「キリギリス」

KAN のニューアルバム「遥かなるまわり道の向こうで」のオリコン初登場の順位は 28 位、推定売り上げ枚数はおよそ 5 千枚といったところ。

とてつもなく地味ぃ〜な数字ではありますが、5 年前に出ている前作のアルバム「 Gleam & squeeze 」がオリコン初登場 49 位だったので、なんとびっくりランキング的には超ステップアップしているのでした。この期に及んで。

音楽活動がもはやほとんど趣味の域に達しているとはいえ、商業音楽家としてもまだ終焉を迎えちゃいませんよ、という証左でございますわね。

ただシビアに突き詰めていけば枚数的には・・・うーん、ちょっとアレですけどね。なんというか非常にスモールビジネスなこじんまりとした感は否めないわけですが。


そんな売れるか売れないかパッとした結論の出ない現状で、しかし表向きおもいっきり『スローライフ』を提案していやいやゆっくり生きていきましょうョ的なことを主張しているのが、「遥かなるまわり道の向こうで」 2 曲目の「キリギリス」です。

ポール・マッカートニーチャイコフスキーという異次元的な二大作曲家の作品をモチーフにこねくりまわして完成させたっぽいこの楽曲には、と同時に、 KAN のこれまで発表してきた数々の作品のエッセンスがちょっとづつ詰まっていて、その意味で実に KAN らしい、適度に深くてそれでいてお気楽なナンバーに仕上がっています。

古くは 3 枚目のアルバムに収録されている「いっちょまえに高級車」から、わりと近作の「サンクトペテルブルグ」「 Happy Time Happy Song 」「CLOSE TO ME」あたりまでつながっているポールな系譜の末端に、この「キリギリス」は位置づけると宜しいのではないでしょうか。

あとサビの導入部のあたりが 1987 年にリリースされた 1st アルバムに収録されている「セルロイドシティも日が暮れて」の B メロとちょっとだけ似ていて、20 年経っても相変わらずなのだな、と感慨深かったり、あるいは嘆かわしかったりといろいろ揺さぶられます。


そして能力の限界に挑戦して使用楽器のことにサラッと触れてみると、大胆かつ優雅に楽曲を支配するストリングスや、打ち込みではありますが中学校のときに音楽室からよく洩れ聞こえてきた吹奏楽部のような打楽器の音色、「日本のポップスでこの音を持ってくる人はいない」とレコーディング時にその奏者に言わしめたという特殊な生オーボエ(「Oboe d'amore」だって)など、そこはかとなくクラシックな要素も満載だったりします。

典雅でメリハリのついた、スーツのびしっとよく似合う、でもちょっとくたびれてもいる、そんなおとなな仕上がりとなりました。あとイメージとしては NHK の「みんなのうた」風味でもある。牧歌的。