ダブルレインボウ

松浦亜弥さんのコンサートツアー最終日、昼夜二公演をナマ体感しようと名古屋に行ってきました。



チャールズ・M・シュルツ氏による不朽の名作「ピーナッツ」に表現を借りると、松浦さんは終始、この絵の右側のキャラクタ「サリー」みたいなとてつもない大口をかっ開いて熱唱しておりました。遠い座席から眺望する松浦さんのお顔は、イコール「お口」でした。お口のおばけ様でした。

いっぽうこの絵の中でサリーの左側で颯爽とすっ転んでいるのは、そんな松浦さんに圧倒されているぼくをはじめとするヲタどもだと置き換えてもよさそうです。もちろんそんなものはただのこじつけです。

ちなみに上の GET ALL YOUR なんちゃらみたいなセリフにもまったく意味はありません。単に「ピーナッツ」公式サイトから画像をこっそり拾ってきただけです。まったく何から書き出して良いかわたしにはとてもわからなかったので、こういう結果になりました。ご面倒おかけします。


松浦さんは心身ともに絶好調に見えました。お口の全開っぷりからも察せられるようにアゴの調子も特に問題がなさそうでした。


ただ、歌詞はものすごい勢いで飛ばしまくってました。昼公演ではニューアルバムに収録されている新曲のほとんどで、どっかしらやらかしてました。

たしかにこれまでのつんく♂さんの手によるものと今回のアルバムの非つんく♂さん詞とでは毛色の違うものが多数あるわけで、ともすれば完璧に頭に入っていないのかも知れません。

あるいは、これは邪推もいいところなんですが、もしかすると松浦さんは自分が“あまりにも歌を完璧に歌えすぎている”せいで、曲の途中にも関わらずそのことに恍惚としすぎて歌詞を忘れてしまう、ということがあるのではないか、とも次第に思えてくるようになりました。なにせそれくらい松浦さんは自分の「歌声」に自らどっぷりディープに没入しているように見えました。

たとえば野球選手がド派手な三塁打を放ってヘッドスライディングでセーフになったりもしていて得意満面でサードベース上でガッツポーズをしたまではいいけれど調子こきすぎて三塁手隠し球を喰らうようなイメージです。好プレーにうぬぼれて調子ぶっこきすぎということです。ちなみにそのときの三塁手元木大介(元巨人)が想定されます。きわめてどうでもいいことです。


ところで昼公演で歌詞を飛ばしていたニューアルバムの曲は、夜公演ではさすがにすべて正しく歌われておりました。しかしその代わりにまた別の曲で飛ばしたりという惨劇が展開されておりました。

「脳の空き容量が足りてないんじゃないか」と失礼極まりないことをしかし率直に思いました。


生バンドがめちゃくちゃすてきでした。

今ツアー最初で最後の鑑賞のぼくにはバンドメンバーを個体認識するのは到底不可能ですが、ギター、キーボード、ベース、ドラム、パーカッションと 5 つの楽器が仕込まれておりまして、ハロー系コンサートの生演奏としては最大級に役者が揃った感がたっぷりありました。特にドラムとパーカッションという打楽器奏者がステージ両端に二名いる、というのがとてもにぎにぎしくてかつ豪勢です。

桃色片想い」「絶対解ける問題X=♥」「 Yeah!めっちゃホリディ」等のただでさえ凶暴な楽曲は、だいぶ久しぶりにまともに聴けたというそれだけでも嬉しいんですが、この生演奏によってもうオリジナルを遥かに凌駕する迫力で甦っており、松浦さんも超たのしそうにほとんど往時の振りでノリノリだったので、ぼくとしてもさすがにブッ壊れました。右足のふくらはぎがつりました。

あと、そんなバンドに加えて女性ダンサーさんもふたりいたので、「松浦さん+バンド+ダンサー」という総勢 8 名というなかなかの大所帯ぶりでした。大勢いるからいいというわけではないですが、それぞれお互いの領域を浸食することもなく、理想的な人材配置だと思いました。

順調にいけばまた来年には単独ツアーが始まるのでしょうが、ここまできてしまうともう「バンド不在の全編カラオケ」というのが考えにくくなってきましたね。またダンサーさんが欠けても淋しいところ。

過剰にシックに落ち着きすぎず、かといってひたすらノリだけ一辺倒にもならず。『生バンドで歌って踊って笑って泣いて』が松浦さんのライブをもっとも魅力的にする基底の方向性だとするならば、今回は考え得るベストの布陣だったと思います。


それにしても千秋楽の夜公演は、異様な盛り上がりでありました。ステージ上の松浦さんが「何事?」みたいな面持ちでちょっと引いてるくらい。で、ただでさえ昼公演でヲタも松浦さんもお互いに温まってるのに、いろいろたくさん小ネタ仕込まれてきたのでこれは心の隅々まで満足するしかないのです。

たとえばオープニングの諸注意ナレーションにいきなり松浦さんご本人ご降臨。トイレ行っててあやうく聞き逃すところでした。

途中のバンドメンバー紹介でのいわゆる「ソロまわし」では、これまでは律儀にやっていただろうものを、パーカッションの人がヲタを先導してハイテンションでふざけ、キーボードの人がギターを弾き、ベースの人がブレイクダンス(※できてない)を繰り広げ、ギターのバンマスがベースを弾くなど実にカオス。昼ではほぼふつうの演奏だったのでこのお遊びは予想外で松浦さんいわく「愉快な仲間たち」の本領発揮でした。

で、アンコールではボーナストラックみたいな感じで「可能性の道」が追加されまして大合唱。ただこれ実は松浦さんサビでマイクを使わずに「生声」で歌いたかったような想念が途中で感じられたのですが、どうもうまく会場中に意図が伝わらなかったようでうるさいままで、まぁ千秋楽の一発勝負だったのでこれは仕方ないです。

やがて本当のラストの「 I know 」の歌が終わり最後の最後に「せ〜の」で会場全体で一体感を演出するためにジャンプするわけですが、その瞬間、こうスパーン! いう爆発的な轟音とともに舞台から大量の黄金テープがバズーカ状に吹き上げられ、紅白歌合戦のエンディングよろしく客席にきらびやかに舞い落ちるのでした。つい一本持って帰ってきました。いい記念品になります。


MC は前評判ほどのド S 女王様ぶり全開では無かったです。どちらかといえば、あこれは S ッ気があるのかな? くらいに留まってました。基本的に愛想はとてもよく、客からの不意のかけ声にもアドリブでうまく返し、「みなさんお仕事たいへんでしょうけど月曜日からなんとかがんばりましょうねいっしょにわたしもがんばるから」みたいな、クサいけれど心にストレートにしんみりするようなメッセージが端々から伝わってくるような、頼れるよきお姉さまというか、なんというか実に「出来た人」ぶりがよく現れてました。


歌声は圧巻でした。

特にアンコールの「ダブル レインボウ」は昼夜二回とも歌詞を間違うこともなく(いや当然なんですけど)それはそれはすさまじい熱唱でした。だってほんとすごいんだってば。呆然としすぎてよだれを垂れ流しながら聞いてました。


行ってよかったです。