プライベート・ドッキリ

久しぶりに日常生活でドキドキな珍サプライズに遭遇したのでここに書き記すことにする。

こないだ仕事がらみで「自主研修会」的なこしゃくなイベントに馳せ参じるハメになってしまったぼくは、なんか『元スチュワーデス』という経歴で『接客の達人』みたいな位置づけの明るいオバちゃん(名を「川島さん」という)の講演を、聴くともなしに聴いていた。

オバちゃんはテンション高く、また聴衆に対しても許容範囲ギリギリの馴れ馴れしい態度で、ダミ声で。

なるほど話していた内容はおそらくとてもタメになるようなありがたい教訓ばかりだったはずなのだけど、いかんせん講演時間が 1 時間 30 分とやや長く、ただ押し黙って聴いているだけのこちら側としては正直とても眠くなってしまって、他人の目さえ無ければ危うく沈没しそうになりかけていたのである。


そんな講演も終盤に差し掛かった頃。

オバちゃんは軽い小ネタとして、自らが立派に育て上げたという息子たちのエピソードを盛り込んだ。いちばん下の子どもは看護士として奮闘しています、だとか、そんな子どもたちにご飯をつくってやったときにある日「ありがとう」と一言だけ言ってくれて、自分の子どもとはいえそれはとても嬉しかったものだ、たとえ身内でも感謝の気持ちを表明することはとても大切ですよ…とか。そんな感じで。

たしかに言ってることはわかるが、さほど傾聴に値すべき内容では無かろうと思われたのである。が、しかし…。


「あと、ちなみに」

という感じで、しかしオバちゃんがさらに続けることには、そんな自分の子どもたちのことをさらに詳しく紹介し始めたのであり、正直「もういいよ」とかぼくはウトウトしながら思っていたのだが。

「最近ワタシの子ども、よく活躍しているんですけどね。

まぁ名前を『劇団ひとり』って言うんですけど…知ってます?」


…ハァ? なに、さっきから話していたオバちゃんの子どもが「劇団ひとり」? ていうかこの人「劇団ひとり」のお母さん?

いきなりの芸能ネタにまんまとミーハー心をかきたてられた次第である。

話を聞いた瞬間は単なる冗談だろうと訝しがったものだが、…ハッ! そういえばこのオバちゃんの名前は、「川島さん」…! 劇団ひとりの本名が「川島省吾」だということは知っている。しかも劇団ひとりはよくあちこちのテレビ番組で「父親がパイロット、母親はスチュワーデス」とか言っていたじゃないか…!

この目の前でマイクを握っている、それまで何の注目もしていなかったオバちゃんは、劇団ひとりのお母さんなのだった。この点と点が線で結びついたような爽快感はどうだ。


そんなたった一発のカミングアウトを境に、消極的な気持ちでダラダラと参加していた自主研修はぼくの中で『劇団ひとりのお母さんの講演』という意味に完全に書き換わった。なにげない日常に潜むプチサプライズ。そしてぼくがそのカミングアウト後、目が冴えてすっかり川島さん(母)の話に聞き入ったことは言うまでもない。

川島さん(母)も息子がようやく売れ始めた今、いろんな講演でこのネタで客つかみまくってるんだろうな。