映画「サマーウォーズ」の描いたつながり

8 月 1 日土曜日の「映画サービスデー」、料金 1,000 円という無職には願ってもない日に公開初日を迎えた長編アニメ映画「サマーウォーズ」を朝イチから見てきたので、今回はその感想文です。

公開直前に YouTube で公式に5 分間のオープニング映像が流れ始めたり 31 日放送の日テレ系「魔女の宅急便」のエンディングで告知がされたりしていて、まんまと観たいモチベーションを持ち上げられました。

この映画の監督・細田守は前回作品「時をかける少女」が足の長いヒットを飛ばしていて、フジテレビの土曜夜 9 時枠で放送された 2 回はいずれも観て「これは大好きな映画だ!」とお熱を上げたし、勢い余って DVD も買いました。これだけ「好き」を積み重ねてくれる監督さんを信頼して映画館に向かったのです。

結果めちゃくちゃおもしろかったです。おもしろい!すごい!おもしろい!すごい!の連続。エンディングに至っては、さほど押しつけがましい演出ではないにもかかわらず、ボロ泣きでした。

ってことで以下にネタバレ込み込みで感想を連ねます。

ネタバレがイヤでなお観ようか観るまいか迷っている人がもしいれば、去年 2008 年の 27 時間テレビのラストで明石家さんまがカメラに向かって「しょーゆーこと!」を決めた際、その「すべてはここに極まった」ぶりに感極まった人なら絶対に楽しめるだろうなと強くオススメします。はちゃめちゃと「ベタ」が好きな人。

さまざまな感情の起伏に揺り動かされる作品です。特に観るための予習とかも必要ないです。見てひたすら翻弄されればいいと思います!


(※観たのは一度きりなので完璧な記憶に基づく文ではないということを重々ご了解いただいたのち…)

つながり

「アクション映画」の触れ込みらしく派手なアクションや演出が満載でしたが、こっそりラブコメ要素もポイントポイントで紛れ込んでおり、そこに激しくワクテカしました。

映画の見どころは無数にあるはずですがそのワクテカに要点を絞ります。

「つながり」こそが、ボクらの武器---というのがこの映画のキャッチコピーで、ともすれば大げさで恥ずかしいことなんですけれども、そういう濃密な人間関係がこの映画のテーマでした。

それを象徴する存在が主人公格の女子『夏希』(声:桜庭ななみ)にとっての「おばあちゃん(声:富司純子)」。おばあちゃんの一挙一動によって「つながり」が家族の間にどんどん力を蓄えていくんです。

最終的にはそれが見事に結実するというスペクタクルがあるのですが!

いっぽう、「つながり」は主人公の『健二』(声:神木隆之介)と夏希のあいだでも、血相変えた「戦い」の間にも、淡い恋物語としてちょっとづつ熟成していきます。

おばあちゃんが遺したもの

90 歳という設定のおばあちゃんは最初のうちこそただ偉ぶってるだけの頑固なバアさんとして描かれますが、すぐに若い人に対して柔和な態度を取ったり、重大な事件が起きたときに黒電話で関係各所にぐいぐい連絡取りまくるなどといったアグレッシブさなどを見せ始めて、観てる側は一人物であることに安心し始めます。

しかし、夜中に健二とたのしく花札勝負をした翌朝、いきなり、亡くなってしまう。体調管理するケータイ電話の機能が働かなくなったのとかが一因で、この突然死というのもまた前後関係とつながりがあるわけですが、とにかく物語上ついさっきまでイキイキとしていたはずのおばあちゃんが、死んでしまった。

劇中の家族はものすごく衝撃を受けているような描写をされています。家族を結びつけるうえでの圧倒的な「長」でした。そしてまた観てるこっち側も、たとえアニメキャラとはいえ、無性に悲しい気持ちになるんですよ。擬似的な喪失体験。かなり痛い。この時点で物語に完全にハメられているとも言えます。

おもえば健二と花札勝負をした最後のカットのおばあちゃんの表情が、もうニコニコしたこれ以上ないスマイルだったんですね。あとで思えば伏線にも見える。あのスマイルを見せられたあとに、死、というのはむごいです。

