パンクブーブーの変わらない日常

23 日夜に新宿「ルミネtheよしもと」でおこなわれたダイノジ東京ダイナマイトパンクブーブー、そしてレーザーラモン RG という男くさすぎるメンツによるライブ「男達のネタ〜男を笑わす男達〜」に行ってきました。M-1 後すぐにチケットを入手。パンクブーブーが優勝した興奮の余熱が感じられるのではないか、と思ったのです。


ルミネtheよしもと」に足を踏み入れるのは生まれて初めてでしたが、めちゃくちゃきちんと整った劇場なんですね。ステージの左右には大型モニターが標準装備。音響も重低音がブリブリ鳴る感じで、照明もバッチリです。キャパは458席だそうでちょっとした本格的な小ホール。

と、そんな立派な劇場ですが、今回のライブは M-1 からわずか 3 日後という日程、しかも祝日であるにも関わらず、客席は半分ほどしか埋まってませんでした。「22時開始」という時間帯が遅すぎたのか、出演するメンツがあまりに男くさすぎたのか。客層は男女比半々くらいで、よくもわるくも平熱。特に浮つくようなところはありませんでした。

このホールでは毎日のように複数の公演がおこなわれているようで、劇場公演があるのが「日常」らしい。今日 25 日もパンクブーブーは舞台に立つそうです。今後たしかに仕事量は目に見えて激増するわけですが、少なくとも僕が行った日は、連綿とつづく中の一日に過ぎなかった。芸歴 13 年の黒瀬と芸歴 15 年の佐藤のシンデレラストーリーはやたら現実的です。

しかもこの日の衣装は、佐藤が派手なスカジャン、黒瀬がローソンの店員のような恰好と、M-1 で黒っぽいシュッとしたスーツで決めていた以前にテレビでよく着ていた衣装でした。客席のテンションの普通っぷりも相俟って、なんだかまるで M-1 以前にタイムスリップした気分、というか、そもそも M-1 なんて最初から存在していなかったのでは? と錯覚するほどでした。

それでも周囲の環境が激変しているのは間違いありません。

たとえば「トークの能力が云々」のようなことをいきなり問われ出します。漫才の大会で優勝したのに「漫才の腕がさらに磨かれるのか?」ではなく「トークはいけるのか?」という方向にばかり注目がいってしまう現状。釈然としないような気もしますが、テレビで売れるというのはそういう事なんでしょう。

今回のライブで見たところ、佐藤は以前から交流があるらしいダイノジ大谷に向かって揉み手をしながら「M-1 優勝できたのもぜんぶ大谷さんのおかげですよぉ〜」とやたら媚びへつらう(もちろん超ワザと)というようなコントを、日常トークの中にまぶしていました。誰もがつっまざるを得ない演劇性をサラッと体現するというアグレッシブな技巧です。気が利きます。

いっぽう黒瀬は佐藤とは対照的に、わりと直情的で人のなさけに脆い元ヤン的なスタイルが一貫しているよう。ビジュアル的にもチビめがねで周囲から可愛がられやすそうです。コンビ揃ってオリエンタルラジオとのキャラかぶりがよく指摘されますが、佐藤は中田より、黒瀬は藤森より、それぞれ 5 割増で諸々泥くさい。キャリアや年齢のぶん哀愁がにじみでていて良いです。

吉本芸人とのつながりも十分あるようなので、トークの心配はいらないと思います。

パンクブーブーはこの日、「命乞い」を題材にした漫才と、「北斗の拳」を題材にしたコントを披露していました。「命乞い」のほうはだいぶ昔からやってるネタなんでしょう。単純に面白かったです。

北斗の拳」コントは、佐藤が女装して別れ話がどうのとか揉めてるうちにだんだん二人で少年ジャンプ的な対戦モードに突入していく、というあまりにも一般ウケしなそうなネタ。今回の男祭り的なライブのテーマそれ自体にはバッチリ沿ってます。佐藤の女装はとにかく抜群にひどかったです。

パンクブーブーが証言するにはこの「北斗の拳」コント、昔劇場で披露したときに大スベリしたことがあるらしく、劇場の支配人から「もう二度とこのネタやるんじゃねーぞ」と殴りかかられんばかりの勢いで責め立てられたそうです。で、その大スベリ以降、漫才の道を志すようになった、と言ってました。そのしくじりが結果的には M-1 優勝につながったのかも知れません。

たとえチャンピオンになったとはいえ、急激にブレイクするようなことは無さそうだ、ということが今回のルミネの客入りで体感的によくわかりました。そうたやすくアイドル的人気に浮かされるような状況にはどうやら陥らない。パンクブーブーはそこが逆に安心です。