萩原舞ちゃんの「押ささってた」という表現が通じなかったけど、それ北海道の方言なんだよね、という話

こないだ4月18日(金)のCBCラジオ「ナガオカ×スクランブル」生放送。℃-ute中島早貴さん、岡井千聖さん、萩原舞さんが出演するというので、インターネットの力を借りて聴きました。愉快な3人組。とっても楽しい放送でした。
http://blog.hicbc.com/weblog/nagaoka_scramble/2014/04/009356.php
で、この放送の中で、舞ちゃんがごく自然に「押ささってた」という言葉を採り入れた場面があったんですね。これが波紋を呼んでしまった。中島さんと岡井ちゃん、そして番組パーソナリティの永岡歩CBCアナウンサーが舞ちゃんに対して一斉にこんなことを言うのです。
「押ささってた」なんて言葉は聞いたことないよ!
と。

言葉の問題としてものすごく気になりました。ちょっと書き起こします。

萩原:iPhoneのSiriってあるじゃないですか? こないだ電車に乗ってたら、それがいつの間にか押ささってたみたいで。
永岡:え、「押ささってた」って(笑)。まずそこから教えてもらっていい?
中島・岡井:(笑)
萩原:え、待って? 「押ささってた」って日本語、ないんですか?

「押ささってた」を自然に使う舞ちゃんと、それが変だというほかの3人。
このあと永岡アナが出身地を絡めて話を広げていきます。舞ちゃんは埼玉県。言葉のプロといえる永岡アナは神奈川県出身だけど「押ささってた」という言葉は聞いたことがない、と繰り返します。中島・岡井も埼玉出身でやはり同じような、つれないリアクション&やんやと囃し立てる。

中島:私、埼玉出身ですけど、はじめましてです(=聞いたことがない)。
岡井:まず(「押ささってた」の)意味を教えてもらいましょうよ?
萩原:え、待って?(笑) 押しちゃってた、みたいな。え?「押ささってた」って言わないの??

舞ちゃんひどくうろたえていて、とても信じられないという声色で、何度も「押ささってたって言わないの?」と聞き返す。その様子はとてもかわいいんだけど、それはまた別の話。
岡井ちゃんも言ってたけどたしかに舞ちゃんは普段から必ずしも日本語を得意としておらず、話がたどたどしかったりする。中島、岡井は舞ちゃんを笑い飛ばしながら「押ささってた」発言もその一環だろう、というムードを漂わせる。


というわけで、リスナーから「押ささってた問題」について急遽メールを募集する流れになりました。生放送のいいところです。
そしたら、神奈川のリスナーからも、愛知のリスナーからも「使いません」というリアクションが続々と寄せられる。舞ちゃん「めっちゃディスってんじゃん(笑)」と脱力。
そんな中で一筋の光明が。
「北海道の方言みたいですよ」という情報が届きました。


そうなんですよ。「押ささってた」っていう言葉、あるんですよ。
今日この更新をしようと思ったのは、僕が北海道出身だから、という理由が大きいです。「押ささってた」に、いっさい何の違和感もない。舞ちゃんの感覚や用法が完全に理解できます。なので、中島、岡井はまだしも、永岡アナまでもがこの用法をちっとも受け容れてくれないことに「えー!理解してよ!」となりました。
ただ、舞ちゃんが埼玉出身で親御さんや友人関係などで北海道にゆかりはなく、いったいどこから仕入れた言葉なのか?というのだけはミステリーなんですけど。


ここからWikipedia大先生の教えを仰いでみます。あとで自分が読み返しておもしろいからぶ厚く引用しよう。太字のところが特に「そうそう!」って思う箇所で、舞ちゃんの用法に当てはまる。

自発的表現
五段活用動詞の「未然形+さる」、上一段・下一段活用動詞の「語幹+らさる」 共通語には存在しない自発的表現となる。一部の特定の動詞で用いられることが多く、「進んでそうしようと思っているわけではないが、状況が自動的にそうしてしまう」という心情を表せる。
●この本面白くて、どんどん読まさる。 - この本が面白いので、どんどん読んで(読めて)しまう。
●この塩辛旨くて、ご飯たくさん食べらさる。 - この塩辛が旨いので、ついご飯をたくさん食べてしまう。
この表現の否定形もよく使われる。正しい活用は「〜(ら)さらない」となるはずだが、こう言うことはまずなく、口語ではほぼ「〜(ら)さんない」と発音される。意味は逆になり「進んでそうしようと思っているのに、状況が悪いのでそうならない」心情を表す。
●窓が開(あ)かさんない。 - (開けようとしているのに)(凍っているから)開けられない。
●このペン書かさんない。 - (書こうとしているのに)(インクが切れているから)書けない。
●このスイッチ押ささんない。 - (押そうとしているのに)(壊れているから)押せない。
共通語では、動詞の形が「開けられない」「書けない」で、「しようとしているのに」の補足なしには、「自分にはできない」「不可能」の意味と同じになってしまうが、北海道方言の自発的表現では、動詞の活用そのものに「自分が悪いのではなく、対象物が悪い」の意味が内包されているため非常に便利であり、多くの場面にこの表現が当てはめられる。「この鉛筆、書かさらない」、「電気が消ささらない」
またその逆に、人に向かって注意を喚起する際、この表現を用いれば「誰が悪いとは言わないが、対象物がそうなっている」という意味合いが出せるため、相手にあまり負担を感じさせずに言うことができる。「あの部屋、誰もいないのに、ストーブ焚かさってるよ。」「この値段、20%引かさってないんですけど。」
北海道方言 - Wikipedia


「共通語には存在しない自発的表現」なんですって。面白いですよね。
もう一度舞ちゃんの言葉を繰り返すと「こないだ電車に乗ってたら、iPhoneのSiriがいつの間にか押ささってた」。自分の意思とは関係なく、気がつけば自動的に押されていた。それが「押ささってた」。「押ささってた」は「押ささってた」以外には簡単に言い換えるのが難しい。そうとしか言いようがないんです。
現在形に直すと「押ささる」。僕も最初に北海道の方言だと知ったときは驚きました(追記:北海道以外でも用いられている表現みたいですね。ただ少なくとも共通語という感じではない)。
℃-uteの個別握手会には次回5月に行く予定です。一刻も早く舞ちゃんにこの話題で「舞ちゃんは悪くないよ!」と言いたくて仕方ないです。そしてこれをきっかけに推ささる!