プロ野球の「15秒ルール」と「乱数表」の記憶


これは「ランスーミキ」


2 月に入ってプロ野球のキャンプもいっせいに始まり、いよいよ球春到来でございます。まるでおっさんのブログの書き出しのようですが消しません。

札幌市内はそれなりに氷点下なサブい気温のなか「さっぽろ雪まつり」が始まったり終わったりして冬まっただ中であるいっぽう、沖縄では北海道日本ハムファイターズの選手たちが連日の練習で真っ黒に日焼けしたりしており、テレビのローカルニュース的には冬なんだか夏なんだかって感じで実にカオスです。WBC の開幕を控えて日ハム vs 阪神の練習試合なんてダルビッシュと藤川がほんのちょっと投げ合ったりしており、こうしてプロ野球熱は徐々に昂ぶっていきます。あとは WBC でボロ負けしたりしなきゃいいですね。


何日か前にダルビッシュが「 15 秒ルール」にブチギレしたというニュースがありました。「 15 秒ルール」というのは今シーズンから日本のプロ野球に導入されるという新ルールで、ざっくり申し上げると「試合時間短縮のために投手の投球動作を 15 秒以内に収めてネ☆ そして 15 秒を経過した場合『ボール』だぜ!!」というきむずかしいもの。

たしかに投手がダラダラまったり投球に時間を取るようなことが抑制されれば、いろいろ効率的なことではあります。ただ「 15 秒じゃ足りないよ」という意見も大いにありまくるわけで、実際ダルビッシュも練習段階で審判から幾度となくルール違反を指摘されたことによって、さっそくブチキレたらしいのです。こういうのはシーズン開始前のうちに試行錯誤の意味でどんどん声を上げていけばいいですね。


YouTubeプロ野球の昔の映像を見ることがままあります。昨日の夜中は「江川の全盛期のストレート」をさまざまな動画で堪能しました。もう打者の手元で伸びる伸びる。

で、江川は関係ないのですがそんな動画探索の途中で見つけた「 1983 年の巨人 vs 横浜大洋の開幕戦」というのが、少なくともぼくにとってはとても興味深い内容のものでした。

巨人の開幕投手西本聖。バッテリー間でのサイン交換のとき、キャッチャーの山倉と西本が手元のグラブをじっくり見つめます。グラブにはなにかペラ紙のようなものが貼り付けてある様子。スポーツニュースのキャスターが「乱数表を使ってのピッチングです」とか当たり前のことのように言います。

この「乱数表」を使っている光景に、正直ちょっと興奮しました。

昭和のプロ野球のサイン交換には、複数の数字が無作為に並べられた「乱数表」がどうやらごく自然と使用されていたようなのです。ぼくは 1978 年生まれなのでその存在だけは辛うじて知っていたものの、こうしてはっきりと映像で見るのは初めてのことでした。

wikipedia野球における乱数表

単純なサイン交換に比べて相手チームにサインを盗まれる確率が低くなるということで徐々にプロ野球界ではほぼ常識的に利用されるようになったが、(中略)年々複雑化していった。

もともとはサイン交換における「スパイ活動」(いやな響きですが)の防止策として導入された、という経緯があるようです。

しかしこの開幕戦の映像の翌年、1984 年の 6 月というシーズン途中に、当時のコミッショナーから「使用禁止」の通達が出て以来、プロ野球で乱数表が使用されることはまったく無くなりました。もしかしたらそれ以降も客の知らない極秘裏に怪しくおこなわれたりしてるのかも知れませんけど、少なくともこの映像の西本のように公認で表向きに堂々と、ということは皆無です。

乱数表の使用が禁止に至ったのは「ナイターで乱数表を見るための照明設備によけいなコストがかかる」という夢のない理由のほか「サイン交換に時間がかかりすぎるから」という理由もあるようです。なるほど実際見るからに時間かかりそう。また今見返してみるとグラブにいわば余剰物ともおもえる紙っぺらが貼ってあること自体が不自然で、逆によく公認されてたなって気持ちにもなります。


あれから 25 年。今や時代は「 15 秒ルール」ですよ。昔をふりかえってみると乱数表とか使ってじっくり超慎重にサイン交換をしていた時期が夢のようですね。めんどくさそうですけれど。

しかしいくらスピードアップのためとはいえ、サイン交換を簡易的なものにしてしまえば、投手の立場からすればとてつもなくリスクが大きいわけです。誰か彼かから見破られちゃう可能性も増すうえに、打者とのかけひきもままならない。メリットは皆無な気さえします。現代野球の申し子ダルビッシュがこのルールにブチキレするのはごもっともな話です。もうどんどんキレまくっていけばいいです。

ってことで、この「 15 秒ルール」、はたして定着するのでしょうか? それとも自然消滅的にうやむやになってしまうのか? これからシーズンが始まるにあたって、プロ野球界にますます波紋を広げていきそうですね。とおっさんのブログのように〆て今日の更新を終わります。