音楽に必要なことはすべて KAN から学んだ


真野恵里菜のメジャーデビューシングル「乙女の祈り」が発売されたのは 2009 年 3 月 18 日なんですが、奇しくもその同日、そんな真野のこれまで発売された全楽曲の作曲を担当している KAN のライブツアー 2009 『じゃぁ、スイスの首都は?』の札幌公演が ZEPP SAPPORO で開催されました。

当初は金銭的なセコさを発揮して「行かない」予定だったのですが、ライブ直前になって「やっぱどうしよっかな」と迷い、なんとなく web でチケットを捜していたところ、ゴニョゴニョ、ということになり、結局リーズナブルな感じで入手してしまったので行きました。

最終的には行ってよかったです。おもしろかった。

なので勢いにまかせてライブ全曲感想文を以下↓に載せておきます。KAN のライブレポートの需要なんぞ世にほとんど無いものだと客観的には推察されますが、でもやるんだよ。



いきなりニセ Perfume 登場の「ポリリズム」で爆笑です。

開演前の 80's 洋楽のヒットパレードみたいな BGM からの流れで四つ打ちバスドラが流れつづけ、暗転して、さぁ幕が上がるぞと客席から拍手が起こるや否や、その四つ打ちバスドラに乗せて聞こえてきたのはその場でボコーダーみたいなので声を加工した「♪ほーんーのーすーこーしーの」だって。そして幕が開いて照明がピカーとついたら KAN とギターの中野さんとベースの西嶋さんが、あのいわゆるポリリズムのポーズみたいのを決めてピアノの上に乗ったりして固まってる。完全な出オチです。「みんな、行っくよー!」という女の子の声 SE がどこからか流れてきたりもして実にカオス。

「そうだ忘れてた。この人たちバカだった」

という最上級のニヤニヤとともにライブは幕が開けました。

おもえばぼくの KAN ライブ歴は 1996 年ツアーのアンコールで「笑っていいとも!」よろしくスーツ着てグラサンつけた KAN がステージセットの階段からタモリきどりで下りてきながら「ウキウキ WATCHING 」の替え歌を歌ってたのを 2 階席から眺めていて、おもわず 1 階にすっ転げ落ちそうになるほどの衝撃を受けたときから始まっています。「アンコール行ってもいいかな?」「いいともー!」。

やがて始まった真の一曲目「健全 安全 好青年」は、「愛は勝つ」直前のシングルでおよそ 20 年前の作品でありながら現在のアレンジでは「ポリリズム」からの流れでドラムキックがすごく力強く鳴ってる感じで現代風にダンスミュージックっぽさが増している印象でありました。続く「 Happy Birtyday 」も同じアルバム「野球選手が夢だった。」に収録されているあっけらかんとした明るい曲調で、わりとアイドルソングっぽい印象はさすが「みんな、行っくよー」の面目躍如ってところでしょうか。「 TOP SECRET 」は 1st アルバムからのめずらしい選曲でフュージョン風のアレンジを施すのがお気に入りらしくオリジナルとはかなり距離のある別物ぶりですが KAN の音楽性の幅広さを感じさせるには十分の出来映え。キメキメでした。あと初期楽曲としてはめずらしく自分で歌詞書いてるのも選曲しやすい一因なんでしょうね。とにかくオープニングから力入ってます。

一転「Rock'n Soul in Yellow」は KAN 本人がとっても気に入ってるふうな 8 分近くにもわたるロックナンバー。ピアノ主体でギターもゴリゴリ鳴ったりしていて途中でリズムパターンもテンポも雰囲気も変わったりしてものすごーく構成的によく練られた曲だと、頭ではよくわかるんですけど、ちょっと長いかなぁ・・・という率直な感想は否めません。引き続き「 Red Flag 」もオレンジレンジに影響を受けてしまったゼロ年代ロックな感じですが途中「ゲゲゲゲゲ」と音声が左右にパンしていくふざけた小細工が意味なくてよかったです。

と、このタイミングで出現するのが「愛は勝つ」。日本中まるごと引っくるめて耳タコ楽曲なのですが、今回は新提案として新たに間奏や後奏にベートーベンの「第九」を紛れ込ませるなどアレンジにも音楽家らしい一工夫が凝らされており、おまえは「こまつ」か、という趣も若干ありました。

でその愛は勝つが終わった瞬間に「みんなどうもありがとう!」とかいってライブ序盤にも関わらずハイテンションのまま手を振りながら全力で爽快に舞台袖に引っ込んだあげく、瞬時に「・・・んなわきゃないですね」と元通りに戻ってくるという小ボケもいちいち嬉しいです。

