サイトやってれば良いこともあるものです。
一通のメールが届きました。
差出人には「株式会社テレビ東京 ライツ事業部」とあります。
ピエール さま
貴殿ブログ「はてなでテレビの土踏まず」にて弊社深夜バラエティ「ゴッドタン」を取り上げて頂いた記事を拝見致しました。
スタッフ一同大変嬉しく思い、心より御礼申し上げると同時に、10 月 21 日にリリース予定の DVD を是非とも進呈申し上げたくご連絡させて頂きました。
DVD を進呈…?
何の因果か、テレ東が「ゴッドタン」の新作 DVD をくれる、というのです。
最初メールを開いたときは「大ウソかも知れない」という猜疑心に揺れました。この世知辛い世の中、そんなうまい話があるはずはない。「ゴッドタン」はたしかに好きな番組だけど、そんな真っ向からベタ褒めするようなことも今までなかったし、と。
とはいえ本当に頂けるというのなら、断る理由はありません。なので、こちらからおそるおそる「送付先」をメールに書いて返信しました。
それから 5 日。
「まさかのマジ歌マジライブ」の模様を収めた DVD です。こんなことは初めてで、なんかテレビサイトやってて良かったです。疑ってすみませんでした。本当はものすごくご丁寧なメールを頂いてました。今回ばかりはテレ東ではなく「テレビ東京さん」と呼ばせてください。すっかり気分は品川祐です。
「マジ歌選手権」について
今回頂戴したのは「ゴッドタン」の人気企画「マジ歌選手権」のライブ版。
劇団ひとりやバナナマン日村、そして「キングオブコント2009」優勝のずっと前からこの企画では完全にメインゲストの役割だった東京 03 の角田などが、あくまで「マジで歌う」というていの「マジ歌」を披露しています。
そんな「マジ歌シンガー」の多くがギターなどの楽器に堪能で、あまつさえ作詞作曲の能力や歌唱力があるという実力者だというのがこの企画のクオリティを下支えしていると思っていて、だからこそ角ちゃんのような異能のスターも生まれたし、日本青年館で生演奏できる「ライブ」も実現可能だったに違いありません。
当初から「芸人がマジで歌う」というていではありましたが、しかしそこには番組が標榜している「悪ふざけ」という要素も初期段階から同時に介在しています。だいたい劇団ひとりが一筋縄でいくわけがないんです。歌舞伎役者の姿でギターを抱えて「大マジです!」と見得を切ったり。あるいは「原始人」になりきったり。完全にアブノーマル。
「マジ歌」シンガー的にはあくまで「マジでやってる」という体裁をとっていて、もちろん実際大マジでやってるはずなんですが、劇団ひとりのような達者が変化球でぶち壊してきたら、それはそれでもちろんお笑いとして成立する。いっぽう角ちゃんレベルにストレートに熱ければ、ほとんどそれだけで視聴者は笑っちゃう。
説明するだけヤボってもんですが、ともかく複雑に絡み合う要素を「マジ歌」というお題目の一点突破でサラッとやっているのが「マジ歌選手権」で、そんなレギュラー企画が今年の 7 月 16 日に東京・日本青年館で開催された「まさかのマジ歌マジライブ」として結実したのです。
ここからは DVD の内容をご紹介。マジ歌の楽曲や演奏の出来、出演者の発言、相澤仁美のゴリラのものまね等すべては拾えないので、ここでは「バナナマン設楽の発言」を軸に追ってみます。
MC のおぎやはぎに混じった準レギュラーという立場にいながら、時には矢作が完全な「ボケ」に回ることもあるため、設楽はツッコミの役回りで終始「素の状態」です。設楽さんの言うことは絶対、という感すらあります。
今日は茶番
オープニング 6 分が経過。劇団ひとりと小木がだらしなくもつれあう小芝居がしばらく続く。
その後の設楽さんのコメントが奮ってる。
設楽「茶番ライブだぞ今日は」
さっそく針路を示した。全体的にそういうとらえ方をすればあとは気楽に見られるということです。
ライブの音楽面に関していえば、きちんとしたバックバンドまで用意した本格的なもので、茶番もなにも、本気そのもの。本放送のときのように「牛乳噴き」によって途中で演奏を止めるようなこともありません。
とはいえ歌や演奏の途中には MC 席のおぎやはぎや設楽のツッコミが平気で入ります。マジ歌シンガー側は基本ツッコミ待ちで、存分に悪ふざけができるステージでした。
たとえ大勢のお客さんの前だろうが、ライブ形式だろうが、「ゴッドタン」のテイストはそう簡単に揺るがない。
サクラ
前半の途中で準レギュラー・有吉弘行が登場しました。「なんで芸人がこんだけ集まって歌うたってんだバカが!」と悪態を突くなど、さっそくのヒール役です。
有吉は「まさかの M 女オーディション」の開催を宣言。もう完全に「ゴッドタン祭り」ですね。会場から「 M 女」を探し出すにあたって、「ピー音」が入るレベルのえげつない下ネタを言ったりするなど、一瞬にして日本青年館のステージが下品になりました。いつものゴッドタンです。
会場をねめつける有吉の顔面は突如としてこわばり、その両目は中央に寄ったようになります。通称「神の目」。
すると、有吉の「神の目」に凝視された客席の女性がひとり立ち上がり、やおら色っぽく服を脱ぎ始めました。「神の目」に見つめられたが最後、遠隔操作で有吉の思いのままに服を脱がされてしまうのです。ざわつく会場。
設楽「やべー、完全にサクラだあれ」
サクラでした。見るからにそうなんですけども。
実際、その女性は本編ラスト曲の「さくら」という演目でステージ上に立って他の出演者と一緒にエンディングを迎える、というオチもありました。まとまった構成です。
