「第8回ハロプロ楽曲大賞2009」イベント鑑賞記

2009年最後どころか、いわゆる“ゼロ年代”最後の更新です。

モーニング娘。LOVEマシーン」旋風で幕を閉じた 1999 年の終盤、「これまでは“90年代”と呼んでいたけれど、さて来年2000年からの10年にはどういう風な呼び方が相応しいんだろう? “レイ年代?”」とかのんきにはしゃいでいた時代から、瞬殺で丸10年が経過してしまいました。結局特にこれという呼び名も定着しないまま、“レイ年代”はともかく“ゼロ年代”も小さな文化圏に留まってあと二歩及ばなかった印象です。名前のない10年を過ごしました。

そんな中で紆余曲折、栄光と挫折、天国と地獄、ミリオンヒットとスキャンダルにまみれながらもモーニング娘。を中心地とするアイドル集団「ハロー!プロジェクト」は2009年末までなんとか命脈を保ち続けてきました。「革命元年」みたいな年頭の威勢のいい旗印は今さら口にするのも憚られますが、それでも大きな意味での「ハロプロ」は今年も数々の名曲を世に送り出してきた。

ハロプロ現役はもちろん元メンバー、あるいはハロプロとはそもそもあまり関係のない歌手がリリースしてきた楽曲をリストアップし、そこから好きな楽曲を選んで投票しやがれという「ハロプロ楽曲大賞」の投票結果を夜通し発表するイベントが、「第8回ハロプロ楽曲大賞2009」です。

ってことで年の瀬も押し迫った30日の深夜、およそ5時間に渡って新宿ロフトプラスワンで執り行われたこのイベントを楽しんできました。8度目の開催にして初の鑑賞です。唯一今さら惜しむことには、そんなことは無理だとわかっているのですが、もう何年も前からこのイベントはナマで体感しておくべきだったよね……そう悔恨するくらい楽しめました。


投票結果50位から1位までの楽曲が、ほどよい音量とほどよい大きさのスクリーンで見られる。

いつも家でチマチマ小さい画面とイヤホンで聴いてる身の上にとってこんなにアガることはないです。環境だけで最高。しかもただ楽曲や映像を流すだけじゃなく、その映像をイベント的に魅せていく演出がいちいち凝っているし、データ系もばっちり充実してる。第8回目にしてタイムスケジュール管理もソツがなく、身を預けて見られる感じです。

主催はピロスエさん。このイベントの創始者で「ミスター」の風格が漂っており、イベントにかける強靱な自負とヲタ活動へのただならぬ気合が伝わってきます。また基本的にクールガイなんだけどBerryz工房の話をさせるとまるで手のつけようがないようで、「時間が余ったらハワイツアーでベリメンが朗読した手紙を流します」と宣言しておきながら、終了時間が「おしてる」らしいにも関わらず、結局全員分の手紙を流していたのには「きっと最初から全部流すつもりだったんだろうな……」と静かな狂気を垣間見ました。遠目から見るとどてらのような色合いの服装で背中を丸めていたので浪人生がこたつでみかん食ってるみたいでした。

少し気になったのはピロスエさんがステージ上で頻繁に携帯の画面を覗き込んでいたことで、ネットの実況中継的な書き込みを気にされているご様子なんですが、客席からはカラオケボックスで退屈そうにしてる人みたいに見えました。今後Twitter的な即時性の高いツールやモバイル通信がより発展を遂げれば、会場内にいる人たちのコメントを集めて即座にスクリーンに投影できるみたいなシステムを導入してもいいんじゃないかな、とも思いました。「ニコ生」や「ザ☆ネットスター!」っぽくなりますけれども。ネット発のイベントとしてはそれもまた一興かなって感じです。

「魅惑のクニオ♂」さんは今回楽曲大賞で初めてコメンテーターを務めるということで正直よく存じ上げなかったのですが、ハロプロ関係のDJイベントを長らく取り仕切っている方らしく、ビールやワインでズブ酔いになりながら熱弁を奮ってました。個人的にはいちばん意見に同意できたかも知れません。特に「アイドルソングの歌詞はどうあるべきか」というテーマについて再三再四「モーニング娘。の今年のシングルの歌詞は全部アレだった」「Berryz工房のライバルはとにかくサビの歌詞がいい!」とか言っているのは、ピロスエさんが若干煙たがってましたが同意。真野ちゃんへのカワイイ連呼は魂の叫びでしょう。締めの挨拶ではいきなりE・YAZAWAみたいな口吻になって、ハロプロとヲタの間に横たわる温かでときに盲目的な関係性などについて熱く語りを入れてました。

