「アメトーーク!」にとっての明石家さんまの優先順位

6 日放送分の「アメトーーク!」は雨上がり決死隊の結成 20 周年を記念した特別版だった。

「サプライズゲスト」として明石家さんまが出演している。


『ちょっと待ってください!これトーク番組ですよね?』


一般的な「トーク番組」では、当然のことのように、司会者がゲスト出演者にあれこれ話を聞く。

しかし「アメトーーク!」はそんな一般的な「トーク番組」とは趣が違っている。いつも出演者による「トーク」と共にはあるのだけれども、決してそこだけには囚われない。企画ごとに主旨が違う。お笑い芸人が重用される。ときに歌ったり、即興コントしたり、プレゼンしたり、団体芸したり、ロケに出たり。わけのわからないことにもなる。

いよいよ我慢しきれなくなって宮迫博之が確認する。「これトーク番組ですよね?」


笑っていいとも!」テレフォンショッキング 6 日の放送に、雨上がり決死隊が出演していた。

画面右下のテロップには『トークの達人 雨上がり決死隊』と紹介されていた。

たしかに「アメトーーク!」が雨上がり決死隊にとっての出世作で、冠番組として最大のヒット番組であることは間違いない。既に芸歴 20 年のベテランでその才能を開花させている。

でも、『トークの達人』というのは、ちょっと違う気がする。

逆に『達人』などではないからこそ、あくまで「企画」主導の番組を続けてくることが可能だった。自分たちのペースに周囲をずるずると巻き込むこともなく、チームプレーとしての「アメトーーク!」の世界を形作ってきた。

かつて誰かが雨上がりのことを「大御所すぎず、若手すぎず」と評していた。

上の立場からその優位性のあるポジションを利用して話を転がしていくのでもなく、下の立場からその脆弱なポジションに屈するものかとばかりに無謀な仕掛けを試みるのでもなく。

これくらいの感じがたぶんちょうどいいよね、って感じのザ・中堅芸人。そんなここ数年の雨上がり決死隊が、さほど「トーク」を究めすぎなかったからこそ、「アメトーーク!」はここまで続いてきた。


『ちょっと待ってください! ほとんどさんまさんの話じゃないですか!』


さんまがゲストの「アメトーーク!」。今回ばかりは雨上がり決死隊のポジショニングが違っていた。

「さんまが司会」「アシスタントにテレ朝の前田有紀アナ」「ゲストが雨上がり決死隊」という役回り。いつも聞き手の雨上がりがゲストにまわっていた。この布陣で雨上がり決死隊 20 年の歴史を、年表と共に振り返っていくことになった。

実質的な進行役は前田アナだった。

前田アナのマイペースな進行役ぶりが、いい意味で番組をかき乱していた。ちょっと失礼な感じがさんまにはフィットするようだった。前田ちゃんグッジョブだと思った。


しかし、いざ番組が進行するにつれ、事情が変わってきた。

「雨上がりがゲスト」なのに、半分以上がさんまのエピソードに覆い尽くされていた。

「娘 IMALUナイナイ岡村の関係」「サイパン旅行」「セックスを H に言い換えたのはオレ」「バツイチ離婚会見」「借金」「お見合い 3 回した」「再婚したい」「ジミー大西」…。

今回の「アメトーーク!」は結局のところ、さんまが雨上がり決死隊をゲストに迎えて、なおかつ自分の話もよく喋る、いつもながらのさんま流のトーク番組だった。むしろただの「さんまのまんま」なのかも知れなかった。

雨上がり決死隊の年表は、結成してから「 11 年」分までしか進まなかった。


前田アナの手元の進行表みたいなものには、さんまに話をふるための資料が載っていたようだ。

雨上がりの歴史と平行して「ちなみにこの年のさんまさんは…」というふうに、ことごとくさんまの歴史も紹介していった。

たしかに宮迫の言うように「さんまは自分の話ばかり!」だったが、そんな展開になるのは必然だった。


年表は 20 年分まできっちり用意されているようだった。さんまも時計を見ながら「オレまだ喋れるよ」と言っていた。

しかし、たとえば過去の「アメトーーク!」で放送された「家電芸人」や、出川哲朗メインの「出川ナイト」のように、「たっぷり 2 週に渡ってさんま vs 雨上がりのトーク!」ということにはならなかった。

ちょうど雨上がり年表の半分にさしかかったところで、前田アナから「そろそろお時間…」というアナウンスがあった。年表の途中で強制終了したように見せかけて、「今日はここまで」という区切りは、あらかじめ決まっていたのかも知れない。


アメトーーク!」は決してトークばかりに比重を置くわけではない。他の番組がやってたことは普通にはやらない。新規性を重視するような番組の方向性が確立している。ときに奇をてらったりもする。

そんな番組が、あらゆるお笑い芸人に対して最大限の敬意を払っているのは大前提としても。

たとえお笑い界の大御所といえども、「アメトーーク!」にとっての「サプライズゲスト・明石家さんま」の優先順位は、「出川ナイト」よりもずっと低いのかも知れなかった。