ダンス☆マンの「LOVEマシーン」制作秘話

TBS ラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」 2008 年 7 月 5 日の放送では、まるまる 2 時間モーニング娘。LOVEマシーン」ただ一曲だけをクローズアップした総力特集が組まれていました。

http://www.tbsradio.jp/utamaru/2008/07/66.html

スタッフやミュージシャン、さらにはモー娘。元メンバー矢口真里といった数々の関係者のインタビューや、楽曲制作者が影響を受けたであろう過去の洋楽邦楽の参考楽曲を流すなど、さまざまな方向から検討分析を積み重ねたあげく、最後の最後に「LOVEマシーン」をかけて、さぁ今までとまったく違った聴こえ方になっているでしょう? という挑発的な試みで、モーヲタとしても名を馳せている宇多丸の真骨頂ともいえる放送回でした。

LOVEマシーン」のヒットには、「ASAYAN」のおもしろレコーディング風景だったり強烈な PV だったりセンセーショナルな振り付けだったりと、さまざまな要素があったのですが、そのなかでも昔懐かしい感じなのに新鮮みたいなディスコファンク調のアレンジが幅広い世代を捉えた、というのが大きな要因としてあったはず。

そんなわけでこの放送では楽曲のアレンジを担当したミュージシャンの「ダンス☆マン」が、最重要人物のひとりとしてインタビューを受けてました。

1999 年の夏。「LOVEマシーン」の制作に関わった人たちの焦燥感が伝わってくるようです。

宇多丸
で、まぁなにしろ「LOVEマシーン」を生んだ秘密
の最大の要因といっても過言ではないと思います
編曲としてクレジットされてます「ダンス☆マン」さんに実際のお話を!


だって実際にね、音なりなんなりを作ってらっしゃるのは
ダンス☆マンさんなわけですよね?


ダンス☆マン:いや、ほんっとにそうなんですよw


宇多丸:ほんっとにそうなんですよね


ダンス☆マン:これはもう間違いなくワタシなので


宇多丸:間違いなくあの音をはじき出してるのはダンス☆マンさんですから
ま、ご本人にお話をうかがえればな、と



宇多丸:まずなんですけど


ダンス☆マン:はい


宇多丸:最初にアレンジの発注が来たいきさつを順繰りに聞いていきたいんですが


ダンス☆マン:それはほんっとに覚えてますよ


宇多丸:まずいつ頃だったんでしょうか?


ダンス☆マン:夏ですね


宇多丸:夏。ま、リリースが 9 月なんで


ダンス☆マン:ちょうどダンス☆マンは、毎月「ベルファーレ」という……今はなくなっちゃったんですけど


宇多丸:はい、六本木にあったディスコ


ダンス☆マン:大きなディスコでライブをやってた時期で
夏のディスコイベントみたいな感じでライブをやってたときに、
突然つんくさんの関係のスタッフの方がライブに足を運んでくださって


宇多丸:はい


ダンス☆マン:楽屋でですね
「実はこうこうこうで、つんくが会いたいって言ってるんですけども
お話うかがうことできませんか?」みたいなことがありまして


宇多丸:ふんふん


ダンス☆マン:えー、でもそんなちゃんとした人がライブの楽屋にいちいち来てね
で、ぜんぜんライブと関係ないんですよ話が


宇多丸:ほぉほぉ


ダンス☆マン:「とにかくすぐ会いたいんだ」と
でも当時だとモーニング娘。なんてワタシ聞くと
すごいアイドルっぽいじゃないですか


宇多丸:はいはいはい


ダンス☆マン:「太陽とシスコムーン」じゃないかと思ったんですよ


宇多丸:あ、そっちの依頼かな、と


ダンス☆マン:けっこうダンサブルだったんで


宇多丸:そうですね、はい


ダンス☆マン:「だからまちがいだったんじゃないかなー」みたいな
「でもこれ本当の話だったのかなー」っていうのがあって


宇多丸:はいはい


ダンス☆マン:でも「これ本当のことなんで」
ってことで話が一応まとまって
「こうこう何日に事務所に来てください」と
つんくが待ってますんで」つって
で、まぁお会いしまして本当につんくさんいらして


宇多丸:はいはい


ダンス☆マン:「どうも」と


宇多丸:そのときが初対面?


