1月16日に渋谷「ヨシモト∞ホール」でパンクブーブーのトークライブ「おパンクCity Vol.3」を観覧しました。
前回の「Vol.2」は、その日がM-1グランプリ前夜というタイムリーな日程だったこともあって、翌日にM-1で実際に披露することになる漫才を2本、そしてハリガネロックのふたりや東京ダイナマイトのハチミツ二郎などを招いてのM-1壮行会トークをメインにおこなっていましたが、今回は漫才が1本でゲストもなし。2人のフリートークがメインの60分でした。
以下、その記憶するかぎりのレポです。
・人気が実感できない話
これは「おしゃれイズム」でも紹介されてましたが、佐藤の自宅の水道や電気が止められて久しいそうです。料金支払いの遅延によるもの。
あげく携帯電話まで止まっていたらしいのですが、さすがに連絡が取れないと仕事に差し障りがあるので、マネージャーに借金をして凌いでいるのだそうです。
急に給料があがるわけでもなく、M-1の賞金が入るのもまだ先だそうなので、それまでギリギリの生活。
M-1で勝ったあと「天狗になってない?」「調子こいてない?」とよく聞かれるけど、たとえば家に帰ってきて、電気もない暗闇の中で「俺、チャンピオン!」とか悦に入っていたら、それはただのばかだろう、と自嘲してました。
今回のライブ自体も満員ではありませんでした。
ヨシモト∞ホールのキャパは282人。パンクブーブー当人は「前売りチケットが230枚くらいさばけた」とスタッフから聞かされたらしいのですが、実際に会場に来ていた客数は、それよりもさらに物足りない人数なのでした。
前回の動員が50人くらいだったのでトータル的にはさすがM-1効果ってことで大幅に客数を伸ばしています。それでもチケットがさばけたぶんのお客さんが来てくれない。ふたりして「単にチケットを買いたいだけの人?」「買ったけど冷めちゃうの?」「なんなの?」と笑って訝しがってました。
・M-1
1本目の笑い飯のネタが終わった段階で、黒瀬はてっきり笑い飯が優勝だと思い込んでいて、最終決戦の結果発表のときも隣に並んでいた西田に「やりましたね! 優勝ですよ!」とフライングで祝ってしまっていたせいで、優勝が自分たちだと知った瞬間、リアクションひとつ取れなかった、という話はよく聞くものでした。
いっぽう佐藤は最終決戦で「パンクブーブー」!「パンクブーブー」!と名前が表示されていくうち、最初のほうこそ「これで2位には入ったな。爪あとを残せた」と安心したものの、最終的にパンクブーブーの名前が7つ連なったのを見て、「どういうこと?」とよく意味がわからなかったらしいです。
あげく「ひょっとするとこれ今ぜんぶパンクブーブーって表示されてるけど、実はすべてが裏側にひっくり返って『ドーン! 実は笑い飯でした!』とか、パチンコのリーチしたときみたいなどんでん返しになるんじゃないか」と危ぶんでいたんだそうです。
聞き手の頭の中で虚構の情景を組み立てさせて笑わせる、いい話でした。
12年前、まだパンクブーブー結成よりはるか昔のこと。
佐藤は当時組んでいたコンビで、オール阪神巨人の前でネタ見せをしたことがあったそうです。当時は若さもあって自信満々だった。にも関わらず巨人師匠からもらった講評は「まだだいぶ時間がかかるな」。佐藤にとってそれは予想外のものでした。
たしかにショックではあった。と同時に、しかし決してバッサリ斬り捨てられたわけでもない。「時間をかければものになるんだ!」と実感したんだそうです。そのことを胸に秘めて今までがんばってくることができた、と言うわけです。
だから、巨人師匠は覚えてないかも知れないけど、M-1で優勝できたことで最高の恩返しが出来たんですよ。と、そんなような深イイ話をしてました。たぶん本家「深イイ話」でも通用すると思います。再現VTR込みで。
そんな話の中で佐藤がオール巨人のものまねをちょいちょい微妙に挟んでいくくだりも黒瀬「え、今モノマネした?」佐藤「やってないけど?」というボケ具合が絡まっていてちょうどよかったです。
・マイケルジャクソン
