあやふやなんですから。ここでの評価基準は「モーニング娘。っぽいか否か」。これは「細かすぎて伝わらないものまね」的な仕組みが定着した今となってはむしろスタンダードな方向性です。

韓国映画で厳しい訓練を精神力で耐え抜く韓国の軍隊」や「刑務所を取材したドキュメント番組で年に一回の野球大会を楽しむ受刑者」みたいなものまでがものまねに含まれる昨今で、ものまねの許容範囲は特定の具体性をもったものから匿名的な抽象へと勢力をじんわりと拡大しています。ベッキーによる「モーニング娘。のものまね」もその一環と呼べるものだと思います。

あとは、一発ネタとしての面白さはこれで完結してる気がするので、今度はベッキーに研鑽を重ねてもらって「誰々のものまね」みたいに個人名をはっきり明かしてモームスのものまねをして欲しいな、と個人的には感じています。モームスはおろか、いわゆるハロプロ系のメンバーで「ものまねをされる人」というのが、松浦亜弥以外にぜんぜんいないんだもの。

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