テレビ芸能界における「ものまね事情」のここ数年の大きな動向としては、「とんねるずのみなさんのおかげでした」の「博士と助手〜細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」の及ぼしている影響が、あまりにもデカい、というのがあります。
「ショートスタイル」なものまねを完全に定着させたことや、「オチで演者自身がステージからいきなり消えたらおもしろい」という発見など、特筆すべき点は数知れず。
で、今回のテーマは、演者がものまねを披露する前にやたら長文でそのシチュエーションを説明してしまうという、いわば「あえて説明過多」なスタイルが完全に定着してしまったことについてです。
ものまねのタイトルが最近ことごとく長いんです。
いつものようにwikipediaを信頼すべき引用元として資料を呈示してみますね。
「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」の第 1 回放送が「 2004 年 4 月 22 日」。そして直近の第 13 回放送が「 2008 年 9 月 25 日」。この約 4 年半にわたる“細かすぎて伝わらないモノマネ"の数々が wikipedia には列挙されています。
さて、ザッと上から下までスクロールしてそのものまねのタイトルに目を通してみたところ、もうこれが一目瞭然。ものまねタイトルがずんずんずんずん目に見えて長文化してるんですよ。年を経るごとに。
以下にわかりやすい例として、野球ものまねで全放送回に唯一出演している「 360°モンキーズ」のものまねタイトルを、第 1 回から第 13 回までザッと並べてみることにしました。
抽出調査みたいになりますが、これがすべてといってもいいです。
360°モンキーズのものまねタイトル長文化の歴史。
第 1 回(2004/04/22 O.A.)
・帝京高校野球部前田三夫監督のノック
・ワンバウンドの球を空振りする元阪神タイガースのフィルダー
・ヤクルトと阪神にいて 阪神にいた時のパリッシュ
・元阪神タイガース ピッチャーのキーオのバッティング
・元日本ハムファイターズのイースラー
(※ものまねタイトル総文字数【108】。平均【21.6】文字)
第 2 回(2004/06/10 O.A.)
・流し打ちで右中間方向に二塁打を打って慌てる元中日のゴメス
・踏み込んで打ちに行った時、インコース高めが来て驚く元巨人のモスビー
・元日本ハムファイターズのイースラー
(※文字数【78】。平均【26】文字。ちなみに「イースラー」で落下するのが定番化しています)
第3回(2005/01/13 O.A.)
・一度だけバッターボックスに立った時の元巨人ピッチャーのサンチェ
・元日本ハムファイターズのイースラー
(※文字数【48】。平均【24】文字。この回はやけにあっさりしてる)
第4回(2005/05/12 O.A.)
・打つ気がないと見せかけて実は打つ気満々の横浜ベイスターズ時代のドミンゴ
・外角の球に思わず手が出てしまった 元日本ハムファイターズのウインタース
・元日本ハムファイターズのイースラー
・内角のボールに苦しまぎれにファールする 元福岡ダイエーホークスの山之内健一選手
(※文字数【124】。平均【31】文字。初めて日本人選手が登場しましたが山之内といえば「福岡のバース」)
第5回(2005/07/21 O.A.)
・ピチピチのユニフォームを着させられてバッティングも窮屈になってしまった、デーゲームの時の阪急ブレーブス ブーマー
・ボールを真芯で捕えた、デーゲームの時の元近鉄バファローズ オグリビー
・変化球に全くタイミングの合わなかった、デーゲームの時の日本ハムファイターズ イースラー
・いつもは流し打ちばかりなのに、強気に引っ張りの姿勢を見せる元阪神タイガースの和田豊
(※文字数【171】。平均【42.75】文字。和田豊はどうもフルネームで呼びたくなりますね)
第6回(2005/10/27,11/3 O.A.)
・フォアボールだと思ったがストライクを取られてしまった元巨人のバーフィールド
・構える前に投げられた元ダイエーのアップショー
・バント慣れしていない元中日のピッチャーのバンチ
・ここ一番の場面に代打で出て来たレッドソックスのオルティス
(※文字数【114】。平均【28.5】文字。投手がたまに打席に立つときのフォームをよくやってます)
第7回(2005/12/29 O.A)
・間合いを嫌いタイムをかけたが、間に合わず、ピッチャにボールを投げられてしまった元広島のランス
・前のバッターがノースイングで、まだ自分の番じゃなかったネクストバッターズサークルの元中日のディンゴ
・ホームランだと思ったがボールが切れてファールになってしまった元ヤクルトのハーパー
(※文字数【135】。平均【45】文字。じわじわ平均値としてタイトルが長くなってますよ)
第8回(2006/05/04,05/11 O.A.)
・不振が続いても使われ続けたが、いい加減見切りをつけられた時の元西武のブコビッチ
・見逃し三振をしたコースを入念にチェックする広島時代のソリアーノ
・内角攻めに苦しめられる台北リーグの張泰山
・次の回のピッチングのことで頭がいっぱいだが、追い込まれてしまったのでとりあえず空振りをしてチェンジになってしまう時の元ヤクルトのホッジスと元巨人のキャッチャーの小田
・フルスイングで空振りする元阪神クルーズと、元巨人キャッチャーの小田
(※文字数【205】。平均【51.25】文字。この回から相方山内が登場。シチュエーションがより複雑になってます。ちなみに唯一の優勝回)
第9回(2006/09/28 O.A.)
