プロ野球・埼玉西武ライオンズの一軍打撃コーチとして良くも悪くも名を馳せているデーブ大久保こと大久保博元が知人女性に暴力を振るったとか振るわないとかで書類送検がどうこうとかいろいろアレなニュースが世を賑わせておりますね。
日本一のコーチから容疑者へ、すなわち栄光から転落へみたいな小室哲哉の件にもつながるものすごくわかりやすい構図を容易に当てはめることができて、週刊誌やらワイドショーやらのレベルでもうフルボッコで袋叩きにできる要素が整っている、っちゃいる。
ただしそのいっぽう、所属の西武球団自体があまり事態を深刻に捉えていない様子で特に処分とかもないらしく(あくまで現時点では、ですが)、デーブ大久保もアジアシリーズでふつうにベンチ入りをしてしまうなど、宙をさまよったまま事態が灰色っぽい影を帯びてゆっくりと進展している状況です。
この顛末、今のところ一素人としては「やっぱりデーブはデーブだな」と妙に腑に落ちてしまうところがあって、というのは以前から漠然とではあるけれど、デーブ大久保ってもしかしたらけっこうな悪人なんじゃないかなぁ? と無責任にもうっすら感じてた。
バラエティや野球解説などでデーブ大久保を見るたび、やたら不遜というか尊大というか粗雑というか、見ている側をイラッとさせるような言動が目立っていた。なんかヤだなぁ、って。今似たような印象の人を思い起こしてみると田中義剛が真っ先に思い浮かんでくるんだけれど、それはいったん胸にしまっときます。
で、だからこそ、この 2008 年のプロ野球シーズンを通して、デーブ大久保の仕事ぶりに関してはなにからなにまでものすごく意外に感じっぱなしでした。
時系列を遡っていくと、まずもって西武の一軍打撃コーチにいきなり就任したことがファーストインパクト。旧知の渡辺久信新監督の要請があったといえ、プロ野球でのコーチ経験が皆無だったうえに、野球解説者としてさほど見識豊かであるとは素人目には思われなかったデーブ大久保を、コーチで、しかもいきなり一軍で登用するというのはあんまり無謀じゃないかと訝しがったものです。
そしてセカンドインパクトとしては、前年度の主軸打者であったカブレラや和田を欠いて不安要素だらけだった西武の打撃陣が、そんなデーブ大久保の管理下において、まるでまったく別チームのようにボコスカ打ちまくったこと。「ん? たしか今年の西武の打撃コーチってデーブ大久保だったよね?? どういうこと???」と無数のはてなマークが頭上に明滅するわけです。
それでもって最終的には、半信半疑ながらもどうやらデーブ大久保が本気で手腕を発揮しているのだという事実がなんとなく認識され始め、結局のところ首位の座を一度も明け渡すこともなく西武は強打をもってしてパリーグ完全優勝を果たしたあげく、クライマックスシリーズは勝ち上がるわ巨人との日本シリーズも制覇するわで、名実ともに問答無用の日本一を為し遂げた、と。
その結果として、へたすりゃ「日本一の打撃コーチ」との名声を浴びてしかるべき高みまでデーブ大久保は達してしまいました。
ネット社会ってのは言うまでもなく恐ろしいもので、有名無名を問わず 2ch やら mixi やらブログやらともかくあっちゃこっちゃの全方向から、匿名で顔の見えない市井の人々によって監視されちゃボロクソにけなされたり叩かれたりする宿命になっとります。
むろんデーブ大久保に対しても、昔のテレビ番組での発言や週刊誌の記事などからあることないこと取りざたされちゃ罵詈雑言を浴びせられてるわけです。
しかし、あえて「デーブ大久保は本当に悪人なんだろうか?」と問いたいんです。
悪人であることを前提に問いを発しているのがそもそも失礼極まりない姿勢なんだろうけど、時期が時期だけに、気運がそんな風向きだから仕方ない。飛び込んでくるのは悪い噂ばかりです。
しかし、こんなにも目に見えてわかりやすかったはずの打撃コーチとしての仕事ぶりがはたしてどんなものだったのか、という単純な論点に関してさえも、シーズンを終えて日本一まで決定した未だにまったく決着がついていない。「週刊ベースボール」や「プロ野球ニュース」みたいなものを定期的にチェックでもしていたりすればそのあたり把握することが可能だったのでしょうが、怠ってました。
どれもこれも後追いでチェックするしかないわけです。
このエントリーも意図するとせざるとに関わらず反デーブ連合としての一役を担うかも知れない。すこしも悪意がないとは口が裂けても申し上げられません。
だけど今回に関してはあえてぼくとしてもいい子ちゃんぶって、一見とっつきやすい「悪いデーブ」のエピソードをほじくり返すことは封印したい。
あくまで結果として西武を日本一に導いたデーブ大久保が、ただ悪人のはずがない。
「いいデーブ大久保」を発掘します。
デーブは犬が好き
デーブ大久保は犬が好きらしいです。「二頭の『プー太』と『シズカ』を飼い、『ボクは 100% イヌ派』と公言」とリンク先に記載があります。
