つんく♂ちゃんカラオケリサイタル

この煮えたぎる情熱を共有できる方は決して少なくないだろうと思われるのだが、モーニング娘。をきっかけにハロプロを長年追い続けていくうち、ぼくはいつかしらハロプロの優秀女子タレントたちを愛でる感情が芽生えると同時にその彼女らの楽曲を手がけてきた「つんく♂」のこともついでに好きになってしまっていた。というわけで、 W のミュージカル「キャラ&メル」の DVD なんぞを買うよりも先に、つんく♂ニューアルバム「タイプ 2 」を颯爽と購入、また気合いの入ったことにフラゲである。

アルバムとしての出来映えはといえば 11 曲中 9 曲がカバーということもあって、これならばまだ W の「 DUO U&U 」のほうが完成度としてはよっぽどバラエティに富んだ魅力ある作品に仕上がっているものだ、と言わざるを得ないのだけれど、それはそれ、比較対象としては成立していないわけで、つんく♂作品のミーハーな聴き所としてはやはりハロプロ楽曲のセルフカバーということになる。

前作「 TAKE1 」での「ここにいるぜぇ!」「Mr.moonlight〜愛のビッグバンド〜」「草原の人」の 3 曲に引き続き、今回は「大阪 恋の歌」「 Memory 青春の光」「 YOUR SONG 〜青春宣誓〜」とやはり 3 曲が歌われた。なぜかモーニング娘。が 2 曲の松浦亜弥 1 曲というバランスを守っているが、これに意味は無いだろう。個人的には、これまで膨大なリリースがなされてきているだけに全曲ハロプロのカバーでもいいくらいだと思うのだが、いや、これくらい出し惜しみしてくれたほうが逆に貴重で良いのかも、そういえば昔のハロプロのリリースの動向はもっと出し惜しみを大事にしていたな・・・などと自由に思ったりしている。

つんく♂ハロプロカバーを聴いて何がいちばんの収穫かというと、それまで朧気にしか掴めていなかった個々楽曲のメロディラインの輪郭が、つんく♂の実は端正で律儀なウマ歌唱によって、より明瞭に耳に届くということである。

たとえば「ここにいるぜぇ!」の最後の「♪ウォウォウォ みんな ロンリーボーイズアンドガールズ」という盛り上がりどころのメロは、つんく♂バージョンを聴いて、初めて「こんな曲だったのか!」とおそらく楽譜どおりであろう音程をしっかり把握することができた。

今回も「メモ青」では「♪メモリー 去って行くけど」の『行くけど』の『く』の部分が、ぼくの記憶と違う。『く』が強調されている。また「大阪 恋の歌」では「♪とぎれとぎれ 会話になんてならへん」の『ならへん』の『な』が強い。すなわち両曲とも、そこにアクセントを置くのが正解だったのである。これが大収穫! ためしにオリジナル版を聞き直してみると、「大阪 恋の歌」では、たしかにそう歌っている。「メモ青」はオリジナルでは今ひとつ判別がつかないものの、安倍なつみのソロアルバム版で、なるほどたしかにそう歌っているのだった。気がつかなかった。今後は特に意識してそう歌っていきたい。

「タイプ 2 」の曲の詳細について述べると、「メモ青」はオリジナルに比べてテンポを意図的に落としたということで、大人っぽい色気とやらを出したかったのかも知れない。ただ、これは残念ながら演奏がほぼ打ち込みで、オリジナルが海外収録の生演奏バリバリで完成度があまりにも高かったことを考えれば必然的に一聴してそれよりは落ちることがわかってしまう。

というか、このアルバムはスローテンポの曲ばっかりだ。おもえば前作ではチョナン・カンのカバー「愛の唄 チョンマルサランヘヨ」( SMAP の草なぎのソロ曲ね)や、原曲が浜崎あゆみとのデュエットでアルバムでは高橋愛と素敵にデュエットした「 LOVE 〜since1999〜」などもテンポを落としており、つんく♂は単にバラードを気持ちよく歌い上げるのが好っきゃねん、なだけなのかも知れない。「ズルい女」「いいわけ」のようなエロダサアップテンポ歌謡が持ち味と思えるつんく♂歌唱のことを思うと、ややまったりしすぎで物足りない感は拭えない。

そして、やっぱり歌いたかったんじゃん、な「大阪 恋の歌」。モーニング娘。という媒体を借りておもいっきり己のエゴを丸出しにした不気味なシングル曲であったが、これはアレだ、あくまでモーニング娘。高橋愛田中れいな新垣里沙などの歌声につんく♂のうざったいくらいのバックコーラスが厚みを持たせることで初めて一個の作品として世に出せるものであって、それがつんく♂リードボーカル稲葉貴子のバックコーラス、という役割分担では心情的にトーンダウンしてしまうのは否めない。あとイントロから全面的に出てくるリードの管楽器の音がやたらとペラい。正直笑った。ぼくは「カラオケ」を否定したくはないが、この曲に関してはある意味「カラオケ」的な質感の安い音だと思う。つんく♂版はハロプロで超おなじみの高橋諭一アレンジなんだけど、これオリジナルの鈴木 daichi 秀行のアレンジのほうが珍しくいい。

「青春宣誓」はつんく♂のささやき歌唱に耳をやられて評価不能。結局、このアルバムでは五木ひろし「おふくろの子守歌」あたりがいちばんつんく♂らしい実力を発揮している曲なのではないか。コブシ全開だ。