AKB48新曲「桜の栞」の「合唱曲すぎる」衝撃

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6日深夜に放送された日テレ「AKBINGO!」で、「テレビ初披露」という触れ込みのもと、AKB48のニューシングル「桜の栞(しおり)」(10年02月17日発売)が歌われました。

初めて聞いたのですが、この「桜の栞」、事前情報どおり、むしろそれ以上の、まごうことなき「合唱曲」だったので、かなりビビりました。ものすごいヒットチャートのぶっ壊し方だと思っています。


本当に「合唱曲」なんです。卒業式でみんなが合唱するイメージ、というか「そのもの」なんです。いわゆるところの「バラード」ですらない。ゴスペルのようにクラップみんなで合わせて世界中で大合唱しましょう、という浮かれたものでもない。日本全国あまねく小中高校でおこなわれているであろう「合唱」が、ただそこにはありました。

あまりにも荘厳な曲で、もしやこのあとドラムが爆裂フィルインするんじゃないか、ベースがヌルッと挿入されるんじゃないか、テンポがいきなり倍速になるんじゃないか、などと想像するのはこれまでAKBシングル楽曲の派手派手しい「展開」の妙に踊ってきた自分としてはごく自然の思考回路でしたが、ついぞラストまでしっとりと収束していきました。

あくまで今回披露されたのはテレビサイズだから、フルコーラスだとまた違う仕掛けがあるのかな? わかりませんが。

現在のAKB48音楽を取り巻くキーワードとして強靱なのは『でたらめな大人数』と『制服』だと思うんです。劇場公演とか行ったことないですし、SKEやSDNの現状はわからないので、もっとナマい重大な何かが「現場」にはあるのかも知れませんが、あくまでマス向けには基本線としてこの二点が特に徹底してるはず。

もうすぐ卒業シーズン。なるほどこの状態で「でたらめな大人数」が「制服」で歌うとすれば「卒業式」になるのは道理です。AKBは昨年までも「桜の花びらたち」や「十年桜」などといった「桜」関連のシングルを出していて、それらはイコール「卒業」を想定した楽曲である。今回の「桜の栞」もその流れをきっちり踏襲してるだけなんですよね。

ただ、「RIVER」でオリコン1位取って、紅白も返り咲いて、とさまざまに世の趨勢を引っ張り込んだこの2010年の第一弾シングルとしてどんな曲を持ってくるかというのは、またこれまでとは一風変わった緊張感があったと思うんです。いくら劇場公演が大事だといえ、ここにきてシングル曲でへたは打てない。せっかくつかみかけた流れをトンチキな仕掛けで不意にするいわれはありません。

またライト駄ヲタ一個人としても、「大声ダイヤモンド」から「RIVER」まで続くシングルのあまりの秀作揃いぶりにがっつり心を掴まれてるところもあって、期待してました。

そこへもってしてのまさかの「合唱曲」ですよ。こんな手があったとは! いい曲とかわるい曲とか、評価の範疇を逸脱している。前作「RIVER」からの振り幅がとてつもないのは言わずもがなです。

「かえるの歌」みたいな輪唱コーラスワーク、裏声発声法、ひょっこりマイナーに転じるメロ展開、厳かなコード感、ピアノとストリングスだけという派手派手しさを極力排除したシンプルな楽器構成、ちょっとした「手振り」。いわゆるよくある「合唱曲」のパロディのようでありながら、もう「それ自体」に擬態している。具体的に想起されるのは「大地讃頌」です。

その狙い自体に、つくってる人たちの、あまりにも強靱な方向性の見定め方であり、静かな狂いっぷりを感じています。実はものすごいフルスイングで振り切っている。ヒットチャートにこの曲を放流しようという発想と、また実際にやっちゃう英断に震えます。「アイドルソングってもっと自由でいいんじゃないか」と問いかけられている気さえしてきます。

もちろん季節的なテーマ選択として、卒業シーズンに向けた「合唱曲」というのは的を外してないし、ましてや「AKB=大人数&制服」ということが浸透した今というタイミングも含めて、選択肢としてはこれ以上のものは無いのかも知れません。

ともかく、このタイミングで「合唱曲としては初のシングルチャート一位を獲得!」とか、オリコンで変な冠を付与される日も近いんじゃないでしょうか。


制作者陣について以下に触れていきます。

作詞・秋元康はいつもどおり。「♪桜の花は 未来の栞 いつか見たその夢を 思い出せるように」「♪桜の花は 希望の栞 あきらめてしまうより このページ開いてみよう」とか、この内容、案外捨てたもんじゃないです。

作曲は上杉洋史という人。シングルでは「桜の花びらたち」、また配信限定の「Baby!Baby!Baby!」など、AKBでは定期的に仕事している人らしい。ハロプロ仕事では「千(=安倍なつみ)」の「たからもの」の作曲者で、アレンジャーとしても藤本美貴「ロマンチック 浮かれモード」を代表に、09年のBerryz工房「そのすべての愛に」、℃-ute「約束は特にしないわ」などの編曲をしている。

編曲は光田健一という人。AKBでは「遠くにいても」という公演ラスト曲のアレンジをしているらしい。元スターダストレビューのキーボードの方で、そういえばテレビで顔見たことあります。またスタレビといえば元々アップフロントの所属ですからハロプロ周辺とも縁があって、08年末の「シャ乱Q結成20周年ライブ」でもサポートキーボードを担当していたそうです。いろいろつながります。

注目なのは、こうした「いつもどおり」の陣容を擁して、どんな仕掛けをしてくるか。それがどのタイミングなのか。仕掛けた結果、どんな層を巻き込んで、どこまで拡がりを見せていくのか。あるいは壮大にズッコケてしまうのか。もしも小中校生の合唱曲の定番にでもなったりすれば、かなり壮大な「あがり」と言えそうです。

で、PV監督は岩井俊二だそう。楽曲の制作者陣はわりといつもどおりだけど、こういうネームバリューの部分でひとつ早々に大きな話題性を担保してあるのも手堅い印象です。ぜったい映像見たくなりますもん。


7日放送のフジ系「とくダネ!」にもAKB48が出演していました。「RIVER」と「桜の栞」の2曲を歌っています。

「AKABINGO!」と同様、メンバーはこれまでテレビ出演の際によく着ていたようなゴテゴテでギミック感のある衣装ではなく、もうそれで学校通ってもおかしくないようなシンプルなセーラー服的な衣装を着用。今作におけるリアリティ志向が見えてきます。

司会の小倉智昭は「RIVERは口ずさむことができる」「AKBはいい曲が多いよ」「秋元康は俺の高校の後輩」などと発言。「桜の栞」についても、ナマ披露後に「ぜっったいヒットするよ! 本当にいい!」と軽妙に太鼓判を押してました。心強いかぎりですね。

番組のラストには宝塚好きだという笠井信輔アナが「嫌いじゃないです」と含みのある誉め方をしていました。「とくダネ!」に見つかったAKB48の今後に興味津々です。中野美奈子アナと宮崎美穂(みゃお)がちょっと似てる気がするのは余談です。