桑田の引退

桑田真澄の現役引退がやたらと染みる。

三十歳を目前にしているぼくにとって、物心ついたときからプロ野球=巨人戦だし、そんな巨人のエースといえば、とにかく桑田だった。斎藤・槇原・桑田の三本柱が '90 年代前半の巨人を支えてきたはずなのだけど、やっぱりその中でも群を抜いて、桑田だ。

子どものころから投球フォームの真似をしてきた。特徴的な動作はあまりないが、桑田が世に出てから現役引退の現在に至るまで傍目にはさほど大きくフォームを変えることがなく、ワインドアップからフォロースルーの体勢までカチッカチッといちいち律儀で繊細で、まるでお手本のような一挙一動であった。

いきなりマンガのことを言い出すと、小学館コロコロコミック」連載の河合じゅんじ「かっとばせ!キヨハラくん」の中でも主人公の「キヨハラ」より「クワタ」を扱ったギャグのほうが遥かに毒がきつくて冴えていた。いしいひさいちプロ野球を題材にした四コマで描いていた桑田は、爬虫類のような舌、無限とも思える夥しいホクロの数、あげく打者を呪い殺そうとするなどほとんど妖怪だった。

徳光和夫の昔のエッセイに、デビュー当時の桑田を評して「絶対に 200 勝できる」と書かれているのを鮮明に覚えている。今でも本棚を探せば見つかるかな。 200 勝こそ達成できなかったけれど、ケガの影響とか差し引けば限りなくそこに近い実績は残せたわけだ。並の選手ではなかったよ。

伝説の甲子園を経て、ブラッキーなプロ入りから全盛期のまっとうな活躍、大リーグでの登板、そして引退まで、ぼくは桑田と共に年を取り、やがて心は桑田と共に巨人を離れて、北海道日本ハムファイターズに移り変わってしまった。

江川や原だとちょっと年代的に知らないこともあるし、松井や上原までいくと、ちょっと最近。なんというか「桑田真澄」の引退に立ち会ってみて、初めて、僭越ながら一人のプロ野球選手を「看取ったな」という感慨が押し寄せてます。

やぁしかし時の流れの速いこと。