今週の「サザエさん」が三人の子供それぞれのジュブナイルだった

13 日に放送されたフジ系「サザエさん」が

・先生からのお歳暮
・ワカメの口紅
・タラちゃんの自立心

の三本でした。

当初は「ワ、ワカメの口紅、だと…?(ゴクリ」という気持ちで見ていましたが、「先生からのお歳暮」がカツオ主役のエピソードだったこともあって、結果的に今週の「サザエさん」はカツオ、ワカメ、そしてタラちゃん、それぞれの「大人の階段のぼる」的なジュブナイルを描いた三本となっていました。

それがたまたまなのか意図的なのかはわかりませんが、なんか「揃ってた」ので、ためしに内容を振り返ってみます。

「先生からのお歳暮」(作品No.6262)


最大のミステリーは「なぜ先生は花沢さんの家にお歳暮を贈ったのか?」

お歳暮のシーズン。フネが波平に手渡した「お歳暮送る人リスト」には、なぜかカツオの字で「担任の先生」の名前が挟まれていました。波平がカツオに「なぜこんな見え見えのイタズラをしたのか」事情を聞き出すと、カツオは

「先生も人の子。お歳暮を贈ることで自分の通信簿の成績を上げてくれるのではないか」

とのゲスな持論を親に向かって披瀝するのです。発想が完全に「賄賂」です。

もちろん波平は「バカモーン! その魂胆がいかん」と説教開始。「あくまでお歳暮はお世話になってるお礼に贈る物だ」と説きます。「どうしてもというなら贈ってもいい。ただし代金はお年玉から差し引いておく」と教育に手抜かりはありません。

カツオは、花沢さんのお父さん(不動産業)が先生にお歳暮を贈るという話を花沢さんから仕入れました。「先生からお歳暮が贈られてきたから、こちらからも贈り返さなきゃ」とのこと。

家に帰ったカツオはそのネタを家族の前で披露すると同時に「なぜ先生は花沢さん宛てにお歳暮を贈ったのか?」との謎を呈示します。フネの推理は「なにか個人的にお世話になったのでは?」。サザエの推理は「花沢さん(娘)に頑張って欲しいとの気持ちでは?」。他人の事情を家族ぐるみで詮索する磯野家。ちなみにカツオによると肝心の花沢さんのお父さんは、お歳暮の中身を確認せず、仏壇にあげて崇め奉っているとのこと。

帰宅した波平も花沢さんのお父さんとたまたま駅前で会ったらしく、お歳暮についても話を聞いたのだそうで、花沢さんのお父さんは「お返しに何を贈って良いか悩んでいる」と言っていたらしい。

後日、カツオが担任の先生に遭遇するや、花沢さんが考えあぐねていた「先生がお歳暮にもらって嬉しいものは何ですか?」という疑問に対する回答を、花沢さんの代わりにこっそり聞き出そうとします。すると先生からは「お歳暮はもらわない主義だ。特に生徒からのお歳暮は絶対もらわないようにしている」との意外な答えが返ってきました。

先生の答えをカツオから聞いた花沢さんのお父さん(声・若本規夫)は怒りが収まりません。曰く「自分が贈っておいて受け取らないとはどういう寸法だ!」「答えは出てる! もらったお歳暮を突き返すんだ!」「お父ちゃんが一番嫌いなのは『もらいっぱなし』ってやつだ。もらったらお返しをするのは世間の常識」。

しかしカツオは「生徒からお歳暮を受け取らないのは偉いと思います」と先生を擁護。なるほど先生の言い分は常識的だし、花沢さんのお父さんのお怒りもごもっとも。ここであらためて「そもそもなぜ先生は花沢さんの家にお歳暮を贈ったのか?」という疑問が浮かび上がってきます。

と、ここでカツオ、花沢さんのお父さんが先生から贈ってもらったというお歳暮に記載されている「送り主」の名前を見て、ある事に気がついた。

「これ、先生からの贈り物じゃないよ!」

なんと送り主の「名字」こそ先生と同じだったものの、下の名前が違っていた。「別人」だったのです! 先生からの贈り物なんかじゃなかった! 周囲を巻き込んでのプチ騒動は、花沢さんのお父さんの単なるうっかり勘違いが根本の原因でした。

そしてカツオがそのエピソードを再び家に持ち帰ると、磯野家の夕食はまたもやそのネタで大盛り上がり。よその家の些細なミスをハハハハと笑う。そんな一家団欒。他人の不幸は蜜の味。まるで水槽に注ぎ込まれた餌にものすごい勢いで群がるピラニアのようです。夕食時にテレビもつけないでいると他人の噂をおかずにすることも厭わない陰湿な大人が育ちますよという教訓も含まれているでしょうか。