ダンス☆マン:初対面です
「いつもダンス☆マンさん聞かせてもらってて」
「特に『ダンス部 部長南原』」という
…「ブギー・ワンダーランド」を(ダンス☆マンが)カバーした曲なんですけど


宇多丸:はいはい


ダンス☆マン:「あの音作りがすばらしい」と
「特にボーカルの処理がすごく気に入ってて
ぜひ、お力を貸してくれませんか?」
みたいなこと言っていただきまして


宇多丸:うんうん


ダンス☆マン:「そう言っていただけるんなら」と
そこまで聞いていただいてると思わなかったので
「ぜひよろしくお願いします」ということなんですけど
それがね、 8 月 8 日だったんですよ


宇多丸:8 月 8 日


ダンス☆マン:なんで覚えてるかって言ったら
LOVEマシーン」がリリースされたのが 9 月 9 日なんですよ


宇多丸:はい、すごい、え、ちょっと待ってくださいよ


ダンス☆マン:挨拶したのが 8 月 8 日ですからね


宇多丸:ふつうレコーディングっていうか CD リリースの常識からするとですよ
これくらい(の時期)には出来てないとマズいと


ダンス☆マン:そうですよね。で、「 9 月 9 日だ」っていうわけですよ
で「( 8 月) 15 日には工場に送りたいんで」って
8 月 8 日に初めて挨拶して


宇多丸:一週間しかないわけですよね


ダンス☆マン:なんで慌ててたかわかりました
わざわざライブの楽屋まで来ていただいて
「とにかくすぐ会いたい」ってなぜ言ってたかわかりましたけど


宇多丸:これね、お聞きの皆さん、ホントありえない日程ですからね
「8 月 8 日にオーダーが来て、一週間でつくって、9 月 9 日リリース」
なんてね


ダンス☆マン:で、やらしていただくことになりまして
さっそくデモテープをね、「ここにあるんで聴いてください」と
それが 93 年に作ったつんくさんのデモテープらしいんですよ


宇多丸:93 年に作ったデモテープ


ダンス☆マン:ギター一本で鼻歌で歌ってるやつです
「♪ハーハーハーハハハハ」みたいな


宇多丸:あのサビの部分のメロディがあって


ダンス☆マン:ですね。それをギター一本で歌ってるような感じのやつを頂いて


宇多丸:歌詞は乗ってない?


ダンス☆マン:歌詞は乗ってなかったです
で、「これをいわゆるダンス☆マンディスコにしてください」と


宇多丸:なるほど


ダンス☆マン:そのくらいですね、もう
あとは細かく「何々風」とかなくて


宇多丸:A メロ部分とかメロディの部分は全部あったんですか?


ダンス☆マン:ありましたありました
全部構成ワンコーラスあって


宇多丸:構成はあったんだけど
ただまぁギターで弾いた、フォーク調じゃないけどそのような「聞こえ」なんですよね


ダンス☆マン:ギター一本ですよね


宇多丸:ギター一本で。それをファンク調にしてくれと


ダンス☆マン:そういうことですよね
で、思いついたのがその曲に対してこうってことじゃないんですけど
つんくさんが好きだった時代のディスコの歌、ディスコソングなんかを聞いてて


宇多丸:うんうん


ダンス☆マン:「じゃあなんとなくこの曲とこの曲とこういう感じの曲なのかなー」
みたいなのを頭に浮かべながら次の日には作業に入りまして
ある程度のものがたぶん一日か二日でできたと思うんです


宇多丸:あ、早かったんですね。そこはもうすごい早かった


ダンス☆マン:今みたいにインターネットで送るということはなかったんで
たしかバイク便かなんかで出来上がったデモを送って


宇多丸:はい


ダンス☆マン:わたしも全国キャンペーン行ってたんで
キャンペーンをしながら大阪と東京とかで電話しながら
「聞かしてもらいました! すごいイイ感じなんで
このまんま東京に帰ってきたタイミングでスタジオ入って欲しいんですけど」
とかって言われて
「あ、そうですかわかりました!」って言いながら
その場でバンドのメンバーに連絡してスタジオ抑えてメンバー抑えてみたいな


宇多丸:それは要するにアレですね
ダンス☆マンさんがおひとりで打ち込みとかで仮のアレを


ダンス☆マン:デモテープをまず


宇多丸:え、生演奏じゃなくて、ですね。とりあえず作って


ダンス☆マン:生演奏じゃないです
そこはわたしが作って「生っぽい音を使った打ち込み」みたいのを作るわけです


宇多丸:生っぽい感じの「こういう感じのを作りますけどどうですか?」っていうのを作ったわけですね


ダンス☆マン:で、それがオッケー出てから
「じゃあいよいよ本格的にダンス☆マンさんのサウンドを仕上げて行くみたいな作業を」
「じゃあ生バンド必要ですね」みたいなことで……すいません端折りすぎてw


