生きるという力

週末恒例のハロプロ更新、と言いたいところだけど、一度ペース崩れちゃったからもうあんまり関係ないや。


今回ご紹介する商品はこちらです。


およそ一ヶ月ほど前に発売された ℃-ute のミニアルバム。ぼくはいつものようにレンタルで聴いてます。どうもこの手のミニアルバムって収録曲数が中途半端であんまり本腰入れて聴く気になれないんですけど、今回の「 (2)mini 〜生きるという力〜」という作品は、タイトルこそとってつけたような感満載ですが、中身はなかなかどうして。辻さんの件やら藤本美貴さんの件やらでいろいろ騒がしい中、一服の清涼剤として、あるいは慰めとして、未だに聴くことが多いです。

一曲づつ感想文を書いていくことにします。


1.That's the POWER

別名「キューティサンバ」とでもうっかり名付けてしまいたくなるような極楽サンバ調。お約束のホイッスルがそのお気楽っぷりをいっそう助長する。

ことほどさように軽快な曲調であり、と同時に、なんだか必要以上に地に足がどっしりついてしまったようなイメージもある。破綻のないメロと的確なアレンジの醸し出す盤石感が終始ハンパない。もう「ここに着地するしかない」というような理詰めぶり。決してまちがっちゃない。

ただ、そこが逆に退屈、あるいは冗長であるような気もする。あまりにも無難。遊んでるようで遊んでない。

サビで執拗に連呼されかつ曲名にもあるような「 POWER!!! 」というマッチョな感じでは総じてあまりない。℃-ute の人たち年相応の爽やかなサンバカーニバルぶりで、派手派手しいリオな衣装は似合わず、第一義的に「たのしいパレード」「にぎやかパレード」といった健全で純粋なウキウキが先立つ。

同じつんく♂の手によるものでもおぎはやぎの「ビンゴーレボンゴーレ」のやっつけ感に比べると、仕上がりが雲泥なのは言わずもがなだけど、オーレ、ビバサンバ! な熱々ぶりではおぎやはぎのほうが上かも。


またこの曲は当ミニアルバムにおいて、唯一の「 ℃-ute 」名義の楽曲でもある。

この曲以外はすべて「 ℃-ute 」名義ではなく、「鈴木愛理」「矢島舞美」といったソロ名義、あるいは「梅田えりか岡井千聖有原栞菜」「中島早貴萩原舞」といった具合にメンバーの複数名の名義になっている。

デビューすぐの段階ではっきりと役割分担させるより、まずは「 ℃-ute 」としての総合力を高めたほうがいいんじゃないか。あと iTunes にインポートするとき、名義が「 ℃-ute 」で統一されず、自動的に「鈴木愛理」とかで分別されちゃうので、アーティスト名での検索がとても厄介。


2.僕らの輝き

悲しみトワイライト」しかり「恋するエンジェルハート」しかり、比較的ストレートなロックっぽいナンバーが目立つ最近のハロプロ。そこへきて「僕らの輝き」もまた同様。いずれもつんく♂の手によるものだ。

つんく♂といえば過去は '70s ディスコ調に傾倒したかと思えば、似非ブラッキーな R&B ミディアム曲を濫造してリスナーを困惑させたりと、けっこうマイブームがはっきりしている。

しかしつんく♂以外の手による作品でも、月島きらり starring 久住小春ハッピー☆彡」や、ちょっと前ならメロン記念日お願い魅惑のターゲット」等も、同じようなスピード感であり、なんだか「またこんなか」という感慨は拭えない。

それでも「僕らの輝き」は意外と出来がよくって、まだしばらくこの傾向は続きそう。


僕らの輝き」とリリース時期が重なって比較対象としてわかりやすい「恋するエンジェルハート」に関しては、美勇伝というか石川さんのシングル曲ということもあり、個人的には評価にゲタ履かせざるを得ず総じてえこひいき丸出しで絶賛しちゃう、といったような部分が正直否めない。

そんな中、「僕らの輝き」はまちがった歪んだ先入観なしでも、十分シングル曲として戦えそうなメジャー感、密度がびしびし伝わってくる。ハモリやメリハリもいちいちはまっていて隙がない。真夏の清涼飲料水の CM ソングで一発ぶちかましたいところだ。