そして「 GO PLAIN 」はライブで初めて聴きました。事前にセットリストを見たときからいちばんたのしみだったんです。ややバブリーな 80 年代的アレンジに粘り気のあるメロとこじゃれたフェイク。シングルでもないしカラオケにも入ってないし歌詞の中身もそんな深いこと言ってないのですが、攻撃的にソリッドでアグレッシブな音質の気持ちよさが半端ないです。にょいにょいと中毒的な音色の奏でられるシンセ( Roland の「JUNO-G」っていうんですね)をこの曲限定で弾きながら、ちょっとスティービーワンダー入ったカクカク歌唱でギミックたっぷりに歌いあげる。超感動です。この曲を聴けただけで観に行った甲斐がありました。

「結婚しない二人」はこないだ松浦亜弥がアルバムでカバーしたのがきっかけで選曲された印象がとても強いです。ここまでノリのいい楽曲が並んできたところにミディアムテンポのこの曲だから、ちょっと落ち着いちゃった印象はあります。ちなみに WOWOW の番組で KAN バンドをバックに松浦亜弥が「結婚しない二人」を歌うという個人的に涙ものの共演があり、動画サイトに落ちてたのでこっそりリンク貼っておきます。演奏的にはこれと同じイメージでした。

で、ここからは着席コーナーになったんだっけか「涙の夕焼け」はわりとこれまでアコースティックで演奏されることが多かったのですがまっとうにフルバンドのビートルズスタイルでまったりお届けされました。続いてはビリージョエルの「 Scenes from an Italian Restauran 」のリスペクタブルなパロディ作「 1989 」で、これも 8 分を超える長尺ですが着席でしっとり聞けました。会場は ZEPP SAPPORO なのですがお客さんの年齢層が如実に高齢化してきたこともありしっかりパイプ椅子で全席指定されてるところが身体をいたわられてるようでありがたいです。

あと会場ネタついでに書いておきますとライブハウスのワンドリンク制は基本的には不要すぎると常々思っているんですが、今回は冬季限定というふれこみで「梅酒のお湯割り」が用意されてたりしていて、まぁ分量的には紙コップにほんのちょっぴりなんですが、この日は風が強くて外気が冷たかったため、ライブ開始前にほんのり酔えたうえに温まれたのでよかったです。でもなんかブルブル震えてたのは自分だけで平気で冷たいビール飲んでる人が大半でした。

「香港 SAYONARA 」は香港が中国に返還される 1997 年よりだいぶんさかのぼった 1993 年リリースのアルバム「 TOKYOMAN 」収録ですから、あれからもう 16 年経っちゃったんですね。早いです。それをいえば今回演奏されたほとんど全曲が 10 年 20 年あたりまえのオールドファッションドソングス達なんですけどね。ギターの中野センパイとベースの西嶋さんによるダブルウクレレコンビのへなちょこコントを経て、 KAN がそこにはあえて絡まず、まじめにボーカリストに徹する。めずらしい編成で聴きごたえがありました。

と、ここでキーボードの矢代さんがピアノに座ってアーバンなカクテルピアノを弾き始めるという斬新な試み。矢代さんのピアノは KAN とはまったく種類の違った技巧的なニュアンスがあって聴きごたえがありました。またそれに乗せて KAN がわざとうさんくさい小粋なカクテルトークを始めます。やがて話は次の曲「けやき通りがいろづく頃」の歌詞解説へ。登場人物が 5 人とか複雑なのはファンには浸透した話ではあるものの、あらためて聞くとなるほどと思います。「聞き手の解釈ひとつで歌詞なんていかようにも変わる」という主張はごもっともで、そこから飛躍してさりげなく「だからもしかしてこの歌詞はホモ話かも・・・?」と自分の歌詞を一瞬で台無しにするのはさすがです。話してる途中に BGM として矢代さんがピアノ弾き続けるのですがだんだん音がでかくなってって KAN の話を妨害するみたいなささやかなくすぐりも絶妙。曲は歌詞解説があったおかげで妙に沁みました。

「今夜はかえさないよ」はもともと自分の留守電用の曲だったというおなじみのエピソードを軽くおりまぜながら、矢代さんをのぞく中野さん清水さん西嶋さんと演奏者陣総動員でコーラス隊についてて軽く振り付けをしてたのが、なんかスタレビのようでした。いいおっさんバンドです。「カラス」は前説トークで一悶着があり、この曲にだけ使用するというとてもカッコいいフレットレスベースについての解説をしようと意気揚々の西嶋さんが全力でハブられるというやりとりに微笑です。トップレスとかいってるのもばかでした。にしても演奏に用いる楽器は曲に合わせて次々と変わってゆくし、そのたびにダジャレをまじえながら解説がなされたりするのが、音楽基礎教養講座みたいで、これまでもこれからも音楽を聴き続けていく上でとても参考になります。KAN の「こまかいところまで説明したがる癖」から多くを学びました。