宇多丸:いや大丈夫大丈夫w
で、それからメンバーを収集して
どんどんどんどん時間が減っていきますよねだってね
もう一週間しかないのに既に 3 日くらい経ってるわけですよね


ダンス☆マン:そうなんですよ
それで東京に帰ってきたタイミングでスタジオに入りまして
メンバーも音を聞いてコード譜かなんか見ながらバンバン
リズムを録音しながら
つんくさんはもう机で詞を書いているわけです。その場で


宇多丸:え? ちょっと待ってください。そこで書いてるんですか?


ダンス☆マン:そこで書いてるんですよ
ちらっと背中越しに見るとですね
「ウォウォウォウォ」のところが『魚』って漢字になってたりとか


宇多丸:『魚魚魚魚』。ハイ


ダンス☆マン:あと「イェイェ」が『家』って漢字になってたりとか


宇多丸:「あのーふざけてる場合じゃないですよ」ってくらい


ダンス☆マン:なんかねものすごい真面目に悩んでるわけですよ


宇多丸:あ、悩んでる状態。悩みすぎてそうなっちゃってる


ダンス☆マン:そうなんですよ


宇多丸:考えすぎて!


ダンス☆マン:「なんだろうなー。どう思う?」かなんか言われながら
「どう思う?って言われてもなー」なんて思いながら
出だしを見たら
出だしの言葉が「あんたにゃ」じゃないですか


宇多丸:はいはいはい


ダンス☆マン:「すっげー言葉使う人だなこの人」と思って
言葉の使い方がすげーなと思って「あんたにゃ」かって
「あんたにゃ」なんて言う人は今いないじゃないですか


宇多丸:まぁそうですね


ダンス☆マン:ちょっと嫉妬しましたね。言葉のロジックに


宇多丸:「あ、その言葉使うか」と
「あんたにゃ」がまたね「ニャ〜オ」みたいな感じもするし
こうファンクっぽいみたいな


ダンス☆マン:そうなんですよ
で、もうほんとにだからみんなで一緒にやりながら、っていう感じの


宇多丸:すごいその綱渡りというか
ものすごい切羽詰まった状況だったんですね
「なにがなんだか」っていうのもありますよね


ダンス☆マン:そうですねー


宇多丸:だって 3 日間でほぼ実質作っちゃってることになりますもんね


ダンス☆マン:そうなんですよ。ほんと勢いでやってたんで
いちいち噛みしめてなかったんで


宇多丸:はいはい


ダンス☆マン:いろいろ迫られてましたし


宇多丸:うんうん。ま、つんくさんもその場にいて
その場でアイデアを投入していくってムードですかね、じゃあ


ダンス☆マン:そうですね。もうみんながみんないろんなことをやりながら


宇多丸:たとえばバンド☆マンメンバーもいろんなことをやってる?


ダンス☆マン:もうだからこう「ダンス☆マン」(名義の)レコーディングだったら
ちょっとゆっくり目にモニターチェックして
「こんな感じですよ」とか音合わせしてなんていうのをやるじゃないですか


宇多丸:一個一個のプレイをすごく正確にとか


ダンス☆マン:正確にとかっていうのはあるんですけど
かなりもう勢いで


宇多丸:もうやっちゃうと。時間もないし


ダンス☆マン:「勢いでじゃあ 3 テイクくらい録って」みたいな
「どれかいちばん良さそうなやつちょこちょこっと直して」って
バーッ! てもう


宇多丸:ウアーッとバーッといってるわけですか


ダンス☆マンバーッと!ウァーッ! っていう感じですね


LOVEマシーン」の楽曲制作は本当に綱渡りのものだった、と。

当時ハロプロの楽曲制作に深く関わっていた橋本慎ディレクターに番組が取材したところ、「ASAYAN」でおこなわれた鈴木あみとの CD リリース対決にモー娘。が完敗して、次のシングルへのプレッシャーが相当なものになり、つんくが楽曲制作に悩みに悩んでギリギリのところまで制作が遅れていたから、というのがその理由なんだそうです。

つんくが仮の歌詞で書いていた「魚魚魚魚」「家家家家」はそんな苦悩の象徴なんですね。