「R-1ぐらんぷり」あべこうじが優勝をもぎとった構成力

ピン芸日本一を決める番組「R-1ぐらんぷり2010」(フジ系)が23日に放送され、3539名のエントリーの中から漫談のあべこうじが優勝をもぎとりました。

6度目の決勝進出にしてようやくつかみ取った栄冠です。実におめでたい。

今回決勝の生放送で披露された2本のネタはいずれも完成度の高いものでした。

ってことで以下にそんなあべこうじのネタを2本とも書き起こしてみます。テキストだけでニュアンスを再現するのは難しいのですが、あべこうじ流のいわゆる「ちょいウザ」な語りが発揮されたときは「w」で遊んでみました。

あと蛇足ながら長めの感想も付け加えましたのでよければご一緒にどうぞ。


○一本目



どうもーよろしくお願いしまーす!
あべこうじですよろしくどうぞー



最近ね、気をつけなくっちゃいけないなー
なんて思うことがあるんですよねー


それは言い方とかねテンションだったりね
なんでかっつったらやっぱり
「相手の取り方」とかがちょっと変わってきちゃって


「ドラマ」が変わっちゃうでしょ?
だからこれ言い方気をつけなきゃな、なんて思うんです


だってそうでしょ?
今ね「どうもー! あべこうじです!」なんて出てきたから
「あ、こいつ元気なんだな」って感じたでしょ?
「調子いいんだな」って感じた


これが
「(暗い表情で)どうも、あべこうじです・・・・」
だったら
「あれー?出てくるときウンコ踏んだのかなー?」
って思うじゃん


そーれは思わねーかw


いやでも実際言い方ひとつでドラマって変わっちゃうもんだよね



「ディズニーランド行くんだ!」


なんて楽しそうな言葉
いろんな人がディズニーランド行くよね
でもね本当にそういうのも含めなんだけど


「ディズニーランド行くんだ!」
「あ、友達と行くのかな? 彼女と行くのかな?」
とかって思うんだけど


これがね
「(沈鬱に)ディズニーランドに、行くんだ……」


「おぉ、聞かなきゃよかった……」みたいな
こっちがなんか気をつかっちゃうっていうかね


こんなのもあるよね
「どこ行くのー?」
「(ヘラヘラしながら)あ、俺?w 俺ディズニーランドw行くんだー」


これ行かないよね
完全にごまかしてるなーなんて思って
たぶんディズニーシーかな?


で、こんなのもあるよね


「どこ行くのー?」
「(野太い声で)ディズニーランドに行くんだ」


これに関しては大男w


あ、ごめんなんか急にやりたくなっちゃった
ぜんぜん(客が)ついてこなかった
アレ? どうしよう


でも本当に言い方ひとつでドラマ変わっちゃうからね



「どこ行くのー?」
なんて言われて
「(しらじらしく)ディズニーランド、行くの」


これ、愛人だよね


「え? まさか、私の主人と?」
「貴女の主人か知らないけど、私の愛している“あの人”と行くの」
「なんなのよ、この泥棒猫!」
「だったらしっかり首輪つけておけばよかったじゃない?」
「なんなのこの! 悪魔ー!」(引っ掻きながら)
「(引っ掻かれながら)あの人言ってたー。
『貴女のヒステリックなところが嫌いだ』ってー」


すっごい昼ドラが大好きw


ダメだよついつい見ちゃうんだもん
のめり込んじゃうよね
身近でありそうでなさそうでなさそうでありそう?
なんなんだろうね、あのドロドロ加減


……そんな話じゃなくない?


言い方ひとつでドラマが変わっちゃうって話だから
そうでしょう今



暗い言葉もあるよね


「ご愁傷さまです」


これもね
「……ご愁傷様です」
だったら
「あ、すごい大事な人亡くしたのかな」
って思わない? そうでしょ?


これが
「(軽薄に)ごしゅうしょうさまでーす!」
だったらなんかねー
「ごちそうさまでーす」になっちゃってるのかな
なんかわかんない
出てきた寿司食べ過ぎちゃったのかな?


「(しらじらしく)ご愁傷さまです」


これ愛人だよね


「なんなの? あんたどこまで来てんの」
「あんたどこまでって私の好きな“あの人”見送りに来ただけ」
「あんたのせいで…あの人…天国……」
「私のせいだっていうの?」
「なんなのよこの泥棒猫!」
「だったらしっかり首輪つけておけばよかったじゃない!」
「なんなのこの悪魔ー!」(引っ掻きながら)
「(引っ掻かれながら)あの人言ってたー。
『猫派より犬派だ』ってー」


すっごい昼ドラに出たいw


こういうタイプのキャラいてもいいかなーなんて思うんだよね
出たらね「この役やりたいな」って役があるんだけど…
それはまた別のお話! 気になるぅ!(すっぱい顔で)