で、大人数の家族がみんな一様に悲しみに暮れる中、夏希も縁側に腰かけながら、涙をポロッとこぼす。そりゃおばあちゃん死んだら泣くしかない。

しかし健二はといえば、もとはとこの家族とは関係がなく、おばあちゃんとも少し交流があったくらいでさほどの思い入れもない様子。そもそも高校の先輩だという夏希から「ウソの結婚相手」として演技するよう頼まれて連れてこられただけ。そんなウソもすぐにバレるんですけど、いろいろあって夏希の家に少し居着いているだけなんです。

ところが、ここで夏希が、「悲しいから握って」なんつって、縁側でなんとなく隣に座っていた健二に、右手の小指を握ってもらおうという意思を見せるんです。あぁ、なんていうかこれは、萌えですね!

健二が女の子と付き合ったことがない設定なのは序盤で白状していたとおり。夏希から手を握られただけで身体の色がどんどん赤色に染まっていくほどのウブッ子なんですが、その点で夏希のほうは、いくらかませているようです。

悲しみをこらえるために小指を握ってくれと頼む夏希に対して、そこはおそるおそる、そっと小指を握ってみる健二。それでも夏希はなんだかますます泣けてきて、涙がちっとも止まらない。驚いた健二の握る左手の指はいったん離れます。

しかし、かと思うと、やがて夏希の右手の指と自分の左手の指を、こう二本三本と絡ませて、最終的には、ちょっとした恋人つなぎみたいなつなぎかたで、指と指を交差させるんですよ! その様子が映画のスクリーンでアップでドーン! 思春期! なにそれ超いやらしい!

健二は夏希のことを明らかに好いているし、夏希は健二に心を許し始めている。その前日にも夏希が風呂に入った次に順番が回ってきた健二が「先輩の入ったお風呂…」とか言いながら風呂場の残り香をスーッと嗅ごうする場面があったりしました。

そんな健二のほのかな恋心が、「おばあちゃんの死」というひとつのクライマックスによって皮肉にも実を結び始める、という中盤のワンシーンに、多少憤慨しながらもほっこりしました。



微妙な距離感

花札戦争

サマーウォーズ」の名のとおり中盤から本格的な「戦争」が始まります。最初はネット上の絵空事に過ぎないと登場人物の多くが思い込んでいた「敵」が、だんだん洒落にならない実害を世界中にもたらしていく。健二やその家族たちは、膨張し続ける「敵」と戦わなくてはいけなくなった。

その一進一退の攻防は「時間制限」が科せられる中でがぜん緊張感を帯びます。巨大な「敵」に向かって、家族や友達、そして世界中のみんながみな協力して、田舎の危機を、ひいては地球の危機を救う。いろんな少年マンガやアニメを観たときのドキワク感が甦ったようです。

地球を救うも救わないも、それを決定づけるのは、「花札」の勝負でした。

これも奇をてらっているようでありながら物語の中で動機付けがなされているので納得がいくものです。おばあちゃんが昔から花札をやっていて、田舎の家族の間でも夏希が当たり前のように花札に親しんできた。おばあちゃんが亡くなる前日に健二と最後に遊んだのも花札。伏線もバッチリです。

映画の中でも「猪鹿蝶(いのしかちょう)!」とか「五光(ごこう)!」とか役の名前が叫ばれていて、昔よくやった花札の記憶が徐々に甦ってくる感じがしました。また画面の絵が美麗なもんで、たとえ「花札」とはいえ、いや「花札」だからこそ、やたらそのゲーム性が画面の中で映えるんですよね。

花札の間ずっと「コイコイ!」って叫んでたのはもちろんそういうゲームからなんですけど、もしかしたら「恋」とかけてるのかな? とか思ってしまいました。ムダな読みでしょうか。

「敵」に一度は勝利した段階でも、まだ地球の危機からは脱しきれないわけですが、あとは健二がパスワードを解明したりなんかして最後まで粘る「敵」をやっつける。家に落下しそうだった衛星もギリギリで回避できて、家族にも目立ったケガはなく、めでたしめでたしとなった。家族の勝利でした。

