ザブングル単独ライブ DVD 「〜呆〜」感想文

TSUTAYA の会員期限を更新するついでに一本お笑い DVD でも久しぶりに借りようかな、と緊縮財政の身の上でありながら不埒にも思ってしまい、ザブングルの単独ライブが収められた DVD 「〜呆〜」を 1 泊 2 日でレンタル、実にサクッとスピーディに鑑賞しました。

今回はその感想文です。

先入観

「カッチカチやぞ!」「悔しいです!」などのギャグはたしかにケタはずれのパワーを持ってるけど、あんまり連発されると「またそれかよ」ってなっちゃいます。どうしても。たまにニヒルに素のトーンで「悔しいです」ってフェイクで言ってみたり工夫は凝らしているにしても、それすらお決まりギャグの呪縛から逃れるものではない。

コントの進め方もいつも定型の範疇に収まっているように感じられます。加藤がチョップするときは「エリザベス!」だし、ノリツッコミするときは舌出してブルブルブルブルって相方の松尾陽介にエア二丁拳銃をぶちこむし、T シャツは 8 割方「ファミ通」だ(ビビる大木からのプレゼントらしいです)。ともかくいつ見ても自らの芸風を型にハメて成立させようという意識に囚われているように見える。

最近でこそ「イロモネア」でウッチャンに若干ウザがられ続けるというポジションをなぜか獲得したこともあって新しい展望が見えますが、ライブにも赴かず、テレビだけでザブングルの活動を追っている人間からすると、とらえ方に困ってしまう。未だ続いているショートネタブームで生まれては消えていく芸人が多数いる中、わりと安定したタレント活動を維持しているからには、どこかしらに「見どころ」があるのでしょうけれど。

などといった積年の首ひねり系モヤモヤ疑問を解消するうえでの手がかりになるかも知れないと考えたこともあって、ライブ DVD を借りてみたのです。

よかったところ

加藤がテレビで頻繁に見せるような顔芸、筋肉芸はライブでは全体的にさほどフィーチャーされていませんでした。勝手に悪目立ちしてしまうというのは天性の DNA 的なものですから仕方ない面がありますが、さすがにそう全部「悔しいです!」で落とすような構成ではなかったです。

秀逸だったのは、暗黙の了解のみを前提に力づくで「すれ違い」を続けることになる社長と社員のコントでした。主語や肝心なキーワードを伴わずに思い込みだけで話を進めていったあげく最悪の事態に陥ってしまう。「やぁ、これはどうもアンジャッシュっぽいぞ?」と言ってしまえばそれまでで、これもひとつの様式に自分たちのできることを忠実に当てはめているだけなのかも知れませんが、それを淀みなくこなせるのはさすがのコンビ力だと思います。

コントとコントの間、いわゆる幕間のお着替えタイムには、ザブングルのふたりを模したミニアニメが流れてました。これは非常によく出来ていました。ちょっとレトロなニュアンスで押しつけがましくない。効用としてはその後のコントにつながる内容でもあって、よけいな説明セリフを不要にする役割もある。すばらしかったです。

そうでもなかったところ

副音声で松尾が「設定ボケ」だと簡単に解説していた医者コントというのがありました。お笑い芸人が医者をやって「笑いで病気を治す」という時代が来る、みたいな内容です。その設定自体はたしかにボケというか SF めいたものでしたが、これはせっかくの設定があまり生きてない印象でした。なんだかんだ展開しながら、結局は加藤が付け前歯や大きめのコンタクトレンズを顔面に装着してイヤミの「シェー!」で落とすとか。

「設定ボケ」の枠組みは成立してるし、加藤のビジュアルも強烈すぎるんですけど、結局行き着くところは一発ギャグ頼みになっている。他のコントと変わらない。

これ以外の複数のコントでも、設定自体を覆すどんでん返しみたいな「大きな」ことを途中でやってます。冴えない男のようだけど実は女だった! みたいな。しかしそういうのもことごとくサラッと流しちゃっているんです。ひたすらトークのおもしろさだけで推し進めようとしているコント(「合コン後のファミレス」等)などでは終始フワフワしっぱなし。オーラスのコントは、加藤と松尾がボケツッコミを逆転してみたり、それまでのコントを一気に振り返るような遊び心のある趣向で、単独ライブの最後のネタとしてやりたいことは間違ってないと思うんですが、やはりこれも畳みかけるような怒濤の押し一本みたいのを欠いていました。

ギャグというわかりやすい部分以外で、メリハリが無いことが多かったです。びっくりすることや感心すること。加藤のキャラを上回る独自の武器が見当たらない。しかも舞台上のアクセントは決まって「暗転」。「悔しいです!」を極力使わないようにすると途端にバリエーションに乏しくなるかな、と感じました。

副音声

DVD 特典として、さきほどからチラッと触れてるように「副音声」が入ってます。これはさほど気負っていないせいかちゃんとおもしろいです。

ステージと違うのは声を張ってないことくらいで、言ってることのクオリティは舞台上と同等なのです。ネタ中の加藤の顔をいじったり「汗かきすぎ」とかふたりがかりでツッコんだり、加藤がシレッとボケたりまちがった価値観のことを言い続けて松尾が訂正したり。強引なギャグに頼らないぶんトークのほうが好みかも知れません。

ただ、「ごく普通」です。雑談以上話芸未満。ふたりとも自分たちのコントを客観的に眺めてはいるけど、決して批評的になっているわけではない。見切りをつけている面もあるのか、鬼気迫るところがない。

これは副音声と本編コントの出来にも共通して言えるのですが、中堅ならでは、もしくは三十代中盤という年齢から来るような若干のゆるさが、ひどく歯がゆく感じられた一本でした。加藤がとにかく尋常じゃない汗の量で奮闘ぶりだけはよく伝わるのですが。