ライブ用に「一発ギャグを急に要求されたら?」「M-1賞金の使い道を聞かれたら?」というテーマに沿ったトークを展開してました。
中でもハプニング的に面白かったのが「笑っていいとものテレフォンショッキングに出て100分の1アンケートをするとしたら?」というテーマが出されたとき。
そのシミュレーションのような形で、この日のライブ会場に向けて「マイケルジャクソンと握手したことがある人は?」という質問を投げかけていました。
すると、ひとりだけいたんです。マイケルジャクソンと握手した人。なんでも来日したときにホテルの前でマイケルジャクソンが大勢のファンの前を通り過ぎていくそのどさくさにまぎれて握手したとのこと。会場がどよめきました。
近い将来テレフォンショッキングには出演するはずなので、そのとき同じ質問をしてくれたら「あのときの!」って嬉しくなるでしょうね。
・お客さん
佐藤が喫茶店に入ったときに男性の若いウェイターに話し掛けられたけど、なんか、口調が「ワシャワシャ」しててぜんぜん何言ってるか聞き取れなかった、という話をしてました。その身振り手振りのワシャワシャぶりがウェイターの特徴を誇張したもので、あまりにも意味がなくて面白かったです。
すると前の方の席にいた女性客に、そのワシャワシャが完全にどツボにハマッてしまった人がひとりいて、もう声を出して笑いを長引かせてました。パンクブーブーもそのあとで別のトークを始めようとするのですが、その女性がヒイヒイ言っててなかなか収まりません。自分で必死に抑えようとしても抑えきれない様子。イキッぱなしです。
超いいお客さんで、ステージ上のふたりにとっても満更ではない。でも、こんなことではパンクブーブーも他の客も気になってしまって、なかなか次に進めません。
このまま進行が滞っちゃうのもアレだなー、とかヒヤヒヤしましたが、何分か経過してから、ようやくなんとかかんとか収まりました。「あんまり笑いすぎてライブ進行の妨げになるので退場させられる」みたいな例は、かつてあったりするんでしょうか?
また、ライブがまもなく終わろうというとき、客席から佐藤に対して大きな紙袋に入ったプレゼントが渡されてました。中を開けてみると、首周りにフワーッと毛がついてる暖かそうな黒のコート。
ただし、そのプレゼントは佐藤にだけ送られたものでした。黒瀬には何もなし。さっそく着こなして「暖かい!」と悦に入る佐藤と、それをただポカーンと遠くから見てるだけの黒瀬とのコントラストが味わい深かったです。
・まとめ
パンクブーブーの最大の強みは「トークをただで終わらせる気がない」ことだと感じました。
どんなちょっとしたくだりでも、必ず笑いどころを作ろうとする。変な顔をしたりする。過剰な動きを見せる。なんだかんだオチをつける。必ず何かしら爪痕を残そうとするんです。それは鍛錬の賜物か、お笑い芸人のサガなのか。南海キャンディーズ山ちゃんも特異な言語感覚を持っている芸人なのですが、そこに重なって見えています。なんにせよ100パー正しい方向性です。
テレビの売れっ子世界の住民としてハマるかはどうかは、まだわからないですし、ミーハー的にキャッキャ人心を魅了するようなカリスマ性みたいなものは、たしかに乏しいかも知れません。若さやルックスなどの武器はない。ともすれば親しみやすかったり、庶民的だったり、というのが売りになるのかも知れませんけれども。よくもわるくも東京03状態。
中川家礼二が大阪のおばちゃんのものまねをするとき、「アンタそれ漫画やで!」というセリフを用います。ほんとに私見なんですが、パンクブーブーのふたりも、どこか「漫画」っぽいな、と感じています。いわゆる「キャラ芸人」ではないのに、ネタだけじゃなくトークの部分まで、どこかコマ割りがされているような。「吹き出し」で話をしているみたい。こどもっぽさもある。
漫才の最後に黒瀬が「もういいよ、バカッ!」と吐き捨てるコミカル感だったり、佐藤がトークやネタでいい意味で「定型」な身体の使い方をしたりするのも象徴的です。コンビとしての明快な個性をそこに感じています。