大団円

さて地球に平和が戻ったので、あとはおばあちゃんの葬式です。亡くなったのはおばあちゃん自身の誕生日だったので、奇しくも誕生日に葬式をおこなうはめになってしまった。

ところがこの家族はやたら陽気で、おばあちゃんの笑顔の遺影の前で、お経をあげるどころか、「ハッピーバースデー」の歌を合唱するんです。ものすごく愉しそうに。ものすごく悲しいはずなのに。

はいこれは泣ける。遺影の中のおばあちゃんが笑顔で、誰の胸にも思い出を残している(お客の胸の中にさえも!)からこそ、こみあげるものがあります。


やがて物語の焦点は、葬式から健二と夏希というふたりへと移ります。健二はそもそもこの家族とは無関係だったわけで、父親が迎えに来たりして、家に帰るとか帰らないとか揉めている。

ただ、夏希は健二に対してちょっと名残惜しそう。で、なんかちょっと頬を赤らめてさえいる。

おもえば「敵」と死闘を演じたとき、花札勝負の先頭に立ったのはたしかに夏希だったのですが、戦いに挑もうという勇気を見せたり、最終的に暗号を解いたのは、健二だった。

夏希が健二の男気に惚れている、のか?

もともと健二は先輩たる夏希を好いていますがその想いはウヤムヤなままでした。夏希は積極的な性質なうえに、彼氏もおらず、健二にちょこっと風呂上がりの姿を見られたり、おばあちゃんの死に際して泣いていたところを縁側で手も握られたりもしていた。

最初はまったくその気もなかったはずなのに、案外まんざらでもなくなってる…!? いつの間に…!?

健二はやけっぱちに「好きです!」とか叫んでしまった。隠しきれない気持ちであった。すると夏希もなんかエヘヘって感じで笑っている。おせっかいやきの家族や親戚がヒューヒュー本当に結婚しちゃえよとか冷やかしを入れる。すると夏希がもう「キスしていいよ?」みたいに唇を突き出してじっと待ち受けるわけです。なんてビッグチャンスや。

はたしてその様子を見た健二はどうなったか。

まさかの「鼻血ブー」ですよ。両方の鼻の穴から勢いよく大量出血。

2009 年の最先端をいくであろうアニメながらも女の子のことで恥ずかしくなって鼻血。もうラストまで辿り着いてしまうと、こんなベタ中のドベタさえ許されたい。劇中の他の場面でもたしかちょろっと出してましたしね。体質なんです。

そして鼻血ブーの姿を見た夏希は、健二のほっぺたに軽くチュッ。これだ! 物語はこうして終焉を迎えます。出逢いや偶然や努力やひらめきがぜんぶ積み重なって、最終的にはここにもひとつの「つながり」が生まれたんです。

まとめ

ってことで、主に健二と夏希の「つながり」を軸に振り返りました。

まだまだ語り代はいろいろありそうです。とにかくディテールが半端じゃない! SF アクションとしてもラブコメとしても、次から次へと新展開に移行していって物語としても間延びしません。ウケを狙ってるようなところも基本的にまったく外してない。あるあるネタが実にあるある。

声優陣は健二役の神木隆之介が相変わらずよすぎる仕事ぶりだし、夏希役の桜庭ななみも「時をかける少女」の仲里依紗(本作にも出演してるようです)レベルでかわいくて純粋でちょっとませていてという健康的な美少女っぷり。おばあちゃん役はベテラン冨司純子で実に毅然としてました。

わかってる人たちが、サービス過剰なほどに盛り込んで、手堅くベタもまぶしながら、ツボを抑えた演出や映像で、最新であろう CG 技術を駆使しつつ、夏向け長編アニメ映画をつくったら、こうなった。

この映画のテレビ CM で、試写会を見終わったあとの観客が「感動しました〜」とかボロ泣きしながら言ってて、「それはさすがにウソだろ」と思ったりしましたが、ぜんぜん本当でした。