・出されたサインが不満だったときの元南海ホークスのバナザード
・強風が吹き荒れる松山坊っちゃんスタジアムで打席に入る前の元阪神のグリーンウェル
・前のバッターが敬遠されいつもより気合が入った元日ハムのイースラー
・スローで見るとスイングしているがフォアボールだと振舞う元近鉄のデービス
・後方に立っていた元ヤクルトホージーと三盗を阻止する元巨人のキャッチャーの小田
・スライディング慣れしていない元阪神オマリーと元巨人キャッチャーの小田
・デッドボールを受け一触即発ムードになる元中日リナレスとそれを止める元巨人キャッチャーの小田
(※文字数【259】。平均【37】文字。「小田」絡みでネタ数も倍増)
第10回(2007/03/29 O.A.)
・倉敷マスカットスタジアムナイターゲームで、虫に対しても感情をあらわにする元中日のディステファーノ
・大振りのイメージだがヒットエンドランのサインには逆らえなかった元ロッテのマドロック
・来日初打席で緊張気味だった元日本ハムファイターズのイースラー
・東京ドームでの試合でチャンスに打席が回ってきたときの元日本ハムファイターズのイースラー
・延長12回の裏 1アウトランナー三塁のサヨナラの場面だが、総力戦になり代打を使い切っていたので、仕方なく打席に立った元中日投手のサムソン・リーと元巨人のキャッチャーの小田
・頭にデッドボールを受け怒り爆発する元日ハムのブリトーと元ダイエーキャッチャーの吉永
・2ストライクと追い込まれ、外角の変化球が対処しきれなかった元阪神のタラスコと元巨人のキャッチャーの小田
(※文字数【345】。平均【49.3】文字。『延長12回の裏 1アウトランナー三塁のサヨナラの場面だが、総力戦になり代打を使い切っていたので、仕方なく打席に立った』←こういうのって細かく説明すること自体が目的化してる感さえあります)
第11回(2007/10/04 O.A.)
・横浜スタジアムでその日全く同じ攻められ方で3三振を取られているにも関わらず、またもや同じ攻められ方で三振を喫してしまう大洋ホエールズ時代の右打席のレイノルズ
・雨の日の試合で打席に立つ元日ハムのイースラー
(※文字数【100】。平均【50】文字。前回やりすぎたのか? この回は出番が少なかったんですね)
第12回(2008/3/27 O.A.)
・インコースのボールを打ちに行ったが、つまってしまいそうだったので利き手をかばう、元横浜ピッチャーのマホームズ
・背が高いが為に、外角の低めの変化球が苦手だった、元ヤクルトのデシンセイ(神宮球場編)
・選手にバッティングを教える、今年からドジャースの打撃コーチになった元日ハムのイースラー
・甲子園球場で完投勝利をおさめた時の元阪神マット・キーオと熱烈な阪神タイガースファン
・タイミングは合っているが捕らえきれていないところを横からのスーパースローで見た時の元広島ケサダと元巨人キャッチャーの小田
(※文字数【240】。平均【48】文字。「今年からドジャースの打撃コーチになった」とかものまねの説明というより単なる最新情報)
第13回(2008/9/25 O.A.)
・広島市民球場の上段まで届く素晴らしいホームランを放った時の元広島のランス
・ウエスタンリーグで三冠王に輝き、かなり期待されて上に上がったが、1軍のピッチャーが投げる変化球には全くついていけなかった元オリックスのボニチ(当時のグリーンスタジアム神戸編)
・キャッチャーフライのノックを買って出る、現ドジャース打撃コーチの元日ハムイースラー
・サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地「AT&Tパーク」で757号のスプラッシュヒットを放つバリー・ボンズと熱狂的なファン
(文字数【225】。平均【56.25】文字)
というわけで、わかりやすく文字数が増加の一途を辿っていますね。平均文字数にして【21.6→26→24→31→42.75→28.5→45→51.25→37→49.3→50→48→56.25】でゆるやかな右上がり。
360°モンキーズの場合は最初から長かったんですが、特に第 8 回から相方の山内が登場し始めたことによって、さらに説明の分量が倍加した印象です。
このコンビに限らず、最近の「細かすぎる」のものまねには、ほとんどすべてに長いタイトルがつくようになりました。「モノマネの説明それ自体」がひとつのネタになってる感すらあります。むしろそんなんばっかりかも知れません。
『ものまねタイトルのインフレ』と言えそうですね。
これだけでも芸能史的にひとつ大きな流れの変化だと思うんです。「細かすぎて」のみならず、さまざまなテレビ番組に影響を及ぼしまくってます。
ただ、タイトルの時点からして説明過多であることが、ときに無粋にさえ感じられることもありゃしないでしょうか?
最初に説明だけしておけば、そのものまねが似てようが似てまいが、とりあえず「オレってば芸人としてちょっと独特の着眼点を持ってるんだよ」という手っ取り早い自己主張にはなり得るわけです。
なんだかちょっと鼻持ちならない気が・・・。
そんな説明過多な状況とは対照的な例を挙げるとすれば、第 11 回大会で森田まりこの繰り出した単純なタイトル「リアルゴリラ」が、ものすごい瞬発力を発揮したりもしていました。
ものまねそのものの完成度に自信があるのなら、あとは細かい単語でビシッと斬れ味鋭いタイトルをつけてしまえば、すごく潔いと思うんですけどね。