「彼女はきっとまた」

二曲目から間髪入れずにいきなり始まる三曲目は陽気な無責任ポップス。「 80 年代 J-POP を意識した」「 3 枚目のアルバム( 1988 年リリースの「 GIRL TO LOVE 」)に入っていてもおかしくない」との KAN の公式見解もあるけど、印象的には 90 年代初頭あたりの浮ついた感じである。ていうか槇原敬之をパロった伝説のナンバー「車は走る」( 1999 年「 KREMLINMAN 」収録)の音色にも似ているようで、これもまた槇原に近い気がする。楽曲の終わり方が KAN には珍しいフェイドアウトだというのも共通している。

あるいはメロディ的には今井美樹に提供した「雨にキッスの花束を」にも似ているだろうか。A メロ終わり際の音符の軽快なハネ具合が懐かしくも新しい。とにかく一昔前のメジャー感が、時代遅れのオンボロことぼくにとっては居心地の良いサウンドとなって脳をゆるっと包み込む。

ちなみにタイトルにもある「彼女」というのは、自分の彼女のことではなく、「自分の男友達の彼女」のことを指している。「君(男友達)は失恋しちゃったらしいけれど、君の彼女はきっとまた戻ってくるに違いないのだよ、アハハン♪」と軽いノリながらに歌っているのがこの曲だ。まったくの他人事だ。他人事だからこそのポジティブシンキング発揮であり、聴く人を元気づけているのか、逆にヘコませているのかどうかはよくわからない。

「はねトビ」でロバート秋山の演じている老人キャラ・秋山森乃進のギャグ『と、思うよ』を、歌詞の最後に多少のモノマネを含んだセリフで披露してしまっているのだが、これは正直だいーぶ上ッ滑りな感じになってしまっている。このあたり一瞬耳を塞いでおこうか。それとも作曲者がもはや 43 歳のいいオヤジとあればひとつの持ち味としてすんなり咀嚼すべきであろうか。長嶋茂雄の「ん〜ん、どぉなんでしょう」も長嶋の現在の体調とか関係なく挿入しちゃってるし。オヤジ全開である。

間奏のバイオリンソロは、バイオリニストであり KAN さんの奥さまである木村(旧姓・早稲田)桜子さんの演奏。1997 年のコンサートツアーには参加しているし、またそれこそが KAN との出会いの直接のきっかけであるはずだが、 CD 作品においては初の参加となる。そう想って聴くと趣きがあるし、また聴く人によってはいろいろ複雑でしょうよ。