私の顔

8 曲目の「私の顔」は、石川さんがタンポポに加入して初のシングル「乙女パスタに感動」のカップリングで、たいへん乙女なスローバラード。以前、ぼくはここの本サイトでこの曲の歌詞だけを書き出しては一人悦に至る、などという少し気がふれた更新をしたことがありますが、それくらい大好きな曲です。アレンジのぴょろぴょろでポワポワな雰囲気がそのスキスキな理由の大半を占めているのですが、歌詞的にも「男子との逢瀬の帰り道がちょっとセンチでせつなくて、でも次の逢瀬が待ち遠しくてそんな私の顔が帰りの終電の窓に映って、あら物憂げだわ」みたいな夜 0 時を過ぎたあたりのふわふわした時間帯の設定が絶妙で、頭の中にありもしない空想の異世界が瞬く間に広がってしまい、もういてもたってもいられず無性にどこかへ走り出してしまいたい気分に駆られちゃうのです。頭にお花が咲き乱れます。夢想花です。

そんな大好きな曲ですがこれまで客前で披露されることは滅多になく、2000 年のタンポポの「乙女パスタに感動」発売イベントで歌われたのが最初で最後だったというお話で、 5 年だか 6 年だかの時を経てようやく今、すっかり正しく成長してしまわれた石川さんがソロ歌唱でこの曲に新たな命を吹き込んだというわけですね。「どうぞこのまま」とは次元の違う心意気の歌唱で、とても丁寧で落ち着き払っていて、でもやっぱり愛らしい天性のエンジェルヴォイス。確実に流れた時間の中で石川さんはいろんな部分が変わってしまったし、でもいろんな部分が相変わらずだし。やぁこのひとを 5 年も 6 年も見続けてきたんだなぁ、と思うとなんだか非常に感慨深くてですね、終始ボロ泣きでした。あっ! 今思い出しただけでもちょっと泣けてきた。気持ち悪くてすみませんけど、いくら言葉を尽くしても足りないくらい最高の歌だったんです。


ただ、話がこれだけで終わらないのが今回の「私の顔」の難しいところ。というのも、なんと僕が参加した以外の残り二回の公演では、「私の顔」の代わりに「理解して!>女の子」が歌われたというのです。セットリストの変更です。驚きです。石川・大谷カジュアルディナーショーは全部で三公演が開催されまして、ぼくはその「初日」に臨んだので、結果的に「私の顔」を聴けたのが初日のみ、ついぞ「理解して!>女の子」は聴くことができませんでした。

石川さんとディナーショーとの関わりを考える上で、 2001 年 2 月にファンクラブ限定で発売された石川梨華ソロ CD 「理解して!>女の子」のことは切っても切り離せません。「理解して!>女の子」。それはむしろ梨華ちゃん史にとって最重要楽曲のひとつであると申し上げても過言ではないでしょう。当時、中澤さん以下 10 人体制だった 4 期までの娘。メンバー全員がオリジナルのソロ曲を歌うという豪勢な企画があって「理解して」もその一貫でした。ぼくも後藤さんとか安倍さんとかのものを一通り聴いたことはありまして、メロとかアレンジに関しては誰もかれも全体的に多少のやっつけ感が否めなかったものの、そんなチープな中にもきらりと光っていたのが、石川さんによる、これ。ファンとしての贔屓目もありましょうが、野村義男の軽快なアレンジ、「♪おかいもの いこう はらじゅくへ」みたいなすっとぼけたメロディライン、フェミニンなぶり歌詞、「理解、してよね!?」「ホイッ!」など遠慮深謀のないギミック、そして当時まだあまりにも頼りなかった石川さんのスリリングな甘ったる歌唱と、すべてが絶妙にマッチングしておる絶品です。

しかしあくまでこの曲はファンクラブ限定の発売でありまして、さほど世に広く出回ることもなくまたコンサートやイベントなどで歌われることもなかったがために、いつしか「幻の名曲」と祭り上げられることとなりました。

そしてその封印が解かれたのが昨年 2005 年 11 月に開催された石川・保田カジュアルディナーショーですよ。石川さん初のディナーショーで、倍率が高かったため参加しようとも抽選に漏れたヲタ多数、ぼくもそのひとりではあって、ごく閉じた空間のみにその幻のエンジェルヴォイスが響き渡ったという風のうわさにギリギリと歯がみしたものでした。余談ですがその全国の参加できなかったファンの落胆を知ってか知らずか石川さんが公演後にすかさず己のラジオ「ちゃんチャミ」でこの曲を番組開始後ようやく初めてオンエアしてくれた、というのも石川さん伝説として記憶に新しいところであります。


話を戻しますと、カジュアルディナーショーでは公演後にお客からアンケートを回収しているんですが、「理解して! が聴きたかった」という要望が多かったために、初回から二回目、三回目にかけて演目を変更した、という流れだったようです。ていうか石川さん自身がたしか上記「ちゃんチャミ」で言ってたっけか。そして「理解して!>女の子」は石川さん自身と二回目と三回目の客席に満面の笑みをもたらし、と同時に「私の顔」は今のところたった一回の公演のみでしか歌われていない、幻の演奏曲と化したのです。そんなことなら最初から「どうぞこのまま」など歌わずに、「私の顔」→「理解して」という石川さん鬼コンボなら誰も何からも文句など出なかったし公演ごとの不平等も生じなかったのにね、とごくごく当たり前のことを思うんですが・・・。

しかし思い出は美しいほうがいい。終わったことに関してはわりとポジティブな解釈をしたい派ですから、根本的なセットリストへの不満を脇に置いておけば、この「私の顔」一曲が聴けたことで石川さんの歌唱を間近で堪能する、という体験に関してはまったく悔いがないのでもう死んでもいいです。