代理司会屋稼業

小堺一機が病気で休んでいた「ごきげんよう」が代理の司会者として関根勤磯野貴理子ラサール石井さかなクンオアシズ、ピーターなどを日替わりで起用し、あるいはこないだの「内村プロデュース」の人間ドッグ企画ではいつも進行役の内村光良が珍しく芸人軍団のひとりとして人間ドッグを受けたりその結果がダメで罰ゲームを受けたりという役割であったため、いつも番組に翻弄されるだけ翻弄されてダメ芸人的な位置に甘んじているふかわりょうが、いつものようにいじられながらも進行役を無難にこなし、そして島田紳助が謹慎中ということもあって緊急生放送という体裁を取った「行列のできる法律相談所」の代理司会には、番組の準レギュラーであるところの東野幸治が収まって手堅いまわしぶりを見せつけるなど、ことほどさように最近のテレビバラエティ界は「代理司会」が熱い!

というか、内村プロデュースのお遊び的な人員配置を除けばそれらはいずれも背に腹は変えられない、急場しのぎのキャスティングだったのだけれど、個人的にはバラエティ番組の司会者が一時的にピンチヒッターに代わりましたよという画面を目の当たりにしたときに訪れるこの胸のざわめきはいったい何なのだろう? と思う。もう興味津々で絶対見逃せない。

で、司会者の仕事って一見ひどく難しそうだけど、あくまで形式だけなら見よう見まねで意外に誰でも出来ちゃうかも、ということが最近わかってきた。とりあえずおもしろいおもしろくないは二の次にしても、噛まずにスムーズに話すことがある程度できたり、他の出演者に満遍なく話をふるような作業が一通りこなせるタレントであれば、司会者に必要な最低の技量は持ち合わせていると判断していい。「ごきげんよう」ならピーターくらいのベテランになれば小堺の代わりはそれなりには勤まるわけである。いつもはバラエティ番組の単なる一コマとしてしか扱われていないような木っ端タレントが、なし崩し的にとはいえ己の持ち場を与えられた瞬間に目映い輝きを放つさまには、清々しさやまた一種のカタルシスさえ覚えるわけだ。彼彼女らの大半は司会がまったくできないのではなく、できるよ、できるけど…ただいろんな何か(人気、知名度トークの腕、ルックスの見栄え、知識の量、センス等々)が物足りなかったりしてなかなか起用されていないだけなのだと。

「法律相談所」に的を絞って話を進めると、生放送での代理司会が絶賛されていたものの今さら東野幸治の司会者としての能力はあらためて誉めそやすこともないだろう。真っ先に思い浮かべるのは何年か前までの「笑っていいとも」水曜日での、タモリ爆笑問題山田花子などを一網打尽にした仕切りっぷりであれは大好物だった。でも司会者ってのは毎度の放送回ごとに一定の品質レベルを保っていかなきゃいけない長距離ランナーなわけで、もし紳助が芸能界からこのままフェイドアウトすると仮定して、たとえば「法律相談所」でこのまま弁護士集団を束ねていくのに東野幸治が適任かといえば、そうとは言い切れない部分がある。プライムタイムの番組ひとつ司るくらいの総合的な技量は東野にはあるけれど、東野には東野にふさわしいお笑いの形があるんじゃないか。放課後電磁波クラブみたいなのとか。

「あの生放送の一回かぎりで東野幸治」という選択は「これしかない!」というベストチョイスだったけど、しかしあの法律番組を紳助亡き後も続けていくにはどうすればいいか、誰を司会に据えればいいのかと、勝手にいろいろ案を練ってはみたものの、これが実に難しい。タモリビートたけしは絶対やらないだろうし明石家さんまも紳助とのつながりこそあれ現実味は皆無。所ジョージは法律とかそんなガラじゃないし笑福亭鶴瓶じゃ頼りないし、と誰を当てはめてもしっくり来ない。いちばん画面的に丸く収まりそうなのは上岡龍太郎なんだけどさすがに現役復帰は辛そうだ。いや、そもそも紳助なしで番組が成り立つのか、北村弁護士が愛想尽かして降板しちゃうんじゃないか、懸念は数え切れないわけだがそんなネガイメージは放っときたい。

上に並べたような大ベテランの司会者が未だにバラエティ界で大きく幅を利かせていて、候補者として真っ先に名前が連ねられるような状況にあるいっぽう、しかし東野幸治のような中堅どころがさりげなく隙間に潜り込んできている下克上なさまを見るのは嬉しいものである。このところ若手お笑いブームのいっぽうで 30 歳過ぎの芸人がひとり立ちを果たしつつある。「法律相談所」の司会者の案件に関していえば、藤井隆極楽とんぼ加藤浩次には荷が重いなぁ、とか、あるいはくりぃむしちゅーが案外イケそうなんじゃないか(有田はたしか学生時代に弁護士目指してたっていうし)とか、やっぱり今田耕司が妥当な線、いやいやでも最終的には消去法で東野幸治が適任なのかなぁ、などと、一組一組ハメ込み合成しながら可能性をさぐりさぐり、脳内妄想バラエティを愉んでみるのは乙なものだ。ここであえてヒロミという手もあるな、とか。