23 回目[方言]


大阪 恋の歌」の歌詞が大阪弁に統一されていることの功罪を、もうちょっとしつこく考えてみる。

この曲が大阪弁の使用を前提に書かれた曲だというつんく♂の公式サイトでの書き込みには今さら曲解の余地も無く、なるほどメロにうまいこと配置された歌詞はモー娘。メンバーにネイティブ関西人が一人としていないにも関わらず活き活きと新鮮に聴こえるもので、特に語尾に多用される「ねん」などは音の響きとして粘っこくて単純に好みである。

こうして歌詞につんく♂が今あえて関西弁を使ったというのは、いわばつんく♂の「魂」の根幹に関わってくる問題であり、たとえば英米の音楽に影響を受けてきた日本人ミュージシャンの多くが自らの楽曲に英語を用いて歌うのと同様、つんく♂は「大阪 恋の歌」に己の浪速ロッカー魂を存分に注入してしまったわけだ。


しかし日本人ミュージシャンが英語でただ歌っているぶんにはごまかしは効くものの彼らの実際「英語で喋る」会話能力に所詮は限界があるように、モー娘。メンバーはいくらつんく♂の仰せの通りに大阪弁をたくみに操ろうとしても、やはり限界を迎えてしまう。

そしてその弊害は「セリフ」に顕著に現われた。

過去「ザ☆ピ〜ス!」や「シャボン玉」などいくつものモー娘。楽曲にてセリフという飛び道具的な表現方法は使われてきて、まぁ結果はよくもわるくも聴衆にそれなりのインパクトを残してきたわけだけど、ではなぜ吉澤のセリフが受け入れられないのかといえば、単純につんく♂の浪速ロッカー魂が吉澤のロシアン魂と完全に共鳴しなかった所為だろう。

かつてハロプロシャッフルユニットの第一弾として発表されたあか組 4 「赤い日記帳」の冒頭英語セリフは、当時ココナッツ娘。のダニエルが担当していて「HEY...I'm afraid to ask you」とかなんとか甘く囁いていたわけだがこれなんかもう英米人魂がバリバリ鳴動していることについて絶対の安心感があり、あと発音もたぶんそれで正解なんだろうなーって感じでつっこみどころがまったくなかった。

翻って吉澤の大阪弁セリフでは、こちらサイドとしても、何回か聴いて仕方なく順応する、感覚を麻痺させる等しか方策はないわけで、すなわち残念ながら愚策だったようだ。


またこの曲の歌詞はつんく♂マニフェストにうっかり従ってしまうと「すべて大阪弁にて構成されている」との思い込みに囚われてしまうため、よくよく聴いていると随所で「大阪弁なの? 標準語なの?」と予期せぬ疑問が浮かび上がることがままある。

たとえば『♪なぁ 仕方ないで 片さんでよ』の部分。

この「仕方ないで」の「で」の部分は、パッと聴くかぎり大阪弁の主に語尾として頻出する『大阪名物パチパチパンチやでー』の「で」に聴こえるのである。ただ、もしそうなると意味が通じない。誰のセリフか不透明になったりする。

ってことで、この「仕方ないで」の正しい解釈というのは「『仕方ない』で片付けないよ」、もっと言えば「『仕方ない』ということで片付けないでよ」なのである。


また他にも『♪雨の駅や まったり歩いた山も 過去形』の『雨の駅や』。

これは「大阪名物ポコポコヘッドや」の語尾であるところの「や」に聴こえるのである。が、やはり違っていて、正解は「雨の駅」と「まったり歩いた山」を同列に扱うなど、並列のあれやこれやを意味する「や」に過ぎないわけである。

いずれも大阪弁をいわゆる J-POP の歌詞にまんま組み入れたことから生じた落とし穴といえる。というかただの重箱の隅だなこうなるともう。