「キングオブコント2009」が挑んでいる他のお笑い賞レースとの差別化

22 日に TBS 系で放送された「キングオブコント 2009」(以下「KOC」)は、今年有数のめちゃくちゃ面白い番組でした。

司会のダウンタウンと大勢の若手お笑い芸人というひな壇バラエティ的な構図がまずハマっていたし、ネタ披露前の各出演者の紹介 VTR や、「オロナミンC」の KOC バージョンの CM すら出来が良かったです。

そしてなんといっても唯一の「900点」台を出した東京 03 と唯一の「M-1グランプリ」王者であるサンドウィッチマンのデッドヒート! 最後まで盛り上がりました。要するに生放送中ずっと楽しかったです。

以下いろいろネタの中身以外の感想を書いていきます。ネタは全部面白かったです。


「KOC」が図抜けてすばらしいと思うのは、コントを映し出すテレビの画面が、「コント以外の何か」をいっさい映し出していないという点です。観客や他の出演者の顔が「抜かれない」んです。これが本当に、一度として。

「画面に映るのはただコントだけ」。せいぜいテロップで演者の名前や「 LIVE 」表示があるくらいです。これは昨年の第一回から変わってません。実に徹底してます。

M-1 グランプリ」で例年もどかしく感じるのは、ネタ中の画面に余分な夾雑物が多すぎることです。

審査員の気難しい顔が挟まると、興を削がれる。また観客という立場でスタジオに来ているタレントの過剰なリアクションが映ったりする。しかもそのせいで漫才中のバカウケな一瞬にスイッチングが間に合わず、見損ねたりする。

なのに、この演出はなぜか変わることがない。何十年も前から演芸番組にはそういう伝統があるんでしょうけど、いい加減やめてほしいです。

後発の「KOC」が他番組との明確な差別化として「コントだけを画面に映す」という演出を貫いているのは、ものすごく好印象です。来年以降もぜひ継続して欲しいことのひとつです。


またソフトバンク主催の携帯電話を使った「S-1バトル」への対抗策も、どうやらこっそり取られているようでした。

S-1バトル」は毎月の勝者に 1000 万円、優勝者に 1 億円が与えられ、賞金の総額は 2 億 2000 万円に及ぶという大会。現在進行形で「月間チャンピオン」が誕生し、そのたびに 1000 万円の賞金が与えられているそうです。

「S-1 バトル」がいったいこれから何を生み出すのか。その大会にとって、そのお笑い芸人にとって、どんな価値があるのか。今のところまだわかりません。

さまざまにご意見もありましょうが、ごくシンプルな事実として、この「S-1 バトル」のスタートによって、他のお笑い賞レースの存在感が、こと金銭的なことに限って相対的にひどく霞んでしまった。

もちろん賞金額がすべてではないんですが、他の大会がしょぼく見えちゃうのは否めない。「KOC」の「優勝賞金 1000 万円」が大会の売り文句として弱くなるし、出場者の意識にも微妙な影響を与えていそう。

「KOC より S-1 のほうが儲かるから本腰入れようぜ」みたいな。けっこう根深い問題だと思ってます。


そこで「KOC」が取った差別化は、どうやら「番組内で賞金についてのアピールをしないこと」でした。


サンドウィッチマンが 1 巡目のネタが終わって「暫定 1 位」に躍り出た瞬間に、こんなやりとりがありました。

浜田「どうよ? この得点」
富澤「金のにおいがプンプンしますね」
伊達・浜田「(頭叩いてツッコミ)」
松本「やらしいこと言うな! それ、触れへんようにやっとんねん!

松っちゃんは番組の冒頭で「サンドウィッチマンが優勝すると M-1 と合わせて 2000 万円」みたいな発言をしているので「やらしいこと言う」のは自分だって同じことなんです。

しかし結局、今回の「KOC」において、この優勝賞金「 1000 万円」という金額に言及したお笑い芸人は、松っちゃんと、サンドウィッチマン富澤以外、誰もいませんでした。たとえ冗談でも、どの出演者も口にしていない(はず)。

ツッコミワードの「触れないようにやっとんねん!」があながち冗談に聞こえません。


東京 03 の優勝が決定した場面では、3 人が「賞金10,000,000-」の横長のデカいプレートを掲げて万雷の拍手を浴びているのですが、そんなお祭り騒ぎの中でも浜ちゃんはこんなことを述べていました。

浜田「1000 万ですよー。
ま、『キングオブコント 2009 』のチャンピオンになった! ということですからね。
賞金…も、まぁ、ありますけど」

二言目にはお金の話を絡めて獰猛に笑いを獲りにいこうとするあの浜ちゃんでさえ、「賞金…も、まぁ、ありますけど」などと、まるで取ってつけたような、まさかの淡々とした賞金への言及ぶりなのです。自分にブレーキかけてる。

「あくまで重要なのは『キングオブコント』のチャンピオンになったこと」

とでも言いたげです。それはそのまま「KOC」の番組としての方針をなぞっているような発言にも受け取れました。

まるで賞金に関しての箝口令でも敷かれているかのようです。

「1000万円」の扱いが副賞の「『オロナミン C 』一年分」と大差ないように感じました。

ちなみに東京 03 に対する「賞金は何に使いますか?」みたいなお決まりの「使い道トーク」は番組終了後の記者会見で初めておこなわれたようです。


「賞金 1000 万円をアピールしない」ってのは苦肉の策だったと思います。

しかし今回の番組のクオリティからして、もう「キングオブコント」を「コント日本一を決める番組」とすることに異論を唱える人は、第一回の終了時に比べると一気に少なくなったはず。もう金額云々の問題じゃなくなりました。

大会は来年以降に向けて存続するに違いなく、そうして環境が整うことで、お笑い芸人にとっても新たなモチベーションが生じてこようというものです。

優勝は名誉。賞金はあくまで隠し味(とはいえ 1000 万円あるんですけどね)。

キングオブコント」がその賞レースとしてのブランディングに成功した、みたいな話になりそうです。