いわゆる「一番」のサビが終了したあと、何の間奏もなく、すぐさま二番に突入する展開が耳にとても新鮮だった。


歌詞的にはタイトルで「僕ら」を謳っていることもあるように、「♪勇ましい輝きのほうへ」「♪美しい輝きのほうへ」など、戦時下か、と言いたくもなるような、女の子らしからぬフレーズが頻発する。「漢(おとこ)」というほど徹底しているわけでもないんだけど。ユニセックスというか。

あと、岡井少年、梅さん、そして新参の栞菜さんの三者が歌い手らしいのだが、顔と名前こそ一致するものの歌声については無知なので、誰がどこのパートを歌ってるのかはまったくわかりません。


3.ディスコ クイーン

あんまり知ったかで音楽のことを言ってもしっぺ返しを喰らうのだろうけど、それでもつんく♂ハロプロ音楽を通して世間に問うてきた己の「ディスコ」感は、 70' sないし 80' s な出典がほとんどだったと思う。「 LOVE マシーン」を筆頭とするダンス☆マン関連楽曲では特に。

でも「ディスコ クイーン」を聴いて、ここにきてようやく 90's 後半まで来たかも、という気がした。

だって電気グルーヴだよね。

いや、本当に音楽的な引き出しが極端に少なくて申し訳ないんだけど、「 FLASHBACK DISCO 」( '99 )にちょっと近いと思う。この閉塞感、このループっぷり。

つんく♂も歌い手もディスコディスコひたすら連呼して、いったい何がディスコなのか、何がクイーンなのか、「アイム ディスコ クイーン」ってどこがどうディスコクイーンであるのか。

無意味に無意味を重ねていって。ミニマルミュージックっていうんですか。適当なこと言ってるようだったらごめんなさい。

そりゃ電気グルーヴとシャ乱 Q じゃディスコ感はぜんぜん違います。真逆というか、比較することさえ愚かしい。しかし「ディスコ」という鋭利でありながらもどこか間の抜けた音の響きが、華々しさと空虚さを同時に持って自由に浮遊している、そんな点では共通してると思った。

また、いっそディスコディスコ言いっぱなしでメロなんて特に無ぇよ、くらい徹底してくれればよかったのに、とも。しかしそこは旧来的アイドル歌謡の申し子つんく♂、無理な注文である。むしろメロはメロで充実しまくっている。

Perfume の音楽ってあんまり真剣に聴いたことないんだけど、これより素晴らしいんだろうか。


つんく♂印の楽曲は数あれど、四つ打ちがようやく本来の効果を発揮している。ヲタ芸とか振りコピとかしないで音に任せて単純に気持ちよく踊れるはず。大音量で体感したら魂もっていかれるよ。

サビの途中、繰り返し段階での転調も凄い。力業すぎて本当にいいのかな? って不安になったりするけれど、もちろん結果的には正解だった。音楽的合法ドラッグ


歌い手は萩原舞中島早貴でナイスカップルのベストバウトだろう。歌声に色がついてないからこその無機質ぶり。これは聴き手の無知が奏功しているだけかも知れないけど。

未練たらしく「 W が歌ったらどうだろうな」とか思っちゃうのは許してください。

アレンジャーは田中直。ブリブリペースで音圧重厚にして、この曲調でこのピアノピロピロは異質。
そして最後のボーカルの一音、残響音を排除しての収束まで徹底してる。


4.通学ベクトル

サビの「♪雨の日は癖毛になるの」って歌い出しがまずすごい。

まるで見てきたかのようなドキワク女子中学生シチュエーション。ほんのちょっとした心情の機微から、登場するアイテムのチョイスまで、この曲は作詞者つんく♂の乙女力が終始圧倒的すぎる。

とても他のハロプロ楽曲でやっつけみたいな大味な歌詞を書いてる人とは思われず、「通学ベクトル」という異様な曲名にも説得力が生じている。「♪神様はいじわるね クネクネしちゃうな」とか完全に変態の領域。


また B メロが秀逸です。

「♪雨の日だけ 同じバスになる」からの数小節は、まずハモメロがいい。そして真に迫った歌声、歌詞、うしろのストリングスなど、トータルで何度聴いても背筋がゾッとする出来映え。ここだけ死ぬまでリピートしてたい。