また身勝手な飼い主に捨てられたたくさんの犬が結果的に保健所で殺されているといったような深刻な社会問題に対してもたいへん憤っている様子。本当に心の底から犬が好きなんですね。
デーブはプロゴルファー
といっても本格的にツアーに出て賞金稼いでるとかいうレベルではなく、あくまでプロとしてのライセンスを取得したまで、という程度の話なんだと思う。それにしてもいくらゴルフ好きだといえプロにまでなっちゃうのは単純にすごい。がんばり屋さんという他ない。
まぁこういう記事もあります。「所詮『見世物担当』」「もっと腕を磨かないと」など散々な評価。このあたりの事情は疎いのでわかりゃしません。
デーブは謙虚
今年のシーズン中におこなわれた朝日新聞のインタビューがよくまとまっていて、本人の口から語られたデーブ大久保の「コーチ論」がわかるようになってます。
・コーチとしての指導法は
情報と方向性を出せば、選手は動く。だからまず、相手投手やキャッチャーのクセ、状況などの情報を与える。そのうえで、どういう戦略でいくか、どの選手を使うかという方向性をしっかり選手に伝えるわけです。 あとは「いくら負けてもいい、責任は監督が取ってくれるんだから」と。負けを気にして冷静さを失ったり、失敗への恐怖心を募らせたりすることのほうが僕は嫌なので、それはしてくれるな、というのも伝えます。
・選手との対話について
「なんで打たなかったんだ」と責めない。「どうして打てなかったと思う?」と質問するかたちで聞きます。これは 13 年間野球解説者を経験し、多くの選手を取材した中で得た知恵。
・「西武好調の立役者では?」と聞かれ
正直、僕は何もやってない。監督が大きな心で選手をのびのび育てているから結果が出ているんだと思う。選手が好調なのも土井正博(前ヘッドコーチ)さんや立花義家(前打撃コーチ)さんがしっかり基礎をつくってくれていて、まさにその花が咲くタイミングで、たまたま僕が引き継いだだけで。
謙虚だし義理堅いし冷静だしで、模範的なコーチだとすら思えてしまう。名前や写真を出さずに記事だけ読むと誰のインタビューかわからないほど、デーブ大久保のイメージとかけ離れてます。
とはいえ、たまに女絡みの発言であけすけにエロ全開になってるのが引っかかりますけれど。
以前、ジャンボ尾崎さんが「デーブ、無人島にたった一つしか持っていってはいけないとしたら?」と聞くので、即答で「女」と答えたんです
デーブは熱い男
喜怒哀楽を全身でアピールする人だというのはテレビ見てても伝わってくる。いいプレーをしてベンチに帰ってきた選手がいれば自ら飛び出していって全力で抱きしめるし、相手チームが不用意なデッドボールをぶつけてくるようなことがあれば、怒りを爆発的にあらわにします。
象徴的な YouTube 動画をひとつ貼っときます。
5 月の西武ドームでの日ハム戦で、ダルビッシュ相手にサヨナラ勝ちしたとき、デーブ大久保があまりに喜びすぎて「両足肉離れ」したときの映像です。
過剰。戯画的。
しかし笑えるか笑えないかはあなた次第です、といったところでしょうか。
そこがデーブのデーブたるゆえん、愛すべきところ、と好意的に評すればたしかにそうなんですね。画面的にもおもしろいし。ただ、後先考えずにはしゃいでしまう、そんなところが後々に厄災を招きやすい要因なのでは? という気もします。
いくつか項目を立てて「いいデーブ大久保」探しをしてきました。
思慮深くて義理堅い面が目立つ。細かいデータ分析もお手のもの。むろん根っからの悪人ってなわけがない。西武のコーチとして登用されたのもそれなりの理由があったからだと今ならわかります。
しかし今般の、デーブ大久保が女性に対してボコスカ暴力を振るってしまったかも知れない事件は、まさに西武の快進撃と並行して起こった出来事で、仕事をまっとうにこなしているいっぽう少なくとも騒動を起こしてしまうだけの火種を自ら焚きつけてしまった、っていう二面性は非常に解せません。
なにかしらあったんでしょう、デーブ大久保に火をつけてしまったものが。
単純、短絡的、思い込んだらすぐにでもゴー、って感じなのかな。
プロ野球選手という特殊な職業の人の誰も彼もに聖人君子としての立ち振る舞いが望まれるわけではないですが、デーブ大久保はグラウンド外で疑惑を持たれるようなことをやっちゃったのが運の尽き。もはやこれは、グッドラック、という他ありません。
おもえば二岡も巨人の選手会長を任されておきながら、シーズン中にモナに不倫な感じで手を出したあげく、そんなこんなで北海道に飛ばされてしまいました。デーブも今回の騒動でひょっとすると西武を追われ、ついでに日ハムに来てしまえば、うまいこと貧打の打撃陣を改良してくれるでしょうか。
いや、そんなものはこっちから願い下げだ!
と思えてしまうあたり、本気でデーブ大久保に心が許せていません。
「デーブ大久保? えっと、うーん、たしかに根はいい人なんだろうけど、でもね・・・」
くらいのお茶を濁した曖昧な言い回しを、本エントリの結句とします。