この話のラストは、デパートの特設お歳暮フロアで「磯野家はたいしたお歳暮も贈ってこないから今年は贈らないでおこう」とシビアな判断をする老夫婦が、たまたまその場にいた波平とフネから朗らかに声をかけられて、もうひっくり返るほど仰天するというオチでした。

磯野家の意外なケチぶりがわかると同時に、「他人の噂をしているとろくなことにならない」というおとぎ話とも受け取ることができます。

「ワカメの口紅」(作品No.6259)


「ワカメが鏡台に座って口紅を塗ってうふふと微笑んでいる顔が鏡越しに見える」

という R-18 映画のオープニング映像のようなショッキングな演出で幕を開ける回。ワカメ「大人に見えるかしら?」。いつもはパンチラ三昧でエロスを微塵も感じさせないおかっぱ刈り上げ娘ですが、やはりワカメも「女の子」でした。

とはいえ小学 3 年生の身の上で口紅を塗るのはまだまだ秘め事。フネやサザエには内緒です。

ところがそんな秘め事の最中、ワカメはカツオと不意に対面せざるを得ない状況に陥ってしまう。ワカメは仕方なく手元にあったマスクをかけて自分が口紅を塗ったことを誤魔化そうとするのですが、あまりに挙動が不自然なため、カツオにはモロバレ。ワカメは「お願いだからおねえちゃん(サザエ)には言わないで!」と懇願しました。

カツオは意外にも優しく、ワカメに全面協力することを宣言します。「秘密を漏らさない代わりに謝礼を…」などと自分に都合のいいような交換条件を提示することも特にありませんでした。なかなかの妹想いです。

使ったマスクをそのまま鏡台の引き出しに仕舞いこもうとするワカメに対して「このまま仕舞ったらすぐバレちゃうよ」と、まだ口紅の後がくっきり残っているマスクの裏地をワカメに見せつけます。すっかり探偵気分のカツオ。「使い捨てマスクだから捨てればいい。かといって家のくずかごに捨てるとバレてしまう。あとの処分は自分に任せろ」と証拠隠滅に躍起です。

カツオは「風邪の予防」を理由に翌日、そのマスクを自分がつけて学校に登校することになります。カツオはマスクを「学校のゴミ箱に捨てる」というのです。そのアイデアに「すごーいお兄ちゃん」とワカメも絶賛。

ところが一見完璧に思えるカツオの計画にも穴がありました。カツオがマスクをつけていること自体が逆に目立ってしまった。登校中に一緒になった花沢さんにさっそくあっさりバレてしまいました。

花沢さんは「ワカメちゃんもそんな年になったのねぇ」とおばちゃんのような感慨。なにやら花沢さん自身も「頬紅、マスカラ、つけ睫毛までつけてこっそりフル装備してみた」という経験があるらしく、「そんな自分の姿をお父ちゃんに見つかって卒倒された」と自らの体験談を披露しています。花沢さんはカツオから強奪したマスクを「職員室のゴミ箱に捨ててきた」とひそかに渋く処理していました。

いっぽうその頃、サザエもカツオのマスク姿を訝しく感じていた。というか家の玄関を出る時点でカツオは波平やフネ、サザエ、マスオなどにことごとくマスク姿で対面しているので墓穴を掘りまくってるんです。派手なことをせず、ポケットの中にでも忍ばせておけば良かったのに…。

サザエと公園で偶然会ったタイ子さえ、サザエに対して「カツオ君は何かを隠してるんじゃないですか?」と余計な詮索。サザエは「顔にケガでもしたのかも」と推理します。家に戻るとカツオに対してサザエは「口の中ケガでもしてるんじゃないか?」とさっそく詰め寄ります。これはサザエの推理ミスでしたが、一部始終を見ているワカメはカツオに証拠隠滅を頼んだ手前、気が気じゃない。

後日、サザエが鏡台に向かって化粧をしている途中、「新しい口紅を降ろしてみるか」と引き出しを探ったところ、新品のはずの口紅になぜか少し使われた形跡がありました。もちろん冒頭のワカメの仕業です。疑問に思ったサザエはフネに「使ったの?」と問いただします。その現場を見ているワカメはまたもや冷や汗。

するとフネは「わたしが使った」と、なぜか事実に反することをサザエに告げました。ワカメはわけがわかりませんが、とりあえずホッと胸をなで下ろします。

ちなみにサザエが口紅を塗ったまま、帰宅するマスオを玄関先で出迎えると、マスオは「おっ、口紅の色、変えたねー」とサザエのメイクの変化にすぐ気がついてました。妻の些細な変化に気づくなんて、マスオは意外とすてきな夫なのかも知れません。サザエも「あなた〜」とデレデレ上機嫌です。