いま思い出しましたが、今回のツアーの衣装は「普段着」と称してメンバーそれぞれが変な海賊みたいな帽子をかぶるような、見方によってはディズニーランド従業員のようなテイストで、これまでの KAN の衣装からすればそう突飛なものでは無いながらも、「なんなんだその帽子は・・・」といちいちじわじわくるおもしろさがありました。

「ときどき雲と話をしよう」は逆にめずらしい CD 音源バージョンでライブ版でおなじみの幻の歌詞追加はなし。あっさりしています。と立て続けに「まゆみ」は鉄板ですね。強靱な楽曲パワーに圧倒されます。

ここまで着席によるまったり鑑賞。いつ立ち上がるきっかけがあるのかと不安でしたが、モータウンな「恋は TONIN' 」が始まってふたたび起立。初期 KAN ソングは、はたして時代性のせいなのか若いころの作品だからなのか、やたらポップでファニーです。続く「 Oxanne 」はライブアレンジには特に変化がなく相変わらずおっぱいパイパパイパイパパイパイとかボインとかいやらしいことを叫んでおりました。「 Superfaker 」はビリージョエルばりの正統派ピアノロックで KAN が突拍子もなくピアノの前から客席のほうへダッシュしたりして実にたのしい。

本編ラスト「 Moon 」はナマで初めて聴いたかも知れません。本編を締めるのにふさわしい武骨なバラードです。最後はいったん収束したと見せかけといて、あらためてインストで盛大にアウトロが奏でられ、姿勢をただして本編がきっちり終わります。

で、アンコールに入る。はずが、いったんメンバーがぞろぞろと一列に下手(しもて)にはけたと思ったら、そのまま間断なく上手(かみて)から何食わぬ顔で登場、という「イリュージョン」と称した悪ふざけの演出が出ました。誰か他にライブでこういうことやってる大の大人がいるもんでしょうか? おそらく舞台裏で走ったのでしょう、50 歳近いメンバーがみんな息切らしてたのもくだらなかったです。「弾き語りばったり」で KAN ひとりでやってて爆笑でしたが規模がバンドに拡大してしまった。

アンコール一曲目はビートルズのロックンロール「 Revolution 」で KAN は先人の洋楽をカバーするときはまじめですし英語の発音もよさげなのでカッコよさが遥かに増します。「適齢期 LOVE STORY 」は恒例なので正直またかよって感じもあるのですが、なんだかんだで「全曲つなぎ」はいつ聞いても圧倒的におもしろいし半ばにいきなり挿入された「崖の上のポニョ」も「♪おっきなおっぱいの女の子〜」だかおげれつなわけわかんないこと歌ってました。

バンドメンバーが紹介されて、はけて、ラストは単身弾き語りで「 50 年後も」。最近お気に入りなんでしょうね。個人的にはオリジナルのバンドアレンジバージョンのほうがハーモニカ的音色もあってよりスティービーワンダーのバラード曲っぽい透き通ったイメージが広がるんですが、もちろんこれはこれでまっとうな〆でありました。

終演後のアナウンスはニセツアータイトルを発表するもので「じゃあ、清水の趣味は?」。清水さんはドラムの人ですが、こんなもの深いこと考えたって仕方がないです。

公演時間は 2 時間 15 分ほど。無数に散りばめられた音楽的ギャグ、いちいちくすぐってくるトーク、すっとぼけコント。もちろん基本的には熟練のミュージシャンさんたちがまじめに演奏してくれるし細かなアレンジがほぼ全曲に施されていていつも CD 音源で聞くのとは一味二味ちがっていて耳に新鮮なのですが、結局は延々とずーっと笑いっぱなしでした。ネタバレしてても関係なく愉しかったです。

余談ですが、Perfumeaiko のことが好き(特にあ〜ちゃん)で、aiko は KAN のことが好き(今回のツアーも ZEPP TOKYO 公演に来てたとか)で、そして KAN は ライブで Perfume ネタをやってしまった。この三すくみがこのたび成立したということだけでもぼくは満足です。なんて個人的な世界。

さぁそして次は真野恵里菜( KAN 楽曲のかわいい担当)の出番ですよっと。行くぜ握手会!


LIVE 弾き語りばったり#7~ウルトラタブン~全会場から全曲収録~
KAN
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おすすめ度の平均: 5.0
5 すごいアルバムですねぇ〜
5 褒め言葉しか見つからない…何と素朴かつ巧みな弾き語りか!
5 名曲の嵐
5 ある意味1番のベストアルバムです☆
5 凄いアルバムが完成です