有吉弘行の握手は力強かった


呼び捨て


12 日の日曜日に新宿・紀伊國屋書店タイムズスクエア店で開催された有吉弘行のサイン会に行ってきた。「嫌われない毒舌のすすめ」(ベスト新書)発刊に際してのイベントだ。


紀伊国屋書店内には有吉のサイン会を告知するポスターの他に、アンタッチャブル柴田や品川庄司庄司智春のサイン会ポスターも目立って貼られていた。ここはお笑い芸人サイン会の聖地でしょうか。

新書を買うごとにサイン会の整理券が一枚渡されるという仕組みなのだが、有吉のポスターにはサイン会の整理券が「先着 200 名」の数量限定であることが記載されていた。ぼくがこのサイン会を知ったのはイベント 3 日前のことで、特に購入予約もしていない。今の有吉の好調ぶりを鑑みるともう整理券は入手できないのでは? と手遅れをいったん覚悟した。

しかしサイン会一時間前。ダメ元でためしに店員に聞いてみる。「あのー、有吉さんのサイン会は…」 店員「はい、何枚でしょうか?」「何枚?」。まだ余っていた。しかもひとり一枚ではなく複数枚の購入にさえ対応できたようだった。拍子抜けしながらもすぐに購入。手渡された整理券の整理番号は「 172 番」だった。リアルな数字だ。

既に多くの報道陣が集まっていた。当日の様子は翌日のテレビや web サイトなどでも報じられている

そんな報道陣の中に、明らかにひとりだけ格好が浮いている女性がいた。T シャツ短パン姿で胸のところに雑な文字で「松野」と書いてある。誰なんだ。名乗っているのにわからない。

ぼくはこのとき前日のガンダム(本物)との邂逅に引き続いて「有吉有吉…」と頭の中が完全に有吉のことで埋め尽くされており、この「松野」の正体に気付くのにしばらく時間がかかった。答え合わせはこのあとすぐ。


午後 1 時の開始時刻を迎え、スーツ姿の有吉弘行が颯爽と登場した。

「かわいい!」という女性からの歓声がほんのちょっとだけ聞こえてきた。有吉は「えー特に何もないんですが、よろしくおねがいします」みたいに挨拶。すぐに着席してサインを始めた。整理番号 1 番で先頭に並んでいた女性とはマスコミ撮影用に芝居がかったニュアンスで握手したりしていた。

まだ握手までには時間があったので、そんな様子を遠くから眺めていると、女性二人と男性一人のユニットが自分のすぐ目の前で立ち話を始めた。

女性のひとりの顔にものすごく見覚えがあった。よくよく見てみると、「麦芽」の小出真保だった。「細かすぎて伝わらないモノマネ」で優香のものまねがヒットした人だ。そうすると隣はコンビの相方ということになる。胸に「松野」。そうだ小出の相方は松野明美のものまねをする人だった。ようやく気付いた。麦芽のふたりだ。

麦芽は有吉と同じ太田プロ所属らしい。何の仕事かは知らないが麦芽もふたり揃って(もうひとりはマネージャーだろうか)サイン会に来ており、客に混じってめちゃくちゃ無防備にあれこれ喋っているのだった。

ほどなくしてマネージャーらしき男性から「帰りの迎えのクルマが到着した」らしいことが告げられた。麦芽のふたりもその場から立ち去ろうと歩みを進め始める。

やるなら今しかない! 「あの、麦芽の小出さんですよね」「あ、はい」「握手してください!」 ってミーハー丸出しで帰りしなに半ば通せんぼするような恰好で握手してもらった。がんばった。優香のものまねから鬼の形相の泉ピン子のものまねまで顔レパートリーの広い女芸人・小出だが、対面した感想としてはなんかちっちゃこくておぼこかったです。

小出に握手してもらったあとで、さてどうしよう。というのは、圧倒的に名前が売れているのは小出のほうであり相方は正直そうでもない。しかしここで相方を無視するのはあまりにも人間失格だろう。なので「松野」のほうにも連続で握手してもらった。わりとキョトンとした顔をされた。


さて本題は有吉だ。

サイン会の列の流れはわりと速かった。特にベルトコンベア式に急かされることはない様子だが、ほとんどの人ががっつくような素振りを見せず、サインを書いてもらったあと握手しながら一言二言かわすだけで、そそくさと壇上から降りていった。有吉ファンはみんな淡泊なのか。

麦芽のふたりとハプニング的に握手したことでいったんドキドキのピークはむだに超えてしまったため、さほど緊張せずに有吉と対峙することができた。有吉がそこに座っていた。有吉! なんだか照れる。

サインの中にハンドルネームで入れてもらうことにした。ぼく「片仮名でピエールでおねがいします」 有吉「ピエールさん」 ぼく「いえピエールで。呼び捨てでいいです」 有吉「呼び捨てで」 中途半端に小細工めいたリクエストをしてみた。呼び捨てでサインしてもらった。そのほうが有吉のサインらしいからだ。

本心としては奇をてらって「ピエールくそバカ野郎」くらい書いて欲しかったが、サイン会での有吉はヘラヘラ笑顔モードでの仕事だったため、あだ名がどうとかゴチャゴチャするのも無いなと思い、呼び捨てに留めておいた。よって今回の更新のトップに載せている画像は「やらせ」です。なんかいろいろめんどくさくて申し訳ない。


有吉の握手は力強かった。

一見ヤサ男のような風貌とも捉えられるが、実は柔道初段。なるほど「リングの魂」や「やりすぎコージー」の「やりすぎ格闘王」などバラエティ番組の格闘技系企画などにもよく出演していたわけで、「大人の男!」という逞しい力感であった。

そして間近で上目遣いの満面の笑みを浴びた。「人たらし」たるに十分なファニーフェイス。一見まったくウソくささは感じなかった。しかしそこがおそらく罠なのだ。おそらく客の顔ひとりひとりが¥マークに見えていたのだと思う。

握手をしながら直接言いたいことは無くもなかったが(「宣材写真はいい加減別のものにしませんか?」等)、ぼくは一言「最高です!」とだけ言っておいた。

サイン会は 40 分ほどで終了。マイクを持った有吉からの最後の挨拶は「なんかみなさんに恥かかせてしまったようですみません」だった。タレントとしての自らの価値を低めるポーズを取ることで、そこについていく客まで巻き添えにしてしまうという泥の連鎖を、すべて引っくるめて笑いに換える。しばらくは有吉ファンとして恥を忍んで生きていくしかないようだ。


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