ひとりずもう

ひとりずもう 上―漫画版 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ひとりずもう 上―漫画版 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ひとりずもう 下 漫画版 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ひとりずもう 下 漫画版 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

さくらももこの青春時代がほぼ自伝的に語られるまんが。上巻が出版されてからおよそ一年が経ち、待ち遠しかった下巻が書店に並んでいたのを発見したので、すぐ買って、すぐ家に帰って、すぐ読んだ。

ちょこちょこギャグめいたおもしろいくだりを挟みながら、高校卒業→さて進路どうしよう? という人生のひとつのタイムリミットを目前にがぜん逼迫感を増した展開で、ももこはさまざまに自分探し的な寄り道をしながらも、いよいよまんが描きに覚醒する。母は我が娘を思いやるあまり常にイライラで、父ヒロシは相変わらずゆるゆる、おねえちゃんはわりとナチュラルである。友蔵やおばあちゃんは登場しない。

そんな中、いよいよオーラスに突入するのだが、特に後半は、ももこの葛藤しっぱなしのまんが道やたまちゃんとのエピソードに力点が置かれて描かれる。

日本酒といいちこ飲んで酩酊しながら読んでたので話半分で聞いてくれればいいのだけれど、高校卒業を期にたまちゃんとお別れすることになるくだりで、ぼくは怒濤の涙が溢れて止まらなかった。次のページがめくれないほど震撼。読了後はしばらく目を潤ませながらベッドに伏して呆然自失となった。

とにかくたまちゃんが神すぎる。いやたしかに本の帯の宣伝惹句も「バイバイたまちゃん」とかそんなえげつない感じで実際まんまとさくらももこサイドの手のひらの上で泳がされたという己の浅はかさは否定しきれないのだけれど、それにしてもたまちゃんは神々しい。ていうかズルい。その存在が。

高校生活の終盤に差し掛かるにあたって、ももことたまちゃんは相変わらず仲がよく、それでもって「いつまでもこのまま一緒にいられたらいいな」という願望と「それでもいつかは別れの日が来るだろう」という悲しい予感に板挟みになりながら、やがて卒業のときを迎える。たまちゃんはアメリカへ留学することになって、とうとうふたりはバイバイ・・・という、一連の、よくあるっちゃよくあるおはなしだ。

でも、伏線というにはあまりにも巨大な「ちびまる子ちゃん」を読者は知っている。なにせこれがでかい。幼いころからのまる子とたまちゃんの長く篤い友情関係は脳にこびりつくほど見てきているわけで、そこをさんざん理解したうえでの、もしかしたら半永久的なものになるかも知れない別離、というのはこれ、作中のももこやたまちゃんの感情にシンクロして、胸にこみ上げるものがひどい。

むろん父ヒロシが本編で言ってるように別に戦地に赴くとか病気で死ぬとかいう重大事でもなけりゃ、むしろ次の人生のステップへ向けた輝かしい一ページではあるよ。とはいえ、過ぎ去った時間ってものは二度と戻らないし、だからこそ尊くて愛しくて、心の中が将来への期待やら不安やら複雑な感情に苛まれるような時期であればあるほど余計にかけがえのない思い出として蘇る。

たまちゃんは、ももこの子どものころから青春時代にかけてのたいせつな時期の、ある種シンボルだろう。たまちゃんのいい意味での「なんでもなさ」は、ももこにとってはそこに常にあるものだった。それこそ小学生のころの小さなころからずっとずっと。たまちゃんとの別離は、親友との断ちがたい別れという事実と共に、ももこが自分の中のなんでもない子どもだった“まるちゃん”に別れを告げることを同時に意味しているんじゃないか。

いつまでもねんねぇじゃいられない、とはいえ、せつないわー。