島田紳助の飽きっぽさ

「飽きた!」とコーナー途中でゲームのルール変えちゃう


フジ系「クイズ!ヘキサゴン 2 」で「ムカデ競争クイズ」というチーム対抗の団体戦クイズがつい最近始まったばかりです。

しかしどうやら司会の島田紳助がそのクイズに秒速で飽きてしまったらしく、29 日の放送ではコーナーを進行しているその真っ最中に、いきなり「飽きた!」とダイレクトに言いはなって、まるで思いつきともいえる口ぶりでクイズの「新ルール」を次々と発表していきました。

そのルールというのは、たとえばこれまではクイズの答えを「チーム内で相談した上で」ムカデの先頭の人が答えていたのですが、これを「チーム内での相談を禁止にして」先頭の人が答えるというもの。

これによってクイズの正解も不正解もすべてムカデ先頭者の責任となる。そして誤答した場合は「先頭の人を入れ替えて」スタート地点からまたムカデ競争を再開。クイズの難度が高い場合は何往復もしなくてはならず、よりチームワークが問われることになる。ざっくり申せばそういう内容です。

コーナーの途中にも関わらずそんなテコ入れをするのです。やりながら徐々にルールをブラッシュアップさせていく心積もりの様子。もうフレキシブルすぎるというか、あるいは一種の OJT (オン・ジョブ・トレーニング)とでも言いますか。

司会者の「飽きた!」という鶴の一声でルール変わっちゃうというのは、その「権限」がまず強大ですし、司会をただこなすだけじゃなく細部を練り直しながら進行してゆくという頭の回転にも感嘆します。ふつうこういう練り直しって番組の収録が終わって一段落ついてからの反省会とか、事前の打ち合わせの段階でやりそうなことです。

大前提として「コーナーをよりよくしよう!」という前向きな意欲があるはずなので、「飽きた!」という言葉は単なる方便だったのかも知れません。それにつけてもテコ入れの速度たるや。

名越康文による島田紳助の診断


昨年 12 月に放送された日テレ系「人生が変わる 1 分間の深イイ話」で、性格分析・分類などを生業としているという精神科医名越康文が、島田紳助の飽きっぽさについて「診断」してました。かなり前の話ですみません。ついこないだ午前中に再放送やってたんです。

名越先生は島田紳助のことを『プレ・フェストゥム』である、と診断してました。

「次は何があるか」「もっとすごいことが起こるんじゃないか」の中に自分があり、「今愉しんでいる」はずの所には飽きている。将来にのみ自分自身を見出す。先進的なアイデアで他人を愉しませるが、自分はむなしい。

「症例」のひとつとして、島田紳助はゴルフをやっている最中、同行していた友人に対して「なんかおもしろいことないかな?」と発言したといいます。友人からは「今やっとるやんけ!」というつっこみが返ってきたそう。

「なんかおもしろいこと=ゴルフ」を今まさにやってるはずなのに、本人はその現状を別に愉しいとは思っていない。決してゴルフが愉しくないわけじゃない。ただ「他にもっとおもしろいことがあるんじゃないか?」という考えが頭から離れないらしいのです。

それは新たな「おもしろいこと」を探求するという、お笑い芸人としてはすごくポジティブな態度のように一見思われます。ところが次々に興味・関心が移ることで、今現在やっていることに興味が持てない。次に起こることに“のみ”心がいってしまい、「現在がまったく愉しめない」「自分がそこにいない」のが困りごとのようなんです。

『プレ・フェストゥム』の別の「症例」として名越先生は、メリーゴーラウンドに乗りながら、木馬の背中のうえで、しかしその状態を愉しまずに「さて次は何に乗ろうっかな〜?」と探している子どもの心境を挙げてました。その「心ここにあらず」が常態化するのがマズい。

フェストゥム』は「祭り」という意味のラテン語らしいです。フェスティバルと単純に同義と思われます。

『プレ・フェストゥム』は意訳すると「祭りの前」。真逆の言葉としての「祭りの後」(ポスト・フェストゥム)が過去の愉しすぎたイベントの記憶に囚われたあげく陥ってしまう虚脱状態だと考えると、『プレ・フェストゥム』の「今現在の虚脱状態」も理解しやすそうです。

それもひとつの価値観であり生き方なのか。それとも病的なものなのか。

島田紳助はそのものズバリ自らの症例を名越先生から「診断」されて「あとでカウンセリングお願いします」かなんか言ってました。「飽きっぽい」どころではない「次へ次へ」の性質を自分でも気に病むところがあったみたいです。『プレ・フェストゥム』というそれっぽいネーミングで分類されたことにも納得いったようでした。

『プレ・フェストゥム』とは


島田紳助をして唸らせるほど『プレ・フェストゥム』はしっくりくる用語だった、というのが本更新の主旨。

ただ、ためしに『プレ・フェストゥム』を掘り下げよう、「解説」みたいなもんを引用しよう、とググッてみたりしたのですが、あまり有益な情報は得られませんでした。名越先生がこの「深イイ話」で言ってるのをレポートしたブログが存在するくらいです。それ以上の深度がない。Wikipedia にも項目がありません。

で、この『プレ・フェストゥム』がたしかな専門用語であることの裏付けをしようと一昨日、これ書いてるぼくは近所の図書館や大型書店に赴いて、いろんな精神医学や心理学の用語集とか辞典とかで『プレ・フェストゥム』という用語を調べてみました。

しかし、どの文献にも、何ひとつそれらしい用語は載ってませんでした。もっと専門的な論文集とかに当たれば見つかるのかも知れませんが、少なくとも市販されてるレベルではサッパリ。探し方が致命的に悪いのでしょうか。

それでも、木村敏という精神医学者が呈示した『アンテ・フェストゥム』という概念がもっとも『プレ・フェストゥム』に近いのかな、という気はしています。

経験がものをいう実務に適した人、しきたりを重んじ、周囲の人たちとの協調に意を用いる人はポスト・フェストゥム型だし、直観にすぐれ抽象的な思考を好む人、自分の可能性を大事にする人はアンテ・フェストゥム型だと言っていいだろう。
木村敏著「心の病理を考える」(岩波新書)からの引用

分裂病者のアンテ・フェストゥム的な時間は、自己自身に先立つことによって未来を先取りしているような時間であって、未来も過去も現在も、全てが「未知性」を帯びていて、ある種の事態が「現前」していないということに恐怖を抱き、すでに「現前」している事態に対しては驚くべき無関心になる
「フェストゥム」の用語解説

日本における「フェストゥム」概念の先駆者である木村敏は「プレ・フェストゥム」という言葉は用いず、「アンテ・フェストゥム」、「イントラ・フェストゥム」、「ポスト・フェストゥム」という言葉でタイプ分けしていました。「プレ・フェストゥム」という言葉は、後進の造語かもしれません。
プレフェスティウムって何ですか?-Yahoo!知恵袋-

フェストゥム』という概念の先駆者である木村氏が『プレ・フェストゥム』という言葉を用いていない?

精神医学的な病態については専門家じゃないのでむやみに掘り下げられませんが、少なくとも名越先生が発した『プレ・フェストゥム』という「用語」に関しては、精神医学に定着している専門用語に端を発した「後進の造語」という可能性が浮上してきました。なるほどググってもピンとこないわけです。

しかしこれすら定かではなく、もう人生わからないことだらけです。

それでも名越先生による島田紳助への「診断」が、専門的な「フェストゥム」概念から鑑みても的確だったようなことだけは、なんとなくわかりました。


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