映像音楽関係を担当してるというHonest(オネスト)さんはその仕事ぶりがお見事で、効果音や映像構成などもいちいち気が利いているし、完全に居心地が良かったです。合議的に行われたことではあるのでしょうがライブ映像や写真集のメイキング、PVからどこをどう切り取るか、などの取捨選択が過不足なくツボでした。また、たとえばBuono!の「消失点」がライブ映像素材の関係でワンコーラスしか用意できなかったことについて、ご自身のせいじゃないのに会場に向かって手を合わせて謝っていたのもかわいかったです。「この人がいなくなれば楽曲大賞は終わる」と冒頭にどなたかが言っていたことも決してウソではないなと思うものがありました。

楽曲名やユニット名などのアナウンスをするモコモコさんは「世界は サマー・パーティ」バックダンサー時と「ぁまのじゃく」PV時という2パターンのS/mileageスマイレージ)のコスプレを見せつけてくれて、完全に超キュートでした。あと2006年にロフト等のイベントではなくネットラジオ的にハロプロ楽曲大賞の結果を発表していった年があったのですが、そのときに初めて聞いたモコモコさんの、テンションやたら昂ぶらせるでもなく、かといって沈めるでもないという深夜に似つかわしい浮遊感のあるナレーションが今回ナマで聞けて、「こういうことだよな……」と妙な得心をしながら延々聞き惚れてました。退場時のお見送りの列でせっかくプラプラお手すきの様子だったにも関わらず人見知り発動しまくって声をかけることはできませんでした。

実験4号さんは秩序を慮るトリックスターといった趣でお客を細かく扇動したり他の出演者にスッと話を振ってみたりと端っこの位置から「裏回し」的な立場で軽妙コメンテーターぶりを発揮しており、さすがでした。あと意外と言っては失礼なんですがハロプロへの熱量や蓄えているヲタ性の重厚感が全然あった。ライブやテレビ露出に関する基礎的な情報をめちゃくちゃきっちり仕込んで臨んでおられるし、楽曲大賞それ自体についても「推しメン」データを独自に事細かくExcelにまとめているらしく「清水佐紀は右肩上がりで順位を伸ばしてるんですよ!」と歴史を積み重ねてきたイベントならではの地層のような統計資料を引き合いに出してみたりと素敵でした。「有原栞菜推し」を全面的に主張して℃-ute休業時には「外反母趾が早く治るといいナ〜」と楽観視していた過去の自分を呪い、「THEポッシボー岡田ロビン翔子に注目が集まってないのはおかしい!」と世の趨勢を呪っているのが印象に残っています。

最終的に炙り出されたランキングについてはイベント内で逐一カウントダウンしていく展開それ自体がとにかく楽しかったです。実験さんの言うとおり本当にあっという間でした。100位から51位までのランキング発表が存在しても(下準備で死ぬでしょうけど)よかったくらい。と共に、やはりがっつり聞き込んで投票したせいで自分の中でのランク付けがかなり明確になっていて、「別にそうでもない曲」が上位に登場したときに急にふっと冷めてしまうというぁまのじゃくな部分が発動して「ぜんぶんぜんぶ興味ない」ってなる場面はだいぶ正直ありました。

それでも、あらためて大画面でライブ映像やPVなどを見てはたと再発見した曲などもたくさんあるので、それらも含めてTOP50からいろんな曲について感想を書き残してみます。

41位の道重さゆみモーニング娘。)「It's You」はこれまでなんとなくスルー気味だったもののアイドルにとって歌唱力より大切なものはたくさんあるんだよ派からしてみれば聞き返さなきゃいけない佳作だな、とライブで歌ってる道重さんのスターな側面に久々に触れて感じました。39位の田中れいなモーニング娘。)「部屋とYシャツと私」についてはモコモコさんが「これってさだまさしの『関白宣言』のアンサーソングなのでは?」と言っていて、Wikiを見てみるとなるほど関白宣言の項にそういった記述がありました。新発見です。当時からよく知られていたことなんでしょうか。35位の真野恵里菜ラララ-ソソソ」は身の回りに一推にしている人たちが複数いたのでこの結果は少し意外でした。ニッチな偏愛だったようです。

34位に℃-uteの「Bye Bye Bye!」が入っています。またこんな低位だ! ぼくが8ポイント入れてなかったらと思うと忍びない。今回ロフトプラスワンであらためて聞いてもイントロ流れてきた瞬間にグワと血潮がたぎり、ズバ抜けてピカピカでキラキラでエッジが効いてて音の粒が立ってて何より踊れるし、どう考えても自分の1位が爆発的にぶっちぎりで「Bye Bye Bye!」であることにブレは生じないな! と感じました。100位の「暑中お見舞い申し上げます」より高位だったのが辛うじて救いです。

31位のガーディアンズ4「PARTY TIME」は超陽気なテクノハウスでこれはいわゆる「ガーフォー」の認知度がもっと高ければそれに比例して上位に挙げられてもおかしくない曲でした。