歌い手の鈴木愛理さんはもうちっちゃい頃から歌がうまい人で。その評価は今も変わらず、かといって今絶対的に安心できるボーカルというとそこまで到達してないけど、いわゆるベリキューさんたちの中では未完成ながらもやはり最高峰の実力と感じる。

決して黒いとか影があるとかいうわけではないのに、この人の歌は、そこはかとなく「シリアス」だ。それは「あぁ!」の「 FIRST KISS 」のときから基本的には変わっていない。達者なフェイクのあとの間の抜けた「フー」だけが、この曲では辛うじて唯一の息抜きである。

アレンジは平田祥一郎。間奏のチェンバロみたいな音色とか、そのあとにつながるシンセソロとかベルみたいなのとかが、やっぱり「白い TOKYO 」「未来の太陽」ラインから抜け出せず、相変わらず手詰まり感みたいなものを感じさせるけれど、それも微細な問題。

曲単体では抜群に聴き心地がよくってまだハロプロではどんどんお任せしたい。


5.夏 DOKI リップスティック

このミニアルバムには、いわゆるバラード曲がひとつも収録されていない。終始突っ走りっぱなしで失速しない。ハロプロのアルバムではわりと希有なことだ。

最後まで昂揚しているように感じられるのは、この「夏 DOKI 」のキーがわりと高めに設定されてるから、ということも大きな要因かも知れない。息切れしそうになりながら、ちょっとしたスポーティな訓練を受けてさえいるかのように、己の限界に挑戦して高音を出そうとしている矢島さんの必死さがとても麗しい。っていうかわざとムリさせてるだろ。

B メロのコード感の無理矢理さは「シャニムニパラダイス」にも通じてちょっとアレだけど、もう慣れた。十回聴けば慣れちゃうもんだ。悲しいかな。


この曲の最大のキモはなんといってもサビの「♪DOKI DOKI ドキュー!」に尽きる。最後のメロを無視した「ドキュー!」に胸を打たれる。文字通りの飛び道具。鉄砲玉。

一聴、ハロプロ昂揚楽曲にありがちなむりやり常套手段と聞こえる。

しかしよくよく考えてみると、これまでのハロプロ文法、つんく♂文法では、この「ドキュー!」はありえなかった。


たとえば従来の文法を踏襲するならば、こうなる。「♪ DOKI DOKI DOKI フゥー!」。メロが終わったあと間髪入れず「フゥー!」みたいになると思うのだ。文字で伝わってるかどうかわからないけれど。それこそ卑近な例で「通学ベクトル」での鈴木さんの「フー」とか、あるいは古典で恋レボの「♪ラブレボリューション トエンティワン ほいッ!」の「( ^▽^)< ほいッ!」なんかかもそう。

それが本作では「♪ DOKI DOKI ドキュー!」だの「♪ ZUKI ZUKI ズキュー!」だの。一拍早い。メロのラスト部分に飛び道具がダイレクトに組み込まれてるわけだ。

十年目にして斬新だと思った。

ましてや間奏終わりの終盤のサビで一回「♪ DOKI DOKI DOKI 」と飛び道具を使わない基本パターンの歌唱を一回ちゃんと挟んでおきながら、転調して、あらためて「♪ DOKI DOKI ドキュー!」をやってくれる。なんて行き届いた構成。本気出したときのつんく♂の恐ろしさを見た。


ところでアレンジの山崎淳という人はめっきり最近ハロプロ御用達だ。

ギターの目立つロックなアレンジが特徴的で、だからこそワンパターンとの指摘が早くも目立ち始めており、鈴木 daichi 秀行ほどではないにしろ必ずしも評価は高くない。

でもぼくは派手なギターの背後に「♪パッパラ パッパラ」と副次的に鳴ってるシンセブラスみたいなのが、けっこうツボだったりする。ちゃんと陽気にやってくれてる。「悲しみトワイライト」でイントロからうすく繰り返される「♪シャッシャシャー シャシャーシャー」ってのもそうなんだけど。

ギターがギュイギュイうるさいのを除けば、むしろ微笑みながら好ましく聴けます。