水道橋博士のゾッとする映画的体験

フジ系「人志松本の○○な話」 15 日放送分のテーマは「ゾッとする話」。

この番組には初出演だという水道橋博士が披露した話に、めちゃくちゃゾッとしました。

超常現象も幽霊もこの話には出てきません。

ただの現実が、いちばんしみじみと恐い。


スタジオセットに車座になって博士が語る



みなさんお笑い芸人やってるから
ファンの女の子だとか
おっかけの子とかいると思うんですけれども


中にちょっと「イタい子」っていますよね
ま、ストーカー化する、みたいな


でも若手芸人で「ストーカー」っていうのは
ストーカーなのかそれとも
いわゆる「セフレ」に別れ話を失敗したのか、っていう


そういう経験ありますよね?
これ「ストーカー」と呼んでいいのか


「イタい」ファンっていうのの判別みたいなのは
「自宅の住所がわかってしまう」みたいなのが
「ファンが知ってる」とかっていうのは
ちょっとイタいですよね



熱烈な、その子もファンだったんですけど


自宅に手紙が来るようになったんですね
「あ、もうこうなってくると僕の住所わかってるな」って


で、そのポストにですね、落書きとかするんです
となると住所わかってるだけではなく
家に来てるわけです


車に口紅で「好き」って書いてあったりするわけですよ



先程の話にちょっと戻しますけど
「ストーカー」か「セフレ」かどうかで言いますとですね


その子のあだ名が「ミザリー」なんですよ
映画の「ミザリー」はご覧になったことあるかどうか


(※映画「ミザリー」
狂信的な読者に監禁された人気作家の恐怖を描いたサイコ・スリラー。
博士がストーカーにつけたあだ名はその内容に由来するらしい)


あの方(=「ミザリー」)は、おばさんなんですよ
ですからぼくにとっては
その線引きでは(セフレとは)違うのは明らかなんですよね



ある日仕事終わって家に帰って
当時、後輩芸人といっしょに住んでたんですね


「今日は鍋が出来ております」っていうんですよ
「鍋?」
「あのー、
婚約者の方がいらっしゃって
鍋を作って帰られました」っていうんですよ


で、鍋があるんですよ


「おまえ婚約者って…」
「いや、かなり年のいった方だったんですが…」
「おまえ何してくれてんだ!」と


…ま、ぼく、キム兄と違いますからね(笑)
そういう「守備範囲」を見せているわけじゃないですから普段から
(※この直前に松本人志
木村祐一が 65 歳のおばさんと大人の関係だった」
という「ゾッとする話」を披露している)



だんだんと彼女から頻繁に手紙が来るようになって


「今度会わせたい方がいるのでライブにお連れします」
っていう内容の手紙がきたんです


「おー、怖いな」と思いつつ
うちの事務所のライブなんで僕がトリで出てるんですけど
(頭の)片隅に「そんな手紙もあったな」と思いつつ
出囃子で出て行ったんです舞台に


パッと客席見たら、うちの父親がいたんですよ
岡山県倉敷市出身で
俺のライブなんか一度も見たことがない父親が突然いて
「うわ親父だ」って思って


その親父が仲良くしゃべってるのが「ミザリー」だったんです
隣にいるんですよ


「うわー」ってなって
もう(父親が)メロメロなんですよね


帰ってきて楽屋に行ったら
親父がニコニコして
「やっと結婚してくれる事になったか」



そしてですね、この後の話があって
「ちょっとこれは面白い」と
ここまで凄い人になると


次のライブでは客になんの説明もせずに
「すごく今ストーカー被害に遭っています」と
今まであったその話をボードに書いて説明したんです


で、みんなうわっとゾッとしてる中で
スポットライトを急にそこに当てて
「今そこにいます!」って
その子(=「ミザリー」)を指さしたんです


そしたらその子が


「……ウワーーーッ!」


ってそこで暴れ出したんです


そこに「羊たちの沈黙」のテーマミュージックを流したんです
それで連行されていくんですよ



あのー、今も若手芸人のライブに行ってるんだそうです
まぁ芸人だったらかなり怖い話ですよね


本当にゾッとしますね…。


####


ちなみにこの放送の終了後のことなんですが。

Twitter水道橋博士本人のアカウントで、この「○○な話」放送にあたっての参考リンクとして、当サイトの過去エントリー(「水道橋博士のライムスター宇多丸評」)のアドレスを貼って頂きました

今年 6 月、「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」で博士が宇多丸にあてたコメントを書き起こしているものです。超嬉しいことです。

博士は今回披露したゾッとする話の中で、ストーカー的な被害に遭っている状況を映画「ミザリー」になぞらえたり、そんなミザリーが連行されたライブに「羊たちの沈黙」の音楽を使ったというエピソードをまぶしたりしていました。

この話の中身こそ、博士が宇多丸ラジオのコメントで語っていた「映画的体験」なんだろうな、と思っています。

映画の内側や外側にある不条理こそが人生そのものであり映画的体験である、という映画との向き合い方。今まさに身の上に降りかかっているストーカー被害的な苦境さえライブで臆せずネタにしてしまった芸人根性は、その発露の一端でしょうか。

また博士を追い回したという「ミザリー」が博士に糾弾された結果、ストーカー的行為をやめるどころか「今も若手芸人のライブに行っている」というオチにも、決してその映画的体験が絵空事ではない、まるで周防正行監督の「それでもボクはやってない」で味わったような生々しい絶望感をおぼえました。

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