いししば CDS ポラ撮影&握手編

でサラッと前回の続きに突入しますけれども、この CDS というイベントにおける最後にして最大の難攻不落タイムこそがポラロイドカメラによるツーショット(今回はスリーショット)撮影&その後ノータイムでヲタと現人神様とが一瞬の肉感的なまじわりをもつ握手、なわけです。こんなもんド緊張するしかないわいや。俯瞰から客観的に見てみればたかだか二十歳そこそこのムスメっ子さんと一枚だけ写真を撮ってもらって握手してばいばーいっていうただそれだけの一分間にも満たないライトな出来事なのであって地球の歴史からするとどれくらいなんだろう? ってくらい些事ではある。もちろんそうよ。ましてや握手会とかなんてぼく自身おもえば遠くにきたもんだってことで既にかれこれトータル十回近くは参加したことがあるし本業プロフェッショナルなアイドルさんたる向こうも向こうで慣れたものであろうことは想起されるがために、ともすれば緊張感のかけらもないダラダラ不貞なまじわりにもなりかねない。

ところが、こればっかりは、さすがに。ガチすぎて。

ぼくはふたりの歌唱ショウを終えて十全に満たされた気持ちでいながらいっぽうで拭いきれない緊張感にチキンハートをえぐられつつ、とりあえずトイレに入って鏡で髪型や服装の乱れを無駄に整えたりしながら心の準備を重ね、ポラ&握手を待つヲタの行列に並んだ。いや、とりあえず並んでみた、という表現のほうが適切かも知れない。というのはまだそのときは気持ちの整理がついていなかったがために、ちょっと並んでみて「あ、やっぱまだダメだ」ということになり、列から脱落。再びそれまで着席していた自分の席に舞い戻って待機する始末となったのである。断頭台にはまだ早かった。

と、そこで半ば予想だにしてなかったものの半ば意図的でもある急展開が待ちかまえていた。自分が座っていた四人がけテーブルにはまだふたりほど同席のヲタさんたちが残っており、あいかわらず無言の寂れた空間だったのだけれど、ぼくがあまりにも勝手に喋りたかったので、席に舞い戻るや否や「あーやっぱ緊張して戻って来ちゃいました二回目の CDS なんだけどなかなか慣れないものですねところで貴方はこの CDS は何度目の参加ですか?」みたいなことをまず向かい合わせのヲタの人に勢い込んで話しかけてしまったのだ。ふだん人見知りで職場の同僚同士の飲み会ですら無言で貫き通すことのある自分としては異例の出来事であるがそれだけテンパっていたと言ってもいい。すると向こうさんがありがたいことに真人間だったもので会話に乗ってくださり、ついでに隣席のさっき赤ワイン二杯で優雅にパンや鶏肉を喰らっていたメガネのヲタの方も巻き添えにして、結局そこで三人であーでもないこーでもないとペチャクチャ喋りまくってしまった。会場たるラ・クロシェット内からは次第にヲタの人々も減っていく。片付けられるテーブル。冷たい店員の視線。しまいには次の一般客のお食事予約が入っているであろうテーブルの新たな設営が一から始まったりもしていた。

結局ふたりのヲタの人とはそれまで沈黙を守っていたのがウソのように一緒にポラ握手の行列に並び、撮影のときのポーズ指定はどうだの握手のとき何を話せばいいだのと話しながら、カーテン越しに広がるファッキン夢空間への緊張感を紛らせていた。

で、列はずんずん進んでいき、「次の方どうぞー」みたいな感じでカーテンがシャーッと開けられるんですね。はい出ましたそこにはさっきまで華々しいステージを繰り広げられていた石川梨華さんと柴田あゆみさんという両巨頭がうるわしくたたずんでいらっしゃるわけです。もうわけがわかりません。いやわかるんだけれどその場にはオンリーミー&いししばコンビと数名のスタッフがいるのみでひとり舞台の独擅場というべきか血だるまワンダーランドというか。とりあえず精神のありようはともかく物質的にりかちゃんとしばちゃんの間に立ち位置を指定されて、まずはポラロイド写真を一枚パチリ、という機械的な段取りとなるわけです。

ところでポラ撮影といえばなんといっても「ポーズ指定」がキモみたいなところがあるじゃないですか。自分の気に入っているアイドルさんにして欲しいポーズをおねだりしてやってもらって撮ってもらって興奮の絶頂じゃないですか。前回石川&メロン大谷 CDS に参加したぼくはしかし無欲の塊でしたから単純にピースサインでオッケーだった。ところが今回は決め打ちを試みまして。トークの間にもしばちゃんから「ポーズ指定ぜんぜんオッケー」のような主旨のことばがあったような気もするし、じゃあお言葉に甘えてやってやろうじゃないの、と。心に誓ってセリフを振り絞ったのです。

「『くるりんぱ』でお願いします」

そうですダチョウ倶楽部上島竜兵の持ちギャグです。トーク中にりかちゃんがこっそり一回口にしていたから、そこに便乗してみた。くるりんぱ自体はギャグとしておもしろいのかおもしろくないのかといったら別におもしろくはないのですがもはやそんなところからは超越したギャグであるし、妙なかわいさと語感のよさと上島がテレビに出て帽子をかぶってるときは必ずやるという出場機会の高さから、ふしぎと世に浸透している。やるなら今しかねぇ、と思った。

