「オモコロ」は説明しない

オモコロ! あたまゆるゆる大全


今みたいに「ブログ」という呼称がまだ一般的になる前は「テキストサイト」が心のよりどころでした。小さい文字サイズのテキストによってつむがれる、単なる日記とは一線を画した、まっとうにおもしろい読み物群。

今やテキストサイトという呼称は駆逐されてしまったようです。流行した当時には学生だった人たちが続々と社会人になって更新頻度が減っていき、それとともに文化も衰退していくというのは仕方ない面がありますね。しかしその名残りは至るところで継承されていて、ブログはもちろん mixi などの SNS や最近では Twitter などへ足場を移しているようです。

そんな中でもひとつ大きな潮流ができたなと思っているのは、「デイリーポータル Z (DPZ)」「オモコロ」のように、「みんなで力を出し合っておもしろいサイト作ろうぜ」という旗印のもと、web 結社的なサイトがテキストサイトの正当な進化系として発展を続けていることです。

DPZ が先駆者だったように思います。おなじみすぎる「 web やぎの目」であり「死ぬかと思った」のニフティ林さんを筆頭に優秀すぎる書き手が次々と集っているようで、コンテンツの中からは出版化されるものが続々と登場するなど、テキストサイトの未来、ポストテキストサイト時代を生き抜く上でのあるべき姿がそこには呈示されています。「社会」とまっとうにつながっている雰囲気がビンビコきます。

いっぽう、と対比するのもアレなんですが、おそらく DPZ を意識してないこともないのでしょう「オモコロ」というサイトでは、性質的にもっとディープというか濃いというか、テキストサイトの毒素だけを抽出しているようです。イメージ的には DPZ が「社会人」なら、オモコロは「無職」。DPZ が「上場企業」なら、オモコロは「ギークハウス」。DPZ が「富裕層」なら、オモコロは「生活保護」。DPZ の主食が「パンとスープ」なら、オモコロの主食は「野草と泥」。

さまざまなに性質が異なっている上で個人的に共感できるのは、もちろんオモコロのほうです。


そんなオモコロがこれまでの活動を一冊の本にまとめました。発売されたのはもう一ヶ月も前のことですが、立ち読みしてきたのでご紹介します。立ち読みに留めざるを得ないのはぼくも無職だからです。

というか立ち読みしてるとですね、女性の書店員がおもむろにぼくの隣に近づいてきて書棚の整理などを始め出すんですよ。「立ち読み禁止」の無言のアピールでしょうか? もしくは私の存在に気付いて欲しいという性的な意味でのアピールなんでしょうか? わかりませんが、ともかくそのたびに一度退散して、再び立ち読みしなければならず、通読するのに時間がかかって仕方ありません。

しかしやれ昨今では説明責任を果たせだのなんだのと被害者面して安全圏から言葉の暴力を振りかざす輩の多いイヤな世の中ですが、オモコロには「説明しないことの強さ」がありますね。笑いを語るみたいな恥ずかしい言い回しをすれば、根本的な「ボケ」の態度として、とても強靱で揺るぎがない、ということです。不条理、ナンセンス、下ネタ、とことんわけのわからないことを言い続ける。イラストも四コマ漫画も物語のていをまるで為していない。破綻している。

かといって「どこがおもしろいのかわからない」という享受者に対して「ここがこうおもしろいんだよ」と解説するほど無粋なことはないですし、「どこがおもしろいのかわからない」なんていうスタンスの人はとっとと別の娯楽を探せばいいと思います。説明しないことがおもしろに直結する。そのスタンスが徹底しているから強いんです。

「ゴブリンと僕」で一世を風靡したシモダ編集長をはじめ、死ぬほど笑った「グチョグチョライフ」のニスィーベさん、ハロプロテキストサイトとしても名を馳せた「桃色核実験」の原宿さん、その他いろいろな web 上のおもしろ賢者たちが多数にわたって参加している。「オフ喜利」界隈との共通項も大いに感じられます。おもしろくならないわけがないんです。

ぼくにはかねがねテキストサイト文化に対して憧憬と畏敬と嫉妬みたいなもんが入り混じった感情があって、かなり昔からテキストを書いてきましたが「テキサイ文化」との距離としては完全に蚊帳の外でした。インターネットは国境を越えるなんて言いますがあんなのウソっぱちだぜ。北海道民にとって東京の壁は厚い。津軽海峡も越えられません。WEB2.0 だろうと WEB 2 兆.0 だろうとこの距離感は永久に克服できないような気がします。まぁこちらから積極的に関ろうとしてない、というか主体性に著しく欠ける人間性に根本的な原因が…。

ひがみと自己否定は尽きませんがこのくらいにして、オモコロのご発展をこれからもお祈りしています。いかにクズで無職の巣窟であろうと web テキスト文化をどんどんおもしろく発展させてくれそうです。

あと、せっかくオモコロは本を出したのに発売から一ヶ月を経過しても amazon のカスタマーレビューにまだ一個もレビューがないのは、いくらなんでも商売っ気がなさすぎじゃないですか。頭数だけはいるんだから自作自演でもなんでもレビューすればすこしは売り上げも変わってくるだろうに…。そんな商売ベタぶりも含めて「オモコロ」の無職らしさでしょうか。


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オモコロ編集部
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