女子フィギュアスケート長洲未来のオリエンタルなスター性

バンクーバー冬季五輪の女子フィギュアスケートは超盛り上がったと思うんです。

日本人選手の周辺に焦点を絞っても、浅田真央vsキムヨナの少女漫画のようなライバル対決や、安藤美姫の常に悲愴感を纏っているかのような苦闘、鈴木明子摂食障害からの再スタートなど、それぞれ全部が一大トピックでした。

その影でちょっと気になっていたのが、「長洲未来」という選手に対する注目度の低さです。ぼくも四六時中チェックしてるわけではないんですが、五輪を扱ったテレビ番組で長洲未来が取りあげられる機会は、そう多くなかった。

もちろん出場はアメリカからなので、メダル争いにまで加わるとそのぶん日本の上位入賞の可能性が低くなります。テレビ的には「あえて」なるべく触れないように、長洲未来への言及を避けてきたのかも知れません。

ただ、長洲未来は生まれも育ちもアメリカですが、ご両親は日本人。顔の造作もアジアンテイスト。日本語も話せるそうです。ひとりの「日本人選手」という観点で考えると、ほっとくのはあまりにもったいないと思うんですよね。

なので今回の更新はやや判官贔屓的な意味も込めて、長洲未来のことをわかる範囲で書いてみます。プロフィール的なことはWikipediaでも見ればいいと思うので、なるべくそこに書いてある以外のことを記載するよう心がけます。

ぼく自身もごく最近知ったばかりなので、そのこと自体が申し訳ないという気持ちもあります。


24日のショートプログラムが終わって、1位がキム・ヨナ、2位が浅田真央、3位がロシェットという暫定的な順位がついていました。そしてメダル争いに決着がつく26日の女子フリープログラム。

くじびきで決まった滑走の順番は以下のとおりでした。

19 フラット(米) SP5位 
20 安藤美姫(日) SP4位
21 キムヨナ(韓) SP1位
22 浅田真央(日) SP2位
23 ロシェット(カ)SP3位
24 長洲未来(米) SP6位

ショートプログラム6位以内、メダル争い射程圏内の人たちが次々と並んだラスト枠。見どころが凝縮された楽しみな順番になっています。

実際このフリーの演技では、安藤美姫がいったん暫定1位につけたあと、キムヨナがとんでもない点数を叩き出して世界中が吃驚。瞬く間にトップに躍り出ます。続く期待の浅田真央トリプルアクセルを飛んだりしますが、惜しくもキムヨナには届きませんでした。

もうこの段階で日本人的にも競技的にも盛り上がりはクライマックスを迎えています。

その後のカナダのロシェットは地元開催などの理由もあって会場が一気に応援ムード。結果的にもキムヨナ、浅田に続いて3位に食い込みます。そしてあとひとりを残したこの時点で、浅田真央のメダルが確定したわけです。

……と、そんな流れで出てきたのがフリーの最終競技者である長洲未来でした。

試合前に注目株として見ていればまた別だったのですが、正直ぼくはただの消化試合というか、サブキャラだと思っていました。ましてや6位だったショートプログラムでは競技中に鼻血が出るというアクシデントに見舞われている。

そもそもアメリカからの出場なのに「長洲未来」と名前が完全に日本語で、何者なのかがよくわかっておらず、むしろ不気味な感覚すらあったんです。これは自分の勉強不足というのが大きいんですが。

ところが演技を見てからというもの、感情が激変します。

素人目から見てもスケートがすごく安定してる。表情も豊かでアピール力がある感じです。愛嬌に溢れているというか、もっと言っちゃえばスター性がある。実況のNHK刈屋アナもたしか「なんとも言えない華があります!」とかいい声で言ってた気がします。熟練のアナウンサーをして「なんとも言えない」と言わしめるほどの華。

そんな長洲未来。滑り終えて「4位」という結果でした。安藤美姫を抜いてしまった。

滑り終えたあとの待機中にカメラに向けて何ごとかをおそらく英語で捲し立てていた長洲未来本人は、その結果を知った瞬間、破顔一笑って感じでものすごく素直に喜びを表現。メダルには後一歩及ばなかったけど、そのときの表情もまた屈託がなかったりしていい雰囲気なのでした。

「屈託がない」ように見えるのもそのはず、国籍どころか年齢さえ不詳の存在でしたが、長洲未来はまだ「16歳」だったんですね。基本的なデータながらも実況中継で初めて知った事実です。

国についても両親が日本人ながら本人はアメリカ育ちという「二重国籍」で、20歳までは日米両方の国籍があるらしく、もしかすると20歳になったら日本国籍を取得して「日本代表」として次の2014年ソチオリンピックに出場する可能性があるらしいのですが、それは今のところまだわかりません。


おもしろい豆知識をひとつ教わりました。

いわゆるつんく♂ファミリーに「THEポッシボー」というアイドルユニットがあって、メンバー岡田ロビン翔子というアメリカ出身の16歳の女の子がいるんですが、このロビンが長洲未来アメリカ時代に友達だったという話です。超ピンポイントにしか伝わりそうにありませんが意外なつながり。日本で活躍するアイドルと交流があった。

世が世なら、たとえば安藤美姫が滑っているリンクで絢香が「I BELIEVE」を歌ったりすることがあったように、長洲未来が滑っているリンクでTHEポッシボーの5人が「いじわるCrazyLove」を歌い踊る、なんてカオスな場面が実現したりするのかも知れません。しないかも知れません。

ともかく世間は狭かった。

また長洲未来の本人のツイッターアカウント(http://twitter.com/mirai_nagasu)なんてのもあって、ほとんどが英語の書き込みの中に、ちょこちょこと日本語が混じっています。

明日に架かる橋
夢見てOKそれでOK
月日は矢の様に過ぎて思い出だけ綺麗になるそれだけじゃ寂しいのさ…

レミオロメンの「明日に架かる橋」の冒頭の歌詞を引用したりしていました。ちなみにこれはフリープログラムが始まる直前の書き込みです。

決して遠くの知らない誰かではなかったんですね。


長洲未来にとっては身体の急成長を克服してのバンクーバー五輪だったといいます。年齢的にもまだまだポテンシャルを秘めていそう。

女子フィギュアはこの五輪を終えて、キムヨナが金メダルを手土産に競技人生の第一線から退くとか退かないとかいう新局面を迎えているらしいですが、今回の4位という成績からすると、長洲未来が今後浅田真央の最大のライバルになる可能性は大きいのかも知れません。

要注目の、というかこれから自然と注目を浴びるようになる選手のひとりです。


最後にネットで拾ったいい写真

左から川口悠子長洲未来高橋大輔
でも国籍はそれぞれロシア、アメリカ、日本という不思議