でもほんと言い方ひとつでねドラマ変わっちゃう



身近なこともありますよ


「(車掌のマネで)駆け込み乗車はおやめください」


これもね
「駆け込み乗車wおーやめくださーい!www」
だったらすっごい駆け込むよ?
そうでしょ言い方ひとつでドラマ変わっちゃうから


これもあるよね
「(しらじらしく)駆け込み乗車はおやめください」


これ愛人だよね


「なんなのよ冗談じゃない!どこまで来てんのアンタ!
このー!カリカリカリ(引っ掻きながら)」


あ、これね、車掌室だから窓になってるの


「(窓を引っ掻かれながら)バン!(窓を叩く)」
カリカリ…(引っ掻くのをやめる)」
「……貴女に会うために、実はあの人に近づいたんだよ」
「カリ……」
「…………」


なんだこの展開w


でも気になっちゃって絶対明日見るでしょう?
いやほんっとに昼ドラはどうでもいいんだ話的には



違う
「言い方ひとつでドラマが変わる」ってことだから
みなさん言い方には十分気をつけて


エイチ・エー・ピー・ピー・ワイ・ライフ?
あ、「HAPPY」ライフを送ってちょうだい



以上、あべこうじでしたっ(しらじらしく)

【感想】
「言い方ひとつでドラマが変わる」をテーマに、「ディズニーランド行く」「ご愁傷様です」「駆け込み乗車はおやめください」という三つのフレーズをさまざまな言い方で展開していく。

鍵になるのは「昼ドラ」。結局はそれらのフレーズの言い方が最後はぜんぶ「愛人」になってしまう。

「ディズニーランド」のくだりの段階では、まだ「これ愛人だよね」の意味するところがよくわからない。ただ「愛人と本妻」を演じる一人二役の小芝居を挟んで最終的に「昼ドラに出たい」というキーワードを放つことによって、それが一種の「昼ドラあるある」であることに気づかされる。

引き続き「ご愁傷様です」に「愛人」が出てくるのはいわゆる「天丼」で、そのくだりが繰り返されることが既に一笑いになっている。また葬式という状況設定はより昼ドラにありがちであるあるとしての本領も発揮。特に「あの人言ってた。『猫派より犬派』だって」あたりのセリフはくだらないんだけど、本当に昼ドラのセリフにありそうだ。

そして「駆け込み乗車おやめください」という車掌の業務的な合図までさっきの「愛人」が言ってしまう。なんと「愛人が車掌」。こうなるとオチに向けて話を順当に「壊し」にかかっていると言っていい。

さらにあべこうじが紡いでいくドラマは、愛人(車掌)が本妻に対して「貴女に会うためにあの人に近づいた」というまさかの真実を打ち明ける怒濤の流れを見せていくわけだけど、ただしそれを演じているあべこうじ自身はふと冷静になって「なんだこの展開w」ときっちり一蹴してくれる。

縦軸に一本線のつながりがあるし、それぞれのパートに盛り上がり所をまぶしてもいる。小ネタとしても葬式に関連して「出てきた寿司食べすぎちゃった」という言葉が出てくるあたりは人生経験によるものだし、さりげない車掌のまねや昼ドラ展開での演技力もネタの完成度を下支えしている。



○二本目



よろしくどうぞー!



いやーあのほんとにですねストレスがねー
溜まっちゃってね
どうにもなんないなって思うことがあってね


本当だったら「そんなん知らんわー!」なんて言いたいけどね
言えないですよなかなかね
「そんなん知らんわー!」って言えたらどれだけスッキリするか
でも言えないから、なんかグッとストレス溜まっちゃって
「そんなん知らんわー!」って本当だったら言いたいけど
なかなか「そんなん知らんわー!」って言えないから


どうする?
歌おう?


みんなで歌っちゃえばいいと思うんだよね
「ドレミの歌」なんかいいですよ「さぁ歌いましょう」なんて
たださ、大人になってからなかなかドレミの歌を歌うことないですよね


そこでちょっとね思い返してみたんですよ
そしたら「おっかしいなー」なんて思ったんでね


いきますよ



ドは「ドーナツ」のドでしょ
レは「レモン」のレ
ミは「みんな」のミ


「あら、人(ひと)出てきちゃった」
ってなんない?
なんかそんな感じになんない?
「食いもんでくんのかなー」
って思ったら人出てきちゃった
「しかも大勢だよー」つって


そのあとファは「ファイト」のファだって
あれ? 待ってよと


だって
「ドーナツ」「レモン」「みんなで」「ファイト」


ママさんバレーだよコレ


そうでしょう? ねぇ


ソが最悪だよね
「♪ソーは青い空〜」だって
「ア」だよ
「ドレミファアラシド」だよ
ぜんぶ無視しちゃった今までのやつ


ほんで
「ラッパ」「しあわせ」「さぁ歌いましょう」
これねなんとなくわかるよね
「ラッパ」「しあわせ」「歌いましょう」
つながるなーなんて


たださ、なんか「ドーナツ」と「歌いましょう」がつながんなくない?
だって喉パサパサになる可能性があるじゃない?