26位のS/mileageスマイレージ)「あすはデートなのに、今すぐ声が聞きたい」と15位の「ぁまのじゃく」は、来年以降の台風の目になるであろうスマイレージの萌芽として大切にしたい楽曲だなと思いました。インディーズの時点でこんないい曲連発するのはもったいないんじゃないか、℃-uteまっさらブルージーンズ」の二の轍をなぜ踏もうとするのか、という壇上のご意見は納得。ともかくエッグで十二分に鍛錬を重ねてきたけどユニットとしてはまだ色がついてない上にポテンシャルは明らかに高いという「伸びしろ」への期待感がハンパないのが、楽曲大賞イベの会場の反応からも感じられました。

20位のHANGRY & ANGRY「Top Secret」はハンアンとして最高位。ビジュアル的にヲタ受けはしないけど聞けばちゃんとイイ曲だし、いしよしだし、というもったいないパターンです。そしてこの曲の歌詞のロシア語「ダスヴィダーニィヤ」は「さよなら」という意味ですよ、的な部分にまで言及していた実験さんの痒いところに手が届く感。

11位の真野恵里菜世界は サマー・パーティ」はなぜかこの日一、二を争うほど会場が大いに盛り上がっていましたし、ぼくもいちばん盛り上がりました。サビの振り付けが「手拍子」主体で覚えやすくて音がパンパン鳴るという派手さがあったり、真野ちゃんがかわいいのは当然にしても背後のスマイレージメンが現段階において布陣として超ぶ厚い、あと普遍的なモータウンビートできらいになる要素がいっさい無い、みたいな平和さが伝播した感じでした。

そしてトップ10! 7位のモーニング娘。「雨の降らない星では愛せないだろう?」は曲の映像が終わったあとにそれまでなかったはずの拍手がいきなり沸き起こるという、言ってしまえばただのVTRにすら客の情動を揺り動かしめる果実が詰まっているような稀代の名曲なんだよなと再確認しました。スローテンポながらもメロ展開や楽曲構成の後半にかけて一直線にたたみかけるヒートアップぶりは、ここ10年のハロプロ楽曲の中でも特に目を見張るものがあります。ジュンリンが歌い上げる中国語パートも最高のアクセントですよね。

3位のモーニング娘。「SONGS」はアルバムの一曲目かつライブも一曲目でそのライブは演出的にすばらしかったらしく、この曲に対する感興はライブ会場に訪れていた人がより深く共有できるものだと思います。ハロプロの「外部」に見せても恥ずかしくないという評価。真野ちゃんの4位「はじめての経験」がヲタ以外に見せたら恥ずかしい、とか決してそういうことではないと思うんですが…「ミュージックステーション」でも度肝を抜くパフォーマンスを見せてくれましたしね!

2位のBuono!「消失点 -Vanishing Point-」は特にライブでがんがん乗っていこうぜみたいな曲ではなく、夏焼雅の準ソロ曲だからといって人気がある曲なわけでもない。歌詞もメロもアレンジも歌唱も、激シブでせつなく、虚無的ですらある。だからこそ好きだという人が多いのかも知れません。Buono!3人の歌声やパフォーマンスがいいのは前提として、しみったれたニュアンスには偏らない独特のなつかし80年代J-POP風味が普遍性を獲得している印象です。

そして2009年の1位はBerryz工房「ライバル」! なんとPV部門とのダブル1位! 蓋を開けてみれば「これが民意か」。800名以上が投票に参加したという楽曲大賞ならではの結果にうなりました。ぼくは楽曲部門では投票していませんが「ライバル」が1位であると紹介されてからPVフルコーラスをあらためて見るとたしかに全員超可愛くて「これ以上のものは無いな!」と納得。これは2位の「消失点」と表裏一体でもあって、大きな仕掛けこそないけれどアイドルポップスの王道を貫いて、ただひたすら楽しいとかカワイイとかちょっと勇気づけられる、みたいなニュアンスが複合的に備わっていた結果だと言えそうです。意外かつ妥当な結果でした。

個人的なまとめとしては、これは2009年の年末の総括でもあるし、来年へ向けての課題だし、もしかしたら死ぬまで解消されない問題なのかも知れませんが、自分には「愛が足りない」。ハロプロ楽曲を基軸としてアイドル楽曲に関しては雑食に近い物があるはずなんですが、どうもメンバー個人に対する思い入れが極端に浅いみたいです。こういうイベントやライブ会場でメンバーに対するヲタからの思い入れを肌にヒリヒリ実感して面食らいます。「推しメン」部門に誰を選んだのかも忘れてしまいました。あと他の周囲のヲタの人に対しても一様に愛が足りない。けっこうまともな家庭で育ったはずなんですが……。

ともかく1年間、もしくは10年間、あっという間でした。今さら人間性や音楽的な趣味が極端に変わることもないはずなので、次の10年もアイドルソングに彩られ、口ずさみながらゆっくりと老いていくことになると思います。心の底からイイ!と思える曲に出会って、死ぬまで添い遂げたい。