その夜、フネとワカメの入浴シーン。ここでフネは、ワカメに思いも寄らないことを告げます。

「ワカメだね? サザエの口紅を使ったのは」

フネはすべてお見通しだったのです! その上で「わたしが使った」とサザエに嘘をついていた。

「部屋のくずかごに(口紅を拭いた)ティッシュが捨ててあったからねぇ」とワカメのちょっとしたツメの甘さに対してフネのチェック能力が探偵並に発揮されていました。まるっとお見通しだった。

やがてフネの思い出話が始まります。「サザエもワカメくらいの年の頃は同じことをしていたんだよ」「わたしも親に隠れて口紅を塗ったもんだ」。みんなが通る道なんだよ、そうワカメに優しく教えます。いい母親です。

フネは「自分がちっちゃい頃に口紅を塗った顔を鏡で見るとなんか変だった」と笑い話として述懐。ワカメも「わたしもー!」と同調します。ここでフネが一言。

ワカメ、女の子には、お化粧しなくても、いちばん綺麗な時期があるんだよ

至言ですね。フネは人格者です。入浴中のフネの胸の谷間がぼくは気になりました。

この話のラストは、ワカメが居間でピンクの折り紙をひとりで折っている場面。「何が出来るんだろう?」とワクワクしながら遊ぶ姿は口紅のことなど忘れた女の子です。

ところがワカメがあらためてテーブルの上の折り紙の教則本を見てみると、その表紙に記載されているタイトルは、「ママの友」。その中に掲載されていたのは「折り紙のおり方」ではなく「おむつのあて方」だったのです。

「あ、なーんだ」とその本も折り紙も放り投げて、最終的にはどっか行っちゃうワカメなのでした。そしてタマだけが残った。

「タラちゃんの自立心」(作品No.6263)


散歩中に「歩けないですぅ。おんぶぅ」とサザエにダダをこねるタラちゃん。3 歳児、まだまだ甘えたい盛りです。

ところがそんなタラちゃんの脳裡に、ガールフレンドのリカちゃんと砂場で遊んでるときに交わしたとある会話が突如としてフラッシュバックします。己の甘えん坊な体質についてリカちゃんに笑われたという、自尊心をいたく傷つけられた苦い経験。

リカ「タラちゃんはお布団ひとりでしまえる?」
タラちゃん「しまえないですぅ」
リカ「じゃ、おつかいは?」
タラちゃん「ママといっしょですぅ…」
リカ「甘えん坊ね! リカはぜんぶ一人で出来るのよ」

リカちゃんは幼稚園にも通っている 5 歳児なので、タラちゃんよりいろんなことが出来るのは当たり前なんですけどね…。でも 2 歳上の女と付き合ってるタラちゃんもタラちゃんなのでそれくらいの憂き目に遭ってしかるべきですよ。

「じゃあ、少し姉さん(サザエ)から自立してみてはどうかな?」とカツオから提案がありました。「それが三歳児にかける言葉か」とサザエやワカメからは非難囂々ですが、そんなやりとりがタラちゃんのハートに火をつけたらしく、「ぼくは甘えん坊じゃないです!」と一念発起。

カツオが「ひとりでやれることを見せるのが男には大事だ」と旧時代的なジェンダー論を一席ぶつと、タラちゃんも「カツオに自立を教えてもらう」とやる気満々です。

ところがカツオはいざとなったら「タラちゃんと遊びたくないから」というえげつない理由で「中島から誘いの電話を受けたからタラちゃんとは遊べない。いやー残念残念」と猿芝居。タラちゃんをむげにしてその場をやり過ごそうとするのです。ワカメに即座にその魂胆を見透かされて冷や汗をかくカツオ。相変わらずの舌先三寸だ。

ところがそんな電話による猿芝居を見たタラちゃんは、カツオの真意はともかく、「イクラちゃんに電話をかけたい!」と突如としてカツオに申し出ました。これまで自分から電話をかけたことなどなかったらしいのです。カツオやワカメは「無理よー」とやんわりたしなめますが、タラちゃんの目は真剣でした。

カツオは観念して小さいアドレス帳を取り出し、タラちゃんに「この数字を順番に回すんだよ」と指をさしながら丁寧に教えます。「数字を順番に回す」という言い方でもわかるように、黒電話です。「ジーコジーコ」という音がやたら郷愁を誘います。

そしてイクラちゃんの母親タイ子さんが取った電話もまた黒電話。ちなみにピンク色の生地に黄色い星(☆)のアクセントがついたカバーがしてありました。磯野家が何の飾り気もなく黒電話が剥き出しのままだったのに比べると、タイ子さんのモダンでハイカラなセンスを感じますね!

