先週、テレ東深夜の「美女放談」という番組で、モーニング娘。の道重さゆみが自分の「ネタ帳」を公開していました。「女性の品格」の著者・坂東眞理子(昭和女子大学学長)と道重が対談した放送回での事です。
道重は最近「モー娘。の異端児」のレッテルを貼られ、「私は極度にかわいい」など自信過剰なナルシスキャラを公にしながら、そのいっぽうで他の女性タレントを不遜にも dis りまくるみたいな紙一重の芸風で、よくバラエティ番組にお呼ばれしています。
特に「ロンドンハーツ」の「格付けチェック」企画に、ロンブー淳の贔屓目な進行に助けられる面もあって、わりとうまいことハマってるようです。次回予告によると道重は来週の「格付けチェック」にまた出演するらしく、今度は西川史子とバチバチやるらしい。たのしみです。
そんな道重に対する視聴者からの評判は、必ずしも好意的なものばかりではありません。
雑誌「週刊 SPA!」の「一般人が引退勧告する女性タレント」みたいな悪意の煮こごりのようなランキングでも、道重の名前がなんと TOP3 に入ってしまいました(参照)。
とるに足らない記事なのかも知れませんが、ネット上を見渡しても道重に対する同様の感想は散見されます。ここにきてよくもわるくも知名度を上げていることだけは確かなようで、いきなり出てきた知らない女が「私ってカワイイ」と自惚れながら周囲に毒づきまくってりゃ、なるほど自然と悪評が立つのも頷けます。
ただ、僕はいわゆるハロプロのファンなので身びいきを丸出しにしますが、道重さん、基本的にはめちゃくちゃ良い娘です。もう言うまでもないってくらい。モラリスト。
一見して拒絶反応を世間に引き起こすようなタレントが出現したときに「表では悪態突いてるけど裏では良い人」メソッドが発動されることはよくあります(エガちゃん等)。それとは逆に「タレント業は表がすべてなのだから裏でどうだろうと関係ない」とする態度も一方ではあります。顔面至上主義ってやつですね。
道重の場合は別に良い娘であることを表で包み隠しているわけではありません。常態的に良い娘です。それでいてやたらと饒舌なのであり、また口を開けばオプション的に「一言多い」。シレッと毒っぽい言葉を吐いてしまう。
雑誌「sabra」でのインタビューを読むと、子供のころからの習性だそうです。
「これ言ったら傷つくかなとか考えずに思ったことをすぐ口にする習性があるから気をつけろ!って小 5 のときの担任の先生に怒られて。そうなんだ〜って初めて知りました。それからはいつも反省はしてるんですけど、次につなげられないんですよね。衝動に駆られて」
要は、こういった本来の性格を仕事につなげようと必死にもがいているのが現状なんですね。良い娘は良い娘としてありのままに見せながら、つい口にしてしまう毒舌っぽい発言をなんとか表舞台で通用させられるように腐心している。すべて地続きってわけです。
その努力がダイレクトに伝わってくるのが、このたび公開された「ネタ帳」でした。がんばっていればなんでも許されるってわけではありませんが、道重は人一倍、努力している。
「ネタ帳」の中身を以下に羅列していきます。
○とにかくはなさなきゃ↑
○意見をゆわなきゃ↑↑
○とりあえず今日はしゃべんなきゃ
○しゃべらなきゃうつらない
○前へ、前へ↑
○もっと前に出て話すべき……
○このはなしはわかんないからだまっとこーって思ってるトキが多すぎた(汗)
○ボキャブラリーを増やす
○まわりがどんなにゆってきても負けるな
○負けじと強気にはなすコト
○向こうが引いててもこっちはえんりょするな
○空気になっちゃダメ(汗)
○ゆわないでこうかいするより ゆってこうかいした方がいい
どうですか、このけなげさ。
画面が見切れてる部分は僕が勝手に補完しましたが、ほぼ「原文ママ」です。お笑い芸人のようなギャグやフレーズの「ネタ帳」というよりは、バラエティ番組に出るときの「心構え」を気づいた瞬間に次々と書き留めていったようです。言葉づかいがかわいいぶん、逆にちょっとした悲壮感さえ伝わってきます。
もともと道重のトーク力には定評がありました。
ラジオではソロ冠番組「モーニング娘。道重さゆみの今夜もうさちゃんピース」(CBCラジオ)が今秋 4 年目に突入。明石家さんまの「MBSヤングタウン土曜日」(MBSラジオ)でもレギュラー出演を続けています。これらラジオでの活動が最近のテレビ露出への礎のひとつになってるはずです。
これまでも、いわゆるハロプロ勢としては里田まいや矢口真里、辻希美、藤本美貴などが、バラエティ番組への出演という点で先鞭をつけてきました。道重も一応その系譜に連なってはいます。
ただ、道重がそういった先輩たちとひとつだけ大きく違うのは、「現役のモーニング娘。」ということです。結婚や出産はおろか、恋愛スキャンダルに見舞われたことすら一度もなく、ヒットチャートの最前線からも脱落していない。さすがに往時の勢いはありませんが、くさってもモー娘。ですよ。どうやら守らなきゃいけない(らしい)ものがたくさんある。
バラエティ番組で現役アイドルが他のタレントと同じ土俵で闘うのって、途方もないハンディキャップマッチなんですよね。基本的に下ネタは御法度ですし、過去の恋愛経験を引き合いに出すことさえも憚られる。両手両脚を縛られたような状態なんです。だから「よそのバラエティには出ない」という選択肢が実はいちばん正しい。自分たちの小さな土俵でだけやっていればファンも幸せなんです。
ところがそんな条件下において、「自分カワイイ」なナルキャラ推し一辺倒、「反発を喰らうことが前提」なリスクが大きすぎる毒舌、あるいは単純に機転のきいたコメント、などといった数少ない武器を手に、バラエティの世界で道重は本当によくやってると思います。どの番組でもほとんど確実に笑い獲ってますもん。ちょっと泣けますよ。
そのプレッシャーのせいか、最近やや顔の吹き出物が目立つようになって肝心の美貌を損ねてしまっています。心配です。それでも道重は自分の芸風を貫き通そうとしている。
ひとつ「道重の活動がモーニング娘。のイメージの悪化につながりかねない」と危惧する向きもあるようですが、道重本人はあくまで「私に興味を持っていただけたらモーニング娘。の曲も聴いてみてください!」(「TVぴあ」インタビューより)と前向きです。バラエティでの昨今の言動がモー娘。全体として吉と出るか凶と出るかは、今のところ誰にもわかりません。
道重は小倉優子のことが好きなのだそう。たしかにカブって見える部分はあります。最初はキワモノだったのが、いつの間にか当たり前のようにテレビの風景となり、突飛な発言を要求されることもなくなる。それでいて表層のアイドル性はしっかりキープ。そんなネクストレベルに達することができれば道重も本望でしょう。
そしてその頃にはきっと悪評もあらかた消え失せているはずです。