そんなわけで、やっていただきました、くるりんぱ。

ポラ写真をアップする技術もありませんし思い出は美しすぎて自分だけのものにしておきたいという不遜な独占欲も働くためにおおっぴらにお見せはしませんけれども、石川さんのばっちりお口を「ぱっ」に開いた表情と、逆にはにかんだ柴田さんの表情がともにすばらしく、またこちらの指定どおりに拒絶もされずちゃんとやっていただいたという事実がことのほか超めちゃくちゃ嬉しくてたまらなすぎます。真ん中の自分がこれまた「ぱっ」と精一杯ド素人として表情作りをがんばったにも関わらず明らかに写真慣れしてないためひきつって吠え面こいてるのと対照的なおふたりの美貌。また 170cm のぼくとの身長の対比などで 154cm のちっちゃこいりかちゃんの存在のリアリティが感じられて見るたびニヤケっぱなしです。

で、すかさずスタッフの方から「握手お願いします」という段取りになってお願いされるまでもなくいくらでも握手でもなんでもしてやろうじゃないのという意気込みはありながらも実際にご本人のご尊顔を目の当たりにするといっさい何もできずただただ手を差し伸べて握手してそのほのかな温かみを手先で感じ取る間もなく「札幌から来ました」とか月並みなことを言ってみるとりかちゃんも「遠いところからお越し頂きありがとうございます」と月並みな返答をし「札幌で美勇伝のライブやってください」と本心でありながらも凡庸なことを申し上げると「ありがとうございます」だかなんだか謝辞を送られたのを憶えていたり忘れてしまったりしています。記憶が飛んでいます。

でも偽らざる本心を申し上げればね、本当は握手のときになにも言葉なんてひとつもいらないんです。握手しているその瞬間が最高。過去のアレがどうだったとか将来こうして欲しいとか枝葉末節であり今このときこそがピークなので「今この握手している瞬間が神すぎるのでずっと離したくありません」ってことです。「ずっと離したくありませんし、あわよくば抱きしめてチューしたい」  これです。ただこんな不埒で淫猥なセリフは道徳的に言えるわけがないのでまともないかにもファンっぽい発言をなにがしかせざるを得ない。人間ってやつは言葉にがんじがらめにされた言葉の奴隷ですね。

そんなわかったようなことを考えたのは後付けでともかくりかちゃんとはサヨナラ愛別離苦、立て続けにしばちゃんと握手です。りかちゃんりかちゃんと見苦しいほど連呼している昨今ですがしばちゃんもものすごく顔立ちが整っているうえにあまり自分を飾ることのないナチュラリーな美人なのでそんなふたりの間に立たされて狂ってしまいそうです。しばちゃんには最初の想定では「今日の台風も柴田さんのド S ぶりが天に伝わったものと解釈して納得することとします」とかテクニカルなことを言おうとしたのですが絶対に緊張して支離滅裂なことを口走りそうだったのでやめて、「これからも僕たちに、そして梨華ちゃんにも、どんどんツッコミを入れていってください」などということを言いました。しばちゃんはツッコミがお好きそうなのでそう言うしかありませんでした。ちなみに「そして梨華ちゃんにも、」というセリフのときはしばちゃんではなく横で話を聞いていたであろうりかちゃんの顔をチラッと見てみるというミスターマイセルフな小芝居を展開してみましたが、あとで思い出すとそれはあまりにもうすら寒すぎる演出だったので唯一その局面だけは封印したいです。

で、しばちゃんから間髪入れずに返ってきたリアクションはこんな感じ。「 4 日、梨華ちゃんこないけど、ぜひ来てくださいね」。ハイこれは思考停止だ。なによりまったく言っていることの意味がわからず、ただでさえ緊張でねじがゆるんでいた脳が一挙に真っ白になって「え、4 日(よっか)、よよよよよよっか、ていったい何が・・・」と完全に狼狽して腰が引けたまま握手は無情にも終了。ふたりに見送られてその場を後ずさりしながら立ち去ろうというときも「よっか、よっか・・・」と繰り返すばかりの哀れな末期となりました。

そのあと冷静になれば、あれは 11 月 4 日すなわちこの日から一週間後の日曜日に我らが札幌市内でフットサルのガッタスの試合とかイベントがあるため、りかちゃんとの握手のさいに「札幌」のワードを耳にしたしばちゃんが「梨華ちゃんは来ないけど私は行くからお客さんも来てくださいね☆」という告知をしたのだということがわかります。しかしいきなりそんなこと言われても困る。しばちゃんというか事務所的になにか「こう言われたらこう答えろ」のような想定問答集でもあるのかわかりません。でもいちいち客の各都道府県別に対応できるような自分たちの最新スケジュールを頭に入れているとも思われず、いやまぁ直近の出張予定であるから把握しておくのは社会人としては常識なのかも知れないけれど、ともかく結果的には機転の利くド S 柴田さんの術中にまんまとハマッた形となって一連のポラ撮影&握手をすごすごと終えたのだった。今度はもっと主体的に生きたい。

会場の外に出ると嵐は既に去っていた。小雨は残るが穏やかな土曜の夜。一連のイベントを終えたさきほどのふたりと再度合流して、ポラ写真を見せ合ったり、CDS でさっきまで演奏をなさっていたバンドのみなさんが会場から出て行く後ろ姿を「おつかれさまでしたー!」などと陽気に見送ったりしながら、JR 恵比寿駅までの帰路またささやかに盛り上がる。そしてその日会ったばかりだというのに「飲みてぇな」ということになって、駅前のにぎやかな居酒屋で終電近くまで飲んでは夜な夜なヲタ論議を交わすことになるのだった。

至上の夜です。