しかも、最後「さぁ歌いましょう」と盛り上げといて
「♪ドレミファソラシド ドシラソファミレドー」だって


ぜんぶ無視
今までのどうしたんだい? 消えちゃったよ!


だったらさ
ぜんぶ食べ物にしていい感じにして
楽しくお届けできたらって思わない?


オーケー変えようぜ!



ドは「ドーナツ」のド
レは「レモン」のレ
ミは……好きなのいくからね
「みかん」でいいかい?ごめんね
時期的にもいいんじゃないか


ただちょっと
「柑橘系続いてるよ?」
みたいな空気だけやめて
その空気きらいだなー


ファは「ファジーネーブル」のファ
3つくるとは思わなかったw

まさか3つくるとは思わなかったでしょう


ド・レ・ミ・ファでしょ
ソはさっきのシステム利用しようよ
「ハンバーグときのこのソースのソー」
でもいいわけでしょ?
ソは「ハンバーグときのこのソースのソー」にするわ
オッケー?


ラ、どうしようかな
「ラーメン」とか「らっきょう」とかいろいろあるけど
ラはなんかそのときの、パッション?
「出たものに任せる」っていうのにしない?
オッケー?


ドレミラソラシ……
シ、どうしようかね
しじみでいいかい?どうする?
ちょっと地味だね
しじみ地味ー」なんて
上手く言ってそうで言えてないw
なんなんだろねー


オッケー
しじみ」のシにしよう
「♪シはしじみの」


……ダメだね、「しじみのシ」だったらね
しじみ死んだ」みたいになっちゃうもんね
そうでしょ?
はまぐりとかいろんなもんが葬式に来られたってね
「さぁ歌いましょう!」にならないから、これダメだね


「♪シはしらす干しー」にするわ
なんかグッときた。「♪しらす干しー」


それで「さぁ歌いましょう」でいい感じになるから
ちょっと見といて、いくよ?



♪ドは「ドーナツ」のドー
レは「レモン」のレー
ミは「みかん」のミー
ファは「ファジーネーブル」のファー


でしょ?


♪ソは「ハンバーグときのこのソース」のソー
でしょ?
♪ラは「ライム」のラー


だめだ柑橘系好きだねw


で♪シはしらす干しー
さぁ歌いましょうー



ここからよ?


♪おなかが空いたよー!どうしたもんかなー!



…はい(真顔で)


いやいや「アハハ」じゃない。「アハハ」じゃないですよ
今さチャンスだったんですよみなさんチャンス


だって「おなかが空いたよ どうしたもんかな」
って言ったあとにみんなよかったら


「そんなん知らんわ!」


って言ってくれたらよかったのに



どうもあべこうじでした

【感想】
オチで客が「あー!」と感嘆。

なにかといえば序盤のネタフリの段階で「ストレス溜まって『そんなん知らんわ!』って言いたいときあるよね」とさんざん強調している。「そんなん知らんわ!」を4回、すこしクドいほどに繰り返している。それがオチでもう一度生きてきたので「あー!」だったんですね。

正直最初ぼくはこのオチに気づかなかったんですけどネタを見直してみてなるほどと合点。あべこうじが「ストレス溜まっちゃってどうにもならない」と愚痴っておきながら、実はいちばん客にストレスを与えていたのは当のあべこうじ自身だった、という自虐的なブーメランでまとめているのだった。

本筋は「ドレミの歌」の改変に終始している。古典的なテーマ設定だしよくもわるくも品行方正だとは思う。「漫談の教科書」みたいなものがあれば絶対載ってそう。

ただしもちろん工夫は凝らしてあって、最大の効果を挙げていたと思うのは、あえて途中で巧妙に言葉を濁したり、そっけない言い方をすることで、のちの連爆につなげている事。

たとえば「柑橘系」のくだり。デフォルトの歌詞にある「レモン」のあとの「ミ」に、軽快に「みかん」を提案して柑橘系が続いちゃう、というコンビネーションが、まずある。

これをいったん客にさりげなく、くすぐりレベルで意識させておく。そしてその後のファで「ファジーネーブル」という単語を出すことでドレミの歌に「柑橘系」がまさかの3つ目! 理詰めかつ豪快なたたみかけだった。

さらに凄いのは「ラ」のくだり。あべこうじは慌てず欲張らず、いったん「ラ」を提案する段階であえて具体例を呈示せず「そのときのパッション?出たものに任せるっていうふうにしない?」といったん結論を先延ばしにする。

ところが後であらためて歌ったドレミの歌で「ラ」の部分に出現したのは「ライム」。みんなが忘れたころにもう一個ダメ押しで柑橘系! そんな驚きがとどめだったような気がする。

しじみの死」とか随所で小さな笑いを稼ぎつつ、全体を俯瞰して、大きな連鎖を成功させる。そんなあべこうじのネタ運びは、テトリスぷよぷよに代表される「落ちゲー」のように爽快だ。