3 日深夜に放送された TBS ラジオ「火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ」の「私はこういう者です(嘘あり)」コーナーで、立川談志にまつわるいい話が聞けました。
このコーナーは、リスナーが投稿した「私はこういう者です」という自己紹介や体験談などについて、その内容が「本当かウソか」を田中裕二が二択で回答するというもの。絶妙なラインで仕掛けてくる投稿の真贋を見極めよう、と推論をコツコツ積み重ねていく田中のきまじめさや山ッ気が面白いです。
最初に太田光がリスナーからの「私はこういう者です」という投稿を読みます。
これを読んでる時点ではリスナーや田中はその投稿内容が本当なのかウソなのかわかりません。
少しだけ僕の話を聞いてください。
僕は、日比谷線の中で、あの立川談志師匠に時間を聞かれた上に、人生のアドバイスまで頂いた男です。
もうかれこれ 3,4 年前の話になりますが、取引先に向かっている途中、電車の中で本を読んでいた僕。
突然、妙齢の男性に声をかけられました。
「すいませんが今何時ですかね?」
なんだか妙に聞いたことのある声。
僕は立川談志全集はもちろん、高座 DVD もすべて持っているほどのファンだったので
「なんだか師匠の声に似てるなぁ……」
と思いながら、なにげなく顔をあげると、そこには紛れもない立川談志師匠!
マジかよ! と思いつつ、聞かれたのは時間だったので、
「えっと、17 時 30 分です」
と答えると、あのセクシーなしゃがれ声で
「あーどうもありがとう」
と師匠。
……これは千載一遇のチャンス!
失礼を承知で話し掛けました
「あ、家元……いや、立川談志師匠ですよね?」
「えぇそうですヨ」
「あぁ! 握手してもらっていいですか!」
「ハイヨ」
あまりに気さくな対応。
緊張は少し飛び、一方的に話し続けました。
「えっと、去年えっと……『談志×談志レボリューション』行きました!」
(※「談志×談志レボリューション」は実際に行われた独演会のタイトル)
「そりゃまた随分前だねぇ(笑)」
「あぁ、ハイ……」
なんていう、とりとめのない会話をしているうちに、日比谷駅へ。
「あぁ、着いた。アンちゃんも好きなことやりなヨ」
「はい!」
ちょっと仕事に行き詰まっていた僕は、ほんの 10 分くらいの事でしたが、
これ以上ないアドバイスと心に留め、後日、転職をしました。
で、この特異なエピソードが「本当かウソか」というコーナーの流れです。
以下、田中による緻密な推理です(がわりとどうでもいいです)。
これは本当であって欲しいというか。
これウソだと、ちょっとガッカリしちゃう感じありますね。
これ本当じゃねぇの? ていうか本当であって欲しい。
(太田「そんなこと言いますかね? 師匠」)
いや言いそうじゃない? 時間を聞くのはありそうでしょう?
(太田「時計はしてないからね」)
絶対「すいませんが」って聞いて「ありがとう」って言うでしょうから。
それは想像で書くことが出来るとして、
「『談志×談志レボリューション』行きました」
「そりゃまた随分前だねぇ」
って、これがリアルでしょう?
これ作り話だとするじゃない?
「去年」でしょ? 「去年『談志×談志レボリューション』行きました」って言ったんだよねこの人。
これ作り話でやって、たとえばファンでもないとするじゃない? 何かで調べたとするじゃない?
で、これ(談志の)リアクションをウソで作るよね。
そのときに「あぁそうなんだ、ありがとうね」という答えを書くならわかるんだよ。
これが「随分前だねぇ」って、ちょっと意外な答えじゃない?
だって「去年」だもん。「そりゃまた随分前だねぇ」って
そんな答えは考えつかないんだよウソとして。
これリアルでそういうこと言ったんだね談志師匠は。
だからこれは本当だよ。全集を持ってるだけではなく、なんだっけ、DVD(も持ってる)。
これ本当にそうなんじゃないの?
で、「アンちゃんも好きなことやりなよ」。
これはねー、もしウソだとしたら本当に談志師匠ファンですげぇ詳しい人だってことになるから、
これ本当だ。本当。
で、正解は「本当」でした
実話だったのです。
リスナーの投稿には続きがありました。
本当です。
後日、また独演会でサイン会をされたとき、ダメもとで
「あのときの男です!」
と話し掛けたら
「おぉ、電車の中の! どう、好きにやってる?」
と覚えていてくれました。
(田中「うわーすげぇ」)
勝手に僕にとっても人生の師匠と思って生きてます。
(田中「これはすごい」)
家元に言われたこともあり、今では好きなことを仕事にして生きています。
大ファンの立川談志に電車のなかでたまたま遭遇した上、時間を尋ねられ、そのチャンスに会話することが出来て、あまつさえ人生のアドバイスまでもらってしまい、談志本人に後日そのことを問うてみたら自分のことをちゃんと覚えていてくれた―――。
ひょっとすると世の中にはよく転がってる類のエピソードなのかも知れません。でもファン当人からしてみると人生を左右する一大事にもなりかねないわけで、実際このリスナーも、談志からの「これ以上ないアドバイス」によって転職したのだといいます。
ぼくは立川談志の高座を一度だけナマ観覧したことある程度のしょぼファンですし、氏の人間性についてもまったく諮りかねていますが、こういうファン目線のほんのちょっとしたミーハー話は、もう単純に大好きです。