一蓮托生

6 月 20 日金曜日に札幌コンサートホール「 Kitara 」で開催された KAN のピアノ弾き語りライブがお世辞抜きでとってもよかったというかむしろ MC で笑いすぎてこちとら座ったまま両足をじたばたさせながら悶え泣き叫びまくったわけなんですけれどもそんな奇矯な体験談をいくら言葉を尽くして伝えようとしても仕方がないのでここではサラッと振りかえるだけに留めておきます。その意味では Perfume ちゃんのライブを体感したあとと精神状態はほとんどいっしょだ。

でそんなに MC で笑いたきゃお笑いライブでも行っとけという自らの内側に潜んでいる仮想敵からのイヤミがねっとりと聞こえてくるわけですがお笑いライブはそれはそれで愉しいしぜんぜん行きますしまたそれと音楽ライブでのべしゃりとはぜんぜん別腹なんです。

ミュージシャンがお笑いを志すにあたってひとつお笑い芸人よりも遥かに特権的なことにこのほど気がつきまして、というのは、たとえば演奏とか歌唱とか本業のステージングをもう泣けてしまうくらい神妙シリアスな方向にふるだけふっといて、あとあとその「振り幅」みたいなものを利用しておいしい落とし方が用意できる、ということです。セオリーとしてのいわゆる「緊張と緩和」なコンビネーションをパキッと活用できちゃう。これがきちっとできる人たちが興行の場では強いのだ。

ってことで今回のライブで演奏された曲目を並べてみても MC のおもしろさに比べるとだからどうしたって感じなのだけれども、とりあえず読んでる人のことガン無視して自分の備忘録として単純に並べていきます。

M1「君を待つ」は 10 年前の初聴のときと 10 年経ってもさほどイメージは変わらない。M2「何の変哲もない LOVE SONG 」はミスチル桜井に apbank のライブでカバーされたことも影響してかすっかり定番。M3「まゆみ」はバンドツアーのときは緩急をつけたアレンジが凄まじいのだけれど弾き語りスタイルでもよくまぁそれだけ盛り上がれるなってくらいピアノの威力が半端なくって鳥肌もの。M4「永遠」はこれまで何回か聴くたびにテンポが速めに走りすぎていたきらいがあったところを心なしか意地でもテンポ落とそう落とそうとゆったり目に歌ったり演奏したりしようとしていたのが好印象。M5「朝日橋」は KAN 本人曰く「自分の作品のなかで印象のうっす〜い楽曲トップ 3 に入るし人前で歌うのも今回が初めて」というレア曲なのでまともに聴けて嬉しかった。そんな地味な曲でもぼくは歌詞を確実に暗誦して歌えるのでファンすぎる。M6「プロポーズ」は最近 TRICERATOPS がカバーしてくれたんだって嬉しそうに語っていた。そういえばトライセラはぼくもにわかファンとしてデビューから 3 枚目のアルバムまではまともに聴いていたのだった。KAN とトライセラでどちらも世間様には忘れられがちであるがおもわぬところでつながりが生じた様子なのが興味深い。M7「 Allentown 」は Billy Joel のカバーでもともとバンドサウンド全開のこれをたったピアノ一本で力強くやっちゃう。M8「 Regrets 」はそんなアレンタウンにモロにインスパイアされて作曲したという一曲で、正直こうして並べて比べてしまうと楽曲としてどっちがいいかといえば直感的にやっぱりアレンタウンかなーって非業な判断を下したくなるものの、失恋してから後悔しっぱなしみたいな歌詞世界がダイレクトに伝わってくるぶんリグレッツのがよほどせつない。

改行しよう。

M9「抱きしめたい」はミスチルのカバーであり、もう KAN と桜井和寿は「パイロットとスチュワーデス」だしとっても仲良し。このふたりでは無論 KAN のほうが先輩だが桜井の後ろ盾があるのが KAN ファンとしては妙に心強い。M10「世界でいちばん好きな人」はシンプルなメロディながらも若干もっさりと重ためなイメージかつ長尺の楽曲で聴くのにも体力を要するのであんまり CD でじっくり聴こうという気にはなれなかったりするのだけれど、こうしてあらためてライブでまじまじと聴いてしまうと、もういちいちツボってツボってたいへんだ。M11「 Songwriter 」は終始アルペジオで激しく細やかに鍵盤叩きながらロングトーンの美メロをビシッと歌いあげてくれる。そのアレンジも原曲とは意図的にニュアンスが違う華麗な感じだし総じて耳にいつまでも新鮮な一曲だ。と、この先はスティービーワンダー的バラードが三曲続いて、M12「 Day By Day 」は今回なぜか特になんとも思わなかったけどカラオケで歌うとめちゃくちゃ気持ちがいい。M13「 50 年後も」は最近 KAN 本人が一推しで気に入っているようでどのライブでもだいたい歌ってるような気がするので若干耳タコか。歌詞が死ぬまでラブラブ一辺倒なのが個人的に引いちゃうのかも、って贅沢な話ですが。本編ラストの M14「今度君に会ったら」は動画サイトにアップされてる 1999 年 aiko バージョンの印象がやたら強いが本人は本人でめちゃくちゃしっかり歌っておるのでやっぱりオリジナルだよなと痛感。アンコール M15「今年もこうしてクリスマスを祝う」は最後の最後に KAN らしいあまのじゃくぶりが遺憾なく発揮されたあまりにも季節外れの選曲で、たしかに「曲の歌える時期を季節によって制限されるのは理不尽」みたいな主張はごもっともだと思うが、やっぱいくらなんでもこの 6 月の初夏にクリスマスソングはありえない。

と、そうこうしている間に全曲紹介は終ーわり。ちなみに今ツアーに関しては全演奏曲を収録するというライブアルバムが発売予定なんだそうで、内容的にあんま面白味はないと想像しますがじんわりイイ曲が揃ってる気がしないでもないので今後の情報を要チェキだ。むしろこの演奏曲の合間合間にいちいちトークやら小ネタやらなんやらが挟まっていて、そっちの枝葉末節こそが KAN ライブの本領だったりする。アンコールの登場の仕方ひとつ取っても、いったん本編の演奏をすべて終了してお辞儀して万雷の拍手の中でゆっくりと下手=しもてサイドの扉に歩みを進めてハケていったかと思ったら、ほんの一瞬の間をおいて今度は上手=かみてサイドの扉から意表を突いて再登場して涼しい顔で「イリュージョンです」とかおもしろくてズルかった。