「角田晃広デビューへの道」
「マジ歌選手権」におけるスターは東京 03 の角田晃広、通称「角ちゃん」を置いて他にいません。ギターやブルースハープ、作詞作曲編曲の能力、そして歌唱力、いずれもプロはだしという印象です。角ちゃんを中心に「マジ歌」が回ってました。
そして角ちゃんの躍進をサポートし、ともすれば角ちゃんの存在を脅かしかねない人間が、プロダクション人力舎で東京 03 のマネージャーをしているという「大竹マネージャー」。この人のインパクトはテレビのレギュラー放送時から強烈でした。
当初の出演では「マネージャーなのにキーボードがすげー弾ける!」という単純な驚きがありました。ところが時を重ねるに連れて、出オチどころか、その多芸ぶりが次第に明らかになるばかり。基本的にはキーボード奏者のようですが、他にもトランペットやベースも弾いてしまいます。なんかガチャピンみたいです。
人力舎に入社一年目ということで早くもめちゃくちゃ戦力になってるし、むしろ角ちゃんとユニット組むために入社したかのような気さえします。
そんな謎の「大竹マネージャー」はどうやら大竹まことのご子息らしい。角ちゃんが今年 9 月のニコニコ生放送で言ってたそうです。なるほどシティボーイズも元々は人力舎だったようで縁もあり、その話が本当だとすれば納得のポテンシャルではあります。芸があるうえにわきまえている。人気が出るのも頷けます。
今回のマジ歌ライブでは「角田晃広デビューへの道」と題して、レコード会社(ユニバーサル)の人を招いて、レギュラー放送さながらに審査員の口に牛乳を含ませ、角ちゃん&大竹マネのコンビがマジ歌「若者たちへ」を演奏してました。もしも牛乳を噴き出す人が少なければ CD デビュー決定、というオーディション企画です。一回レギュラーでやったときには「デビューならず」という結末だったので、そのリベンジという格好です。
「噴かせなきゃレコードデビュー」できるわけで、本来であればまじめにそつなく演奏をすればいいだけの話。ただそうなるとつまらない。だからマジで歌いながらも全力で噴かせにかかってきます。「仕込み」と勘違いされるほどのポーカーフェイスでさらっと立ち回る大竹マネを従えて、角ちゃんは要所でセリフを駆使し、展開の妙でくすぐる。それはクレイジーキャッツ以来の本格派音楽コントでもありました。
結果「若者たちへ」は見事に完奏。CD デビューを果たしたのです。
設楽「かっこいいけど笑っちゃうんだよね。なんでだろうね、角ちゃんのことバカにしてるからかな?」
ライブとして
「マジ歌」の名目ながらも、あわよくば笑かそうという目的も存分にある企画なので、そのぶん「一回テレビで披露してある程度ネタばれしちゃってるものについては笑いにくい」という決定的なハンデがあります。
本放送の初見のインパクトを超えることは滅多にないし、ライブは「復習」みたいなところがあります。もちろん笑えるけどコアなファンであればあるほど笑える歌詞とかは頭に刷り込まれている。
そのあたりのジレンマは「牛乳を含ませない」ことで解決するようでした。笑う・笑わないを度外視して、「本気の音楽ライブ」を気取る。いい割り切りだと思います。
特に角ちゃんのギターとブルースハープ、大竹マネのベース、そしてドラム、ギター、バイオリンとソロを回して、あとはブレイクの後、一気に合奏する「ロックよろしく」という曲は繰り返し聞きたいほど純粋に格好良いです。
またふだんの「牛乳噴き」から解放されたのは劇団ひとりやバナナマン日村もいっしょでした。ふたりともひそかにギターや歌がちゃんと巧いんですよね。日村の一曲目「頑張れ女子」では松丸アナもコーラスに参加しています。やたら声がいいです。
途中で挟まれるロバート秋山の「LA生中継」(という名の虚飾にまみれた VTR )でもマジ歌が披露されましたが、これはめちゃくちゃでした。「LA生中継」を謳っていながら、映像が完全に新宿駅前だったり、しっかり「編集」の手が入っていたりするのです。
設楽「どうしてこんな大胆なウソつくんだよ」
全ノリの矢作さん
ゴッドタンはおぎやはぎの番組です。このライブでも主に矢作が仕切りを担当しています。
とはいえ他の出演者陣のボケを目の当たりにしてもツッコミらしいことはあまりせず、どんどん肯定的に捉えていこうとします。ボケにボケを重ねてノッていくかたちで話を展開していく。
ふだんの矢作の芸風の延長線上で、この特異な性質が「ゴッドタン」の悪ノリに拍車をかけている部分があるかも知れません。
そんな態度に対して設楽が呆れます。
設楽「矢作さん全ノリなんだもん」
そんなふうに小木も含めておぎやはぎがノッてしまうぶん、設楽がツッコミの役割を担うことになります。ボケの交通整理をする。レギュラー放送でもマジ歌シンガーや番組サイドが仕掛けたさまざまな笑いのポイントにいち早く反応しています。
ありがたい人です。設楽こそが「マジ歌選手権」のフィクサーです。
ってことで本編のご紹介はおわり。
ちなみに DVD の「特典映像」には約 30 分のリハーサル風景と、テレ東・大橋未歩アナによる「ゴッドタンには興味がない」というテイストの前説が収録されています。リハーサルは緊張感の中でも角田&大竹マネ、日村、劇団ひとり、松丸アナが、わりと素な感じではしゃいでるので見ていて単純に楽しいです。
DVD 販売はローソンとテレ東サイトで受け付けているようなので、ご興味のある方はこの機会にぜひどうぞ。とても笑えて下世話でカッコイイ DVD です。もらったからそう言えるのかも知れません。