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石川梨華大谷雅恵カジュアルディナーショー('06/04/17)の話題にサクッと戻ることにする。

この組み合わせでの公演は、ぼくの参加した月曜日を初回として火曜日そして木曜日をもってすべて予定どおり終了したということで、ここからは一切合切ネタバレなど気にすることもなく、また三公演すべての曲目が出揃ったことで初めて語り得る事象もいくつか発現したものだから、あらためて客観的に当日胸のうちに沸き起こった歓喜、絶頂、悔悟、失望等の思いの丈を冷静と情熱のあいだで綴っていきたい所存也。

三曲目は「春の歌」だった。石川在籍時のモーニング娘。アルバム「愛の第 6 感」の収録曲で、オリジナルは飯田・矢口・石川・吉澤という似非タンポポライクもしくはビーナスムースなメンツで歌われている。このアルバムには「独占欲」「声」などの名曲も入っており、決してノリノリな感じでは無くスローテンポな「春の歌」はいささか地味な印象ではあるが矢口のフェイクもせつなく元来風雅な楽曲ではあって、石川さんがディナーショーで主導的にしっとり歌うという意味での必然性はぜんぜんあるのである。よく拾ってきた。

そしてついぞ到来しましたよ、今やディナーショーの目玉のひとつともいえる「歌い手がステージから降りて客席のテーブルを巡りながら客ひとりひとりに目線を配る演出」がこの曲でいよいよ実践されるのだった。塵埃まみれの穢れた下界に舞い降りた裸足の天使こと梨華ちゃんが卑賤な俗人どもに自ら歩み寄って超至近距離から聖なる笑顔を振りまいてくれるという昇天サービスタイムである。ちょっとした園遊会ともいえる。

しかしだな、いくら 80 人規模のライブで全員がデフォルトでものっそい近距離から対象物を拝むことができるといえ、やはり序列をつけたがるのが人間の悲しいさが。前方の特等席など特にやれ「最前」だやれ「神席」だなんだとレッテルを貼られるのは必定だ。はたしてそんな中、最前列が完全にしゃれになってないのはわかるとしても、このディナーショーで格段の「神席」といえるのは、『通路席』。この通路席であるか否かという部分が参加者内におけるヒエラルキーを左右するのだった。

だってかの女性歌手の可憐な方たちはだね、マイク握って歌いながら、歩きながら、我々のすぐ横を通ってゆくのです。もうすぐ横だよゼロ距離だよゼロ距離。通路席に身を置いたある者の証言では「こっちが何もしなくても勝手にドレスにさわっちゃう」という。ある者は「すごいいいにおいがした」という。要するにそれくらい近い・・・シット! 嫉妬。だんだん書いてて腹立ってきた。

敗北宣言などしたくはないが、なにしろ僕の座席はどちらかといえば通路より奥まった非通路的なところにあるのであって、そりゃ横を通れば 1m ほどの超至近距離ですから、黒い背中とか、あとちょっと胸元くらいはしっかりガン見させてもらって「あぁなんたる僥倖か」と憎々しい笑顔を湛えるまでには至ったのだけれども、惜しいことにサラッと触れたりにおいを嗅げたりするほど近い座席ではなかったのである。あぁくやしい。

祭りのあとの虚脱感に苛まれている現在ではあるが、こうして当日の行動を洗い出してみると、いろいろやり残したことがリストアップされてくるわけで。

梨華ちゃんのにおいを嗅ぐ」

そう、この新たに設定された下劣な目標に向けてまた邁進してかなくちゃ、と強く拳を握りしめる所存なのだ。

ちなみに石川・大谷の両者がゆったりと歩みを進めながら歌った「春の歌」は、自分が興奮状態にあったせいで歌声とかよく覚えてないが、オリジナルで矢口が「♪トゥルルール ラットゥットゥー」とやっていた間奏のフェイクを石川がやっていた。ピンクの花園。