タラちゃんがかけた電話はどうやらきっちり通じたようです。

タラちゃん「イクラちゃんですかー?」
イクラ「ハーイ!」
タラちゃん「これから遊びにいくです!」
イクラ「ハーイ(がちゃり)」
タイ子「まぁ、勝手に切っちゃった!」

タラちゃんからの電話をイクラちゃんが先に切っちゃった。やっぱり電話はかけたほうから先に切るというのがマナーですからね。まぁ「ハーイ」とか「バブー」しか言えないような赤ん坊に電話のマナーを説いたところで仕方ないでしょうけれども…。

電話に成功したタラちゃん。今度は「イクラちゃんの家にひとりで行く!」という意欲をサザエやフネに対して見せ始めます。「迷子になったらどうするの?」というフネからの問いかけにも

「交番に行くです!」

と得意気。サザエの「待ちなさい!」との静止も聞かず、「行ってくるでーす!」とタラちゃんは元気いっぱい玄関を飛び出していっちゃいました。我が子の摩訶不思議アドベンチャーにサザエは心配そうですが、ワカメによると「カツオがタラちゃんの後をこっそり付いていった」とのこと。ここぞのときには面倒見のいい叔父です。そのワカメもカツオに同行します。

鼻歌まじりで道をいくタラちゃんは、自分のことをガキ扱いしたリカちゃんの家に寄り道。玄関先で「ひとりで行くです!」とリカちゃん相手に胸を張ります。自慢するだけしてさっさと玄関を飛び出すタラちゃん。リカちゃんはタラちゃんの背中を玄関を出て道路まで追っていき、「本当にひとりだわ!」と吃驚。

その光景を電信柱の影から眺めていたカツオとワカメは「今自分たちがタラちゃんの後を付けていれば(リカちゃんに見つかってしまうため)あやうくタラちゃんに恥をかかせるところだった」と大人の配慮を示します。

タラちゃんは道中、中島くんとバッタリ遭遇しました。偶然を装ってはいるものの、これはカツオがタラちゃんの身の上の安全に配慮して用意した「仕込み」です。中島はカツオの事前の依頼のとおり「途中まで一緒に行こう」とタラちゃんを誘導します。

そんな「中島&タラちゃんツーショット」というサザエさん史上でもレアじゃないかと思われるペアは、道すがら花沢さんと遭遇。こんどは花沢さんが「私もイクラちゃん家の近くまで行く用事があるから、もういいわ」と中島くんにお役御免を突きつけます。これもまた「念には念を」というカツオの仕込みです。

ところが中島くんは「どうなってるんだ?」とキョトン顔。花沢さんの登場までは知らされてなかったらしく、いまいち扱いが軽いです。

ともかくタラちゃんはさまざまな人の助けもあって(それを当のタラちゃんは知らないわけですが)無事イクラちゃん家に到着。背後からつけてきたカツオやワカメに向かって、タイ子もこっそり V サインをしてました。作戦成功。しかしカツオは今回刑事とか探偵みたいな隠密行動ばかり取ってるな…。

イクラちゃんの家から帰宅したタラちゃんは夕食時、波平やマスオから「一人でイクラちゃんの家に行ったなんて偉い!」と賞賛を浴びるや、

「エヘンです!」

とまたしても得意顔。これで自立にまた一歩近づいたと自惚れた達成感に浸っているようです。いっぽうカツオは「“スタッフ”が大変だけどね」とボソッと愚痴。サザエは「シー(´・3・`3」とタラちゃんにバレないよう配慮を示しますが、そこまで三歳児に気を遣わないといけないのか、という気もします。

この話のラストは、タラちゃんがひとりで三輪車を漕いで道をずんずん進んでいる姿。サザエが「タラちゃーん!」と追い縋って、三輪車に乗っているタラちゃんの身体をつまみ上げます。フネが「どうしたんだい?」と訪ねると、サザエはタラちゃんを指して

「三輪車で東京一周の旅に出るって言うのよ」

フネは「まぁ!」と驚嘆。タラちゃんが三輪車を漕ぎながら現行の東京タワーを頭に想い描いている姿が映し出されて、このエピソードは幕引きとなりました。


ちなみに来週の「サザエさん」予告編は以下のとおり。

波平です。
この時期、みんな着ぶくれして、朝の電車はいつもよりギューギューです。寒いから着込んだものの、結局汗をかく羽目になりました。
さて次回は、
・チラシは花沢不動産
・サンタさんいらっしゃい
・年賀状の悩み

の三本です。

年末らしい放送になりそうですし、あと、波平の小話が意外と面白いですね。