むしろ AKB48 の「総選挙」にリアリティがあり過ぎた

「今日の晩ごはん何にしよう?」というような難題に日々頭を悩ませている私たちがグローバルな見地から日本の未来を考えることは、本当に難しい。木を見て森を見ない癖がつきまくっている。

ましてや自民党に票を投じてどうなるのか、民主党政権交代して何が変わるのか。さほどピンとこない。あるいは根本的に自分の持っている一票の相対的な「軽さ」が思考力さえ奪うようで、自分の一票が最終的に選挙の結果を左右することは可能性としては決してゼロではないにしろ、限りなくゼロに近い。絶対的に無力ではないけれど、自分ひとりではあまりにも非力。

また望みどおりの選挙結果になったとして、それが本当にベストの選択と言えるのか。政治の動向と結びつきのつよい職業に従事している人ならそのあたりを肌で感じられるかも知れないけど、そうじゃない場合は…? 参政権のありがたみを頭ではわかっていても、そんな閉塞的な状況が投票所への足を遠ざける要因になるのは仕方ない気がします。

そのあたりの対比として、とてもいい「選挙」だったなぁ、と思っているのは、先月とりおこなわれたAKB48 総選挙」です。


知ってる人にはもはや過去の話だろうし知らない人には興味ないはずなのでサクッといきますけど、前作シングル「涙サプライズ!」に封入されたなんやかんやを用いての他ファンクラブ会員などが AKB48 のメンバーの誰かひとりに「ファン投票」できる、という一大イベントが「 AKB48 総選挙」でした。要は「選挙」のパロディをアイドルがやってしまった。

メンバーひとりひとりには「政見放送」でファンに「公約」をアピールする機会が与えられていたし、またお客さんを集めての代々的な「開票イベント」が行われればそれこそ選対事務所での立候補者さながら、それぞれメンバーは悲喜こもごもを抱えて得票結果を受け容れていったようです(超関連:「神様に誓ってガチ!AKB48新選抜メンバーついに決定」ナタリー)。


そんな「総選挙」に際して、なにが最大のモチベーションになっていたかといえば、「公式的な人気ランキングが出来上がる」という一点に尽きると思います。アイドル雑誌のアンケートでもインターネットを介したふざけたランキングでもない。

公式的なランキングは次の活動にもつながります。得票数の多かった順に上から 21 名までが、次のニューシングルの「選抜メンバー」に名前を連ねることができる、という「アメ」が用意されていました。そうなるとジャケット写真に顔が出るわ、PV にも出演できるわ、歌番組があればそこにも優先的に出演できるわで、要は勝ち組です。だからきっちり「売れたい」メンバーにとってこの選挙にかける思いはかなりのものがあった。

必死なのはファンも同じでした。多くのファンには、世の中や周囲のファンに「推し」ていきたいメンバー(いわゆる「推しメン」)が必ずひとりやふたり存在している。みんな、そのメンバーに特化したファンサイトを設営したり、グッズを買ったり、握手会の列に並んで幾度となくコミュニケーションを繰り返したりしながら、俺の想いがあの娘に伝わるように、そしてあの娘の魅力がみんなに伝わるように、とせつなる思いを抱えているわけです。

そんな思いをそのまんま「投票」というダイレクトな行動にガチでぶつけることができた最大のチャンスこそが、今回の AKB48 の「総選挙」だったのです!


先週末には武道館 2 日 3 公演のコンサートを終え、またチーム割りの大胆な再編成などもあって、どんどん新たな展開に突入している AKB48 ですが、「総選挙」の結果は間違いなく各所に影響を及ぼしているようで、こないだ発売されたニューシングル「言い訳Maybe」にはその総選挙で得票数の多かったメンバーが駆り出されています。これまであまり表に出てこなかったメンバーがいたり、逆にこれまで出てきたはずのメンバーがいなかったりしてる。

また AKB48 のグループとしての初写真集となる「 AKB48総選挙! 水着サプライズ発表」でも、もうそのまんま総選挙の「順位」とともに、メンバーの水着写真が掲載されています。


最終的な得票数一位は前田敦子(あっちゃん)で「 4,630 票」を獲得していました。すごい数字だと思います。

ちなみに 9 位の柏木由紀ゆきりん)は 1,920 票。これ開票イベントのタイトルが「神様に誓ってガチです」なので、そこまで言われたらすべての数字を信じるしかないですが、ぼくはあっちゃんよりゆきりんのほうが好きなのでこの結果はだいぶ悔しいわけです! もっと早くこの選挙を知っていれば!

たしかに 2,710 票の差はかなりのものですが、同時にやたらリアリティを伴っている数字でもありました。もしかしたら自分の投票行動によって政権交代が実現していたかも知れない。シングル 1 枚買って 1 票だとすれば、ゆきりんファン 100 人が 30 枚づつ買ってすべてゆきりんに票を投じていればあっちゃんに勝てたんや!

まぁ上記のような完全に理性を失った詭弁は苦虫を噛みつぶした顔でスルーしていただくとしても、それだけのエネルギーを注ぎ込むに足る「総選挙」だった、とどうやら言えそうなんですよね。


基本的には単なるお遊びなので、その結果が及ぼす影響は、衆議院の総選挙とは比較になりません。日本という国をなにひとつ変えることもないでしょう。もっと身も蓋もないことを言っちゃえば AKB の商法にハメられてるだけなのかも知れません。金銭感覚によっては経済的困窮をさらに悲惨なものに推し進めてしまいそうです。

しかしたとえパロディだとしても、ここまで自分の「一票」がその結果を大きく揺り動かすことになるであろう可能性を秘めた「総選挙」は、他にないわけです! また実際その結果如何によっては後のファン活動をより有意義でたのしめる方向にも、逆につまんない方向にも変わってしまう! これが超デカい! 「推しメン」の動向がどう転がるかはそのまま我々にとって死活問題ですらあるのです。


そんな AKB48 のニューシングル「言い訳Maybe」は、最新オリコンのデイリーチャートで同時発売の SMAP のニューシングル「そっと きゅっと」を上回って 1 位を獲得しました。「推定売上枚数」の数字ではダブルスコアだそうです((2009 年 08 月 25 日 付)。

こういう CD ヒットチャートは徐々に形骸化してるようだし、セールスと作品の質は基本的に結びつかないのであまり意味を見出したくもないのですが、SMAP をチャートで上回るというのはちょっとしたエポックメイキングです。それこそ政権交代。次々と AKB から繰り出される仕掛けがファンを引きずり込んでいる。「民意」を汲み取っているのは、誰よりもこういう仕掛けをしてくる AKB 陣営なのかも知れません。


AKB48総選挙! 水着サプライズ発表 (集英社ムック)

集英社 (2009-08-20)
売り上げランキング: 3
おすすめ度の平均: 4.0
5 水着はさいこうだ!
3 あっちゃんが一刀両断に
3 順位は必要ない
3 「濃い」ファン向けの印象が強いですね。
